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アキラの青春物語 第21話


第21話:初デート  
〜みなとみらい、背伸びの一日〜

7月の初旬。
ミホとの初デートの日が来た。

たしか平日で、学校が休みの日だった。

“平日にデート”ってだけで、なんだか大人になった気がする。

でも前日の俺は、急に現実に引き戻されていた。

(やばい……俺、服がない)

今まで服に無頓着だった。

私服にこだわる余裕なんてなかったし、
制服で十分だった。

クローゼットを開けても、
出てくるのは“無難”の集合体。

結局、Tシャツにジーパン。

それしか選べない自分が、
妙に頼りなく見えた。

それでも、布団に入ると妄想は始まる。

大人っぽいデート。
スマートな会話。
余裕のある男。

……そんな理想だけを頭に並べて、俺は眠った。



当日。
みなとみらいで待つ時間は、
胸が落ち着かなかった。

人の流れも、風の匂いも、
全部が“特別”に感じる。



そして——ミホが来た。

笑顔。

その瞬間、目を奪われた。

相変わらず綺麗な黒髪。

でも光が当たると、艶がふわっと明るく見えて、ブロンドみたいに揺れる。

(やばい……)

心臓が一段上の音を出した。

「おはよ」

ミホはいつも通りの顔で、
でも今日は私服で、
少し大人びて見えた。

オシャレで、
街に馴染んでいて、
眩しかった。

(こんな子が……俺の彼女?)

嬉しさがこみ上げて、
口元が勝手にゆるむ。

でもニヤけるのが怖くて、
俺は慌てて“カッコつけた挨拶”を作る。

「……待った?」

「全然」

待った。めちゃくちゃ待った。
でも、言えない。

こういうところで余裕ぶるのが、
俺の中の“デート像”だった。


動く歩道を並んで歩く。
隣にミホがいるだけで、景色が変わる。


俺は目的地を口にした。
「ランドマーク行こ」

「うん」

展望台。
俺は昔から、変な思い込みがあった。

「デートは高いところから景色を見せて楽しませるもの」

なぜか、それが正解だと思っていた。

理由は、単純だった。
テレビとか、雑誌とか、CMとか。
キレイな夜景を背景に、ワインで乾杯して、

「君の瞳に乾杯」

そんなセリフを言う男が、めちゃくちゃカッコよく見えた。

(俺も言ってみたい)
(いや、言えないけど)
(でも、そういう男になりたい)

本気で思っていた。

中学生の頃から、ずっと。

今思い返すと恥ずかしい。。。

大人になったアキラとミホ




展望台に上がる。
街がミニチュアみたいに広がる。

「すご……」

ミホが小さく言った。

その横顔で、
俺はもう“成功”を確信する。

二人で窓に張り付いて、
家を探したり、
学校が見えるか探したり、
くだらないのに、
妙に盛り上がった。

肩が触れそうで触れない距離。

手をつなぎたい気持ちは、
何度も浮かぶ。

でも俺は、その一歩がまだ怖い。

(まだ早い?)
(焦ったらダメ?)
(でも……つなぎたい)

自分の気持ちがうるさくて、
景色より心臓のほうが目立っていた。



お昼はマック。
“背伸び”じゃなくても、ちゃんと楽しい。

ミホはよく話す。

気を許した相手には、
ぽんぽん言葉が出てくる。

今日のことも、
学校のことも、
友達のことも。
話題が尽きないから、
俺もどんどん緊張がほどけていった。




食後は臨港パークを散歩。

海風と、船と、ベイブリッジ。
景色を見ながら、思い出話が自然に出てくる。

(……今、手をつなげるんじゃないか)

何度もチャンスはあった。
でも勇気が出ない。

手を伸ばすだけなのに、それができない。

そして観覧車。

大きな時計みたいなやつ。
ゴンドラが上がっていく。

景色がまた広がる。

……俺はまた、
昔の妄想を思い出していた。

「頂上でキス」


そんな、いかにもなやつ。
一回くらい、やってみたい。
大人みたいになりたい。


でも現実の俺たちは、
キスの空気にならない。

むしろずっとしゃべって、
笑って、
景色を見て、
またしゃべる。


その流れの中で、ミホが言った。

「ねえ、次のデートさ……どこ行く?」


次のデート。
その言葉だけで、
俺の胸の中に火がついた。

「……夏、花火大会とか行きたい」

「いいね!横浜の花火、行こうよ」

横浜の花火大会。

“次”が決まった瞬間、
初デートがもう“思い出”じゃなくなった。

未来の予定になった。

(また会える)
(また一緒に歩ける)
(次は……手、いけるかもしれない)

そんなことを考えていた。



夕方。

「真面目なカップルは夕飯までに帰る」
そんな空気で、横浜駅で別れる。

改札の前で、ミホが笑う。

「今日、楽しかった」
「俺も」

本当は、まだ帰りたくなかった。

でも言えない。

今日の俺は、
まだ“背伸び”の途中だった。

家に帰ってから、
ミホから電話が来た。

「今日、楽しかったよね」

またおしゃべり。

今日の景色の話。
観覧車の話。
次の花火の話。
気づけば頭の中はミホ一色。

彼女がいる生活って、
こんなに違うんだと思った。

初デートは終わった。

俺の青春はここから加速していく。

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