フィリップ・マーロウの教える生き方

私立探偵フィリップ・マーロウの名言を、マーティン・アッシャーという方がピックアップし、村上春樹さんが翻訳したもの。
その中でも僕が特に気に入ったものを以下に掲載しました(刊行順)。
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『大いなる眠り』より
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「あなたは私がこれまで会った中では、誰よりも冷たい血を持った獣よ、マーロウ。それともフィルって呼んでいいのかしら?」
「もちろん」
「私のことはヴィヴィアンって呼んでいいのよ」
「ありがとう、ミセス・リーガン」
「あんたなんかくたばればいいのよ、マーロウ」
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『さよなら、愛しい人』より
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「警官というのは普通の人間なの」と彼女はどうでもよさそうに言った。
「連中もそういう地点からスタートするという話を耳にしたことがある」
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「だいたいそのヘミングウェイって誰なんだ?」
「おんなじことを何度も何度も繰り返して言うやつだ。そのうちにそれは素晴らしいことなんだと、こっちも考えるようになる」
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『高い窓』より
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我々が芝生を横切って近づいていくと、女は気怠そうにこちらに目を向けた。十メートル手前から見ると、とびっきりの一級品に見えた。三メートル手前から見ると、彼女は十メートル手前から眺めるべくこしらえられていることがわかった。
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『水底の女』より
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「私立探偵が一人、おれはそれしきのものに煩わされたりはしないよ」と彼は言った。
「そうだろうか。私立探偵というのはたった一人でもけっこう厄介なものだぜ。なにしろしつこいし、肘鉄砲をくわされるのには馴れっこになっている。時間で雇われており、その時間を目いっぱい使って、君をいたるところから煩わせることができる」
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『リトル・シスター』より
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時計の針さえ止めてしまいそうなご面相だったというのは彼女に対する侮辱になるだろう。それは暴走する馬だって止められただろうから。
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「兄の身に何かが起こったと言いたいの?」、彼女の声はだんだんすぼんで、悲しげな囁きのようになった。まるで葬儀屋が前払い金を求めるときのように。
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『ロング・グッドバイ』より
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間に入るコマーシャルときたら、鉄条網とビール瓶の破片を餌に育てられた山羊たちでさえ、身体を壊してしまいそうな代物だった。
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「私は酒は飲みません。酒を飲む人の姿を見るたびに、酒を飲まなくてよかったと痛感させられる」
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私はブラックでコーヒーを二杯飲んだ。煙草も試してみた。まともな味がした。とりあえず人間として機能しているらしい。
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私はキッチンに行ってコーヒーを作った。大量のコーヒーを。深く強く、火傷しそうなほど熱くて苦く、情けを知らず、心のねじくれたコーヒーを。それはくたびれた男の血液となる。
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「警官というのは脳腫瘍の患者にアスピリンを与える医者のようなものだ。もっとも現場の警官は治療のためにブラックジャックを使いそうだがな」
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テリー・レノックスは私にさんざん面倒をかけてくれた。しかし考えてみれば、面倒を引き受けるのが私の飯のたねではないか。
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そのようにして私立探偵の一日が過ぎていった。典型的な一日というわけでもないが、それほど特殊な一日ともいえない。どうしてこんな商売を続けているのか、自分でもよくわからない。金持ちになれるわけでもないし、愉しいことがそうそうあるわけでもない。
ときには叩きのめされたり、銃で撃たれたり、留置場に放り込まれたりもする。こんなことを続けていたら、とても長生きはできないだろう。二ヵ月に一度くらいは、この商売から足を洗おうと決心する。まだ頭をしっかり上げて歩けるうちに、もう少し気の利いた仕事を見つけようと。ところがそのときドアのブザーが鳴る。待合室とのあいだのドアを開けると、見知らぬ誰かがそこに立っている。その誰かは新手の問題を抱え、新手の悲しみを背負い、ささやかな金を手にしている。
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『プレイバック』より
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「これほど厳しい心を持った人が、どうしてこれほど優しくなれるのかしら?」、彼女は感心したように尋ねた。
「厳しい心を持たずに生きのびてはいけない。優しくなれないようなら、生きるに値しない」
(If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive)
