ニッポンの世界史#46 1980年代のまとめ
補遺: 歴史が国民的教養だった時代に
1987年に放送されたNHK大河ドラマ《独眼竜政宗》は、平均視聴率39.7%という大河ドラマ史上最高の視聴率を記録した。

1970年代に小説や歴史雑誌を中心に花開いた教養主義的な歴史ブームは、ここに一つの頂点を迎えたといえよう。
また、1986年にTBS系列で放送を開始した『日立 世界ふしぎ発見!』は、初回放送で古代エジプト文明を特集し、以降もエジプトに関する特集を90回以上放送しました。特にエジプト考古学者の吉村作治氏との連携は深く、彼の調査活動は番組の定番となりました。プロデューサーの重延浩氏は「歴史と遊ぶ」というコンセプトを掲げ、クイズ形式を取り入れることで、視聴者の知的好奇心を刺激し、歴史を楽しむ文化へと変換することを目指しました。(ウィキペディア)。
東京国立博物館では、1988年には大エジプト展 (4月26日(火)~6月12日(日))が開催され、ブームを盛り上げた。

また、シルクロードブームも続いていた。
1980年、東京国立博物館では特別展「シルクロード展」が開かれ、中央アジアや西アジアの貴重な文化財が一堂に集められた。シルクロードを介した東西文化の交流が鮮やかに紹介され、同年にNHKが放送を開始したドキュメンタリー番組『シルクロード』とも相まって、日本国内での関心を一気に高める契機となった。
さらに1988年には、特別展「シルクロード大美術展」が開催され、仏教美術や装飾品、絹織物など、沿線各地の多様な文化遺産が展示され、東西文化の交差点としての意義が改めて強調されている。
1988年にはNHK特集「海のシルクロード」シリーズが、1989年にかけてテレビ放映されている。
https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0009010344_00000
1980年代のニッポンの世界史
そのあたりを補遺として確認したところで、1980年代のニッポンの世界史の動向を一覧にまとめておこう。

まず注目したいのは、「世界史離れ」への危機感が、入試や高校教育の問題にとどまらず、国際化に対応する「国際人」育成の観点から、右派によっても提起された点である。
一方で左派にも、世界史軽視への懸念はあった。マルクス主義的歴史観が力を失い、社会主義そのものに疑念が広がるなかで、社会史への関心が高まっていた。しかし、左派の動きは大きな必修化運動にはならなかった。世界史と日本史を切り離して論じることは、戦後に成立した「社会科」の枠組みを揺るがしかねない、という警戒もあったからだ。
結果として、中曽根康弘首相と、これを後押しした木村尚三郎ら保守系の議論が、政治の力で世界史必修化を実現させた。ここで誤解してはならないのは、必修化が「日本史軽視」を意味するものではなかった点である。むしろ、世界史を学ぶことが日本の国力を高める――そんな期待が込められていた。
実際、1980年代は日本の国際的プレゼンスが急上昇した時代だ。「このまま日本が文明の主導権を握るのでは」という高揚感のなかで、文明史への関心が高まった。これを吸い上げたのが比較文明学会である。伊東俊太郎を中心に、西洋中心主義を超え、文明をフラットに見る視点が模索された。梅棹忠夫らも加わり、理系的な客観性で人類史を捉えようとする当時特有の多幸感がそこにはあった。
さらに、1970年代の教養主義的ブームを継ぎ、財界からも「世界史をビジネスに生かそう」という声が上がった。堺屋太一がその代表で、世界史を経済や政治に活用するという視点は、文化を学ぶものという従来のイメージを超える新鮮さを持って受け入れられた。
そして1980年代には、世界史を題材にした学習漫画が登場する。手塚治虫が監修したシリーズをはじめ、少女漫画家たちも歴史作品を描き、80年代半ば以降は世界史をモチーフにしたテレビゲームも現れた。
ただし、この時代はまだ、西洋史と東洋史の区分を超えて世界史を統合的に語る動きには至っていない。マルクス主義的歴史観の失効後、新しい世界史像はまだ模索段階にあった。ウォーラーステインの世界システム論などが広く知られるのは1990年代以降である。
結果として、当時の「世界史」は、体系だった叙述よりも、興味に応じて切り取られた断片やモチーフとして消費されていた。そして「日本史」と「世界史」をつなぐナラティブも、まだ脆弱なままだったのである。
こうした課題や動向は、1990年代に入ると、一気にゲームチェンジを迎えることになる。
たとえば、マルクス主義の失効とウォーラーステインの受容、「世界史の中の日本文明」叙述の試み、そして文明の衝突論の世界史構成への接合、さらには環境史をめぐる右派・左派のせめぎ合い、歴史修正主義の台頭など、さまざまな新しい論点が登場する。
では、この後、その1990年代を続けて見ていくことにしよう。
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