小説mimiストーリー「横丁のげんさん」

僕の家からひぃふぅみぃ、四つ数えた角の風呂屋に毎日げんさんは通う。
げんさんの背中には、もんもんシャレたいいかたをすれば
タトゥーが入っとる。
ただもんもんが入っとるだけならそんなにびっくりせぇへんねやけど、
げんさんは股にみかんでも挟んだみたいな歩き方をする。
やくざでおかまのげんさんのことを、
じぃちゃんに話すと、
「事実は小説より奇なるもんじゃ」
と、ようかんでべとついた指をねぶりねぶりいうもんやから、
僕もそうかとうなずいた。

僕のうちから数えて、ひぃふぅみぃ四つ数えた角の風呂屋に
今日も僕は行った
緑色のちいさな椅子に座ると丸い取っ手の蛇口を押す
赤いのんと青いのんとガッと押すと水か湯がびじゅーっと出よる
今日も僕は、色のない海でぷかぷかとタコのように浮かんでいると、
股にみかんのげんさんがやってきた!
内股歩きのまま空いた椅子へ座るぬさんを急いで目で追う

泡のついた手ぬぐいをのばして
くねりくねりと体を洗うげんさんに
ーやっぱり、おかまかー
と、うなずいた。

夕方の男湯はにぎわいをみせ
鮮やかな青と白で描かれた富士山の絵を前に湯船は客たちでいっぱいに
なる。
うーむと奇妙なうなり声をあげて湯につかるげんさんの隣で
僕はちいさく首をすくめる。
そろそろと立ち上がったげんさんの股の間ででかいそいつがぷるるんと揺れた。

やくざでおかまのげんさんとは口をきいたこともあれへんし、
ほんまにげんさんがやくざでおかまなのかも僕は知らない。
ただ、げんさんと呼ばれてて番頭のおじさんと話しをしているのを
見たことがあるだけだ。
洗い場から出たあとに、
瓶入りの牛乳をおちょぼ口で飲むげんさんを真似て、
僕も口をちいさくすぼめるようにして牛乳を飲む
そうやってあごに垂れた牛乳を手でぬぐって満足げにうなずいた。

僕の家から数えてひぃふぅみぃ四つ数えた角の風呂屋に通うげんさんが
旅芸人だったことを知ったのは、それからずっと後のこと。
うまかったあずきのアイスもビー玉入りののラムネも遠い日の記憶となってしまったが、
いまでもあの角を曲がると、ひよっこりとげんさんを追いまわしていた
10歳の僕にばったりと会える気がしてならない

-END-

いいなと思ったら応援しよう!