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『アルカディア航路』試し読み③|四月十一日(土)20:34 薄曇り

 四月十一日(土)20:34 薄曇り
 カリカリと芯が鳴り、シャーペンの先が紙の端で止まった。背中に痛みが走り、上体を起こす。いびつな数式で埋まったノート。欄外はもうない。計算結果を眺めながら、剛也は小さく息を吐いた。熱浴に接した量子多体系、そのシュレーディンガー方程式が解けないことを前提に、熱浴や粒子間の相互作用の条件から熱力学第二法則を導こうとするのだが、前提が一般的すぎると手も足も出ず、それではと、特殊な前提を置くと結論のための問題設定となって、何のためになにを計算しているのか分からなくなってしまう。
「やっぱ難しいなぁ」
 剛也は座椅子にもたれかかった。右後ろに顔を向け、枕元にある置き時計を見る。二十時三十六分。もうこんな時間か。剛也は弱りきった顔を上げた。天井の木目を眺める。せっかくの休日だってのに全く進展がない。平日は会社帰りでバタンキューばっかで、だから休日追い上げようと思ってたのに、一時間半以上同じところで立ち往生してる。ワインなんか飲むんじゃなかった。頭の芯がぼーっとする。こんなんなら素直に遊びに行っとけばよかった。はぁーあ。ため息をついた剛也の頭に、肩車されたときの風景が浮かんだ。ワクワクしたなあ、ただの散歩のつもりだったのに。剛也はにんまりした。あんな気持ちになったの久しぶりだ。昔はよく行ったもんな。剛也は六年ほど前、大学時代に通ったオールナイトのDJイベントの光景を思い浮かべた。大学二年に上がったばかりの頃だ。ビルの七階にあるフロアに千人とか詰めかけて、誰も彼もガン踊りするもんだから床がトランポリンみたいに揺れてた。月一くらいで開催されるライブ付きDJイベント。最初んときはリバティーンズ目当てで、それからもライブが観たくて通ったけど、いつかDJの方が楽しみになった。どの曲をどんな風にかけるのか、ワクワクしながら踊ってたっけ。タイキの店もあんなかな?
 剛也は大きく息を吸い込んだ。次いで吐き出しながら上体を前傾させる。論文とノートを左に寄せ、右前方からノートパソコンを引き寄せて開いた。画面を見る。背景は黒で一番上に店名のロゴ、その下左側に店の概要、右側に地図がある。タイキに教えてもらった店のホームページ。帰ってきてすぐ調べたものの、研究が終わってからと見るのを我慢していた。剛也は店の概要に目を向けた。『六十年代から最新のロックまで幅広く流れる』『ロックバーだがクラブみたいに音が馬鹿デカい』『月曜日から土曜日まで十九時から翌五時までオールナイトで営業中』といった文言を難しい顔をして読み、それから右横にある地図を見た。タイキが言っていた通り、新宿駅からかなり離れた場所にある。うーんと唸り声を上げ、剛也は画面を下にスクロールした。DJとスタッフの顔写真、その右横に紹介文が掲載されている。写真に目を向けると一人だけ女がいる。桜庭真奈美という名前で、ギャルメイクなのか、茶髪の長髪、眉毛は細く目の周りが黒っぽくなっていた。剛也は首を捻った。どう見ても二十代なのにこの人が店長? 他の人も二十代か、あるいは三十代前半? いや、この人だけ違う。町田五月という名前の横にある写真を見ると、黒い中折れ帽を被った中年と思われる男だった。つぶらな瞳、どこかで見たような。と、ハッとした。河川敷にいた男だ。暑いのに全身黒ずくめで何か回してた。DJだったのか。順番を待ってた?
 剛也は画面から顔を上げた。少しの間前方の壁に目を向け、また画面を見たが紹介文を読む気が起きず、画面を下にスクロールした。曜日ごとの担当DJの割り振り表がある。月曜から土曜まで、曜日の横に一日二人ずつ名前があった。しかし五人しかいないためだろう、一人で複数の曜日を担当している人ばかりだ。剛也はまたうーんと唸り、新しくタブを開いた。ツイッターのページに移動し、『冬樹晴人』と検索する。冬樹教授のツイートがずらりと表示された。最新のツイートを確認するが、今日のはないようだ。剛也は残念そうな顔をしてノートパソコンを閉じ、それをちゃぶ台の右上に移動させると再度置き時計に目をやった。二十時五十一分。
「さあやりますか」
 そう口にしてちゃぶ台に向かったとき、右下の畳の上にある論文が目に入った。手に取って表紙を見ると、端々に付着した茶色い汚れが気にかかる。チョコレート? 元からこんなだったかな? 剛也は疑問に思い、論文を受け取ったときのことを思い起こした。大学三年の夏休み前だった。週一、二回部屋に通うのが習慣になってて、ようやく冬樹さんが出題する問題に対応できるようになったころ。もっと難しい問題ないんすか、なんて言ったんだ。冬樹さんはいたずらっぽく微笑んだ。そうかそうか、じゃあとっておきのやつをやろうって、渡してきたのがこの論文だった。量子力学から熱力学第二法則を導くという目標に向けた、冬樹さんの研究成果と先行研究がまとめられたレビュー論文。あのときは真っ白だった気がするけど、気のせいかな? 思い出せない。嬉しかったな、認められた気がして。それでニヤニヤしながらページをめくってたら言われたんだ。それ読んでちょっとでもオリジナルな結果を出してみな、学者目指してるんだろ? それから必死で取り組んで、でも何の成果も出せないまま卒業することになった。
「あれから三年」
 剛也はそう呟き、頭の中で続けた。ようやく結果が出せそうなんだ。あそこ一か所、あの難所さえ乗り越えたら会いに行ける。これを自分がやりましたって、胸を張って誇れるような結果を示せる。前園研では出せなかった結果。あそこは地獄だった。海本だけだ、まともに話したのは。あ、海本。
 剛也は慌てて置き時計に目をやった。二十一時を回っている。
「ヤバい、もう来る」
 剛也はさっと立ち上がり、周囲を見回した。前方にはちゃぶ台、左を向けば畳の上にCDラジカセといくつものCDの山があり、右を向けばすぐ横に遮光カーテンがある。振り向けば布団が敷かれていた。とても人を迎える部屋じゃない。剛也は苦笑いしたが、そのときドアをノックする音がした。
「ちょっと待って」
 剛也は左に顔を向けて声を張った。次いで布団を畳んで部屋の奥——枕元の方に寄せ、布団で隠れていた畳が半分露わになると、その感触を確かめるように足の裏を滑らせた。よし、トゲはない。剛也は軽く頷き、布団スペースのすぐ横にある玄関に向かった。鍵を開けてドアを開くと笑顔の海本が立っていた。太い眉毛にくりくりした目、肌の黒さと対照的な白い歯は何度見ても不気味な感じがする。無地の黒いTシャツに薄手のパーカーを重ね着して、下は灰色のスウェットパンツという剛也と同じような格好だった。手にはプラスチックの風呂桶を持っている。中にはバスタオルとハンドタオル、それにボクサーパンツが入っていた。
 剛也の横から部屋の中を覗き込み、海本は口を開いた。
「大丈夫? エロい動画でも見てたんじゃない?」
「お前じゃないから」剛也は苛ついた口調で返す。「研究してたの、物理の研究」
「おおそう、挫折したのにえらいもんだな」涼しい顔で海本は言った。
「挫折はしてない」
 一字ずつ区切るように剛也は言ったが海本は取り合わず、お邪魔します、と口にすると玄関にスリッパを脱ぎ捨て、剛也を押しのけて入ってきた。畳の上に立ち、周囲を見回してから海本は言った。「ひっでぇーな、もうちっと整理整頓しろよ」
「挫折じゃないって何度言ったらわかるんだ」
 海本の言葉に耳を貸さず、剛也が苛立った口調で返すとけむたそうに海本は言った。
「へいへい」
「研究室にいると詰まんない研究ばっかさせられるから辞めたって言ったろ」剛也はいきり立ったが、海本は嫌そうな顔をして視線を上向けた。馬鹿にしやがって。海本に鋭い視線を向け、剛也は付け足した。「おい、大学院にいないと研究できないって、そう思ってる? アインシュタインだって特許局で働きながら結果を出したろ?」
「わーたわーた」うるさそうに海本は言う。「すっごいねぇー、アインシュタインさん。知り合えて光栄です、後でサインくださいね。そんでもって有名になってください。高値で売れるように」
 剛也は海本を睨みつけた。こういう人を食った態度、修士のときからちっとも変わらない。研究室で初めて会ったときからそう。いきなり英語で話し出して、こっちが驚いて拙い英語でなんとか自己紹介しようとしたら、ビビりました? フィリピンの人とか思ったでしょ? だもんな。ふてぶてしいというか、ずうずうしいというか。まあそのおかげで就職できたんだけど。
「でもいいなこの部屋」室内を眺めながら海本は言った。「畳が新しくてすんげぇーいい匂い」
「おう、そこに座って」と畳を指さして指示し、それから座椅子まで移動して玄関の方に体を向け、腰を下ろすと剛也は訊いた。「そっちは違うの?」
「違う違う。この前来たじゃんか」
 剛也は難しい顔をした。海本の部屋へ遊びに行ったときのことを思い出すが、畳の匂いがしたかどうか覚えていない。
「いいなあ、三輪だけ特別扱いで」
「そうなの?」剛也は目を見開いた。
「当たり前だろ。どの部屋も新しい畳からスタートとか思ってる?」剛也は大きく頷いたが海本は鼻で笑い、さらに続けた。「俺の部屋の畳なんか入寮からずっとオンボロよ。気づけよ、そんくらい。それに三階の角部屋なんて、建物全体でみてもキングだろ。期待されてんね、大型新人さん」
 剛也は弱った顔をして首を傾げた。大型新人なんて何であの人言ったんだろ? 嫌な記憶が頭を過る。博士課程一年だった去年の夏、指導教官に中退を報告して一週間くらい経った頃、誰から訊いたのか海本からメールが来た。二月初旬に開催された修士論文発表会のあと、一週間くらいは修士論文の手直しで研究室に顔を見せていた海本だったが、それからはぱたりと大学に来なくなって、連絡もとっていなかったから、半年ぶりのメールに剛也は驚いた。たった二行だった。お前挫折したらしいな。職探しは任せとけ。その強引な内容に、挫折じゃねぇーし、どういうこと? もう就職活動開始してんだけど、と剛也は返したが返事はなく、いたずらか何かだと思っていたらその週末に次のメールが来た。俺とお前と会社の人事の三人で飲むことになったからよろしく。剛也は信じられなかった。エントリーシートも何も書いていないのに、なんでいきなり人事なのか? しかし半信半疑で指定された吉祥寺の居酒屋に向かうと、スーツ姿の男が待っていた。高そうなネクタイをして、頭をポマードでオールバックに固めた清潔感のある中年男性。海本君から聞きました、その頭脳をうちの会社で生かしてください、海本君と一緒にうちの研究所を支えてください、大型新人として期待しています。二週間後に役員面接を受け、その一週間後、内定通知書とともに男性寮の入寮書類を受け取った。
「他の部屋行けばわかるだろ」海本は話を続ける。「相変わらず同期と話さないの?」
「まあなー」剛也は間延びした返事をし、眉間に皺を寄せると先を続けた。「特別扱いすんだよ、アイツらだって修士までは行ってるのにさ。たった一年違いで年寄り扱いよ。いじめだいじめ」
「へぇー、どうやっていじめられてんの?」
「オジジとか言ってくんの」
「ほ、オジジ」海本はにっこりして言った。「オジジいいな、俺も使おうかな」
「ふざけんな!」剛也は声を荒げた。「水上さんのせいだ。知ってる? 今年唯一のエンジニア採用の女子なんだけど」
「いや」と言って海本は首を捻った。「どんな顔?」
「丸顔のポニーテール」
「ふーん、わからんな。その水上さんが——」
「水上さんが言い出しっぺ」海本の言葉を遮り、剛也は言った。「最初のオリエンテーションのときにさ。三輪さんは私たちより先輩だからオジジですねって。したら誰もかれもオジジオジジって、全くふざけんなだよ」
「そんな怒ることないだろ」海本は楽しそうに微笑みながら言った。「オジジ可愛いじゃん、オジジ」
「お前ふざけんな!」剛也はまた怒鳴った。「二度と言うなよ。次言ったら絶交だからな」
「へいへい」と返して怖がっている表情を剛也に見せ、次いで口先を尖らせて海本は言った。「いいと思うけどなあ。水上さんだっけ? 彼女だって悪意があって呼んでるわけじゃないだろ」
「いやあれは悪意あるね。オジジとか俺のこと呼んで、こんな可愛いあだ名付ける私も可愛いでしょって、そういう魂胆だろ」
「ハハハハ」海本は声を出して笑った。「お前が女を語るな、ろくに付き合ったこともねぇーくせに」
「それはまあ」剛也は恥ずかしそうに返し、目を伏せた。
「水上さんか、面白そう」海本は嬉しそうに言う。「来週の金曜が楽しみだな」
「へ、来週なんかあんの?」剛也は怪訝な表情で訊いた。
「おいおい、しっかりしろよ。新入社員歓迎会のメールが来てただろ。若手社員が主催のやつ」
「ああ来週金曜か」
「そう来週金曜。俺も出るからお前も来いよ」
「うんまあ、わかった」
 剛也が不服そうな表情で返事をすると、にっこり笑って海本は言った。
「さて、いま何時だ?」
 海本はスウェットパンツのポケットに手を入れようとしたが、その前に剛也は枕元にある置き時計に目を向けて言った。「九時十二分」
「おお、そろそろ風呂行くわ。お前も行く?」
「え、急ぐことないだろ」
「いやあと三十分くらいだぞ。十一時までやってんのは平日だけ」
「あ、そうだっけ? ちょっと待って」
 剛也は立ち上がり、ちゃぶ台の横、その畳の上にいくつも積まれたCDの山を崩さないように歩いて壁に行き着き、そーっと物置の扉を開けた。
「お前のCDコレクションすげぇーな。一体いくつあんだ」
「まあ大体二千枚くらいか」
 剛也は後ろからの声に答えながら、収納ボックスの上に置かれたプラスチックの風呂桶を手にした。それから扉をそっと閉め、体を反転させた。窓の方に向かう。CDの山を崩さないように注意して歩き、部屋の反対側に行き着くとカーテンを開け、掃き出し窓を開いた。ベランダに出て物干し竿からバスタオルとボディータオル、ハンドタオルを取り込み風呂桶に入れる。続いて角ハンガーに干されたブリーフパンツとTシャツをとって風呂桶に入れ、全体が覆い隠されるようにバスタオルを被せた。
 部屋の中に戻り、窓とカーテンを閉めて振り返ると、海本はCDのブックレットに目を通していたが、お待たせ、と声をかけると顔を上げて立ち上がった。
「あんなにCD持っててどうする?」
 部屋を出て並んで歩き出してすぐ、海本は訊いた。「あれ順番に聴いてんの?」
「いや、全部は聴かない」剛也は首を横に振って言った。「ていうか、いまはほら、iPodがあるからさ、CDで聴くってこともないんだけど」
「しかし凄いよな、どうやったらあんなに集められんの?」
「どうやったらって」と口にし、渋い顔をして考えてから剛也は答えた。「別に普通だよ。高校の頃から好きなバンドのCD買い続けてたらああなった」
「普通じゃねぇーだろ」剛也の言葉に被せるように海本は反論した。「やっぱお前異常だわ。大学院のときからずっとそう。のめり込むとどこまでも突っ込んでってさ。前園教授も可哀想だったな、大変な奴にとっつかまって」
「全然可哀想じゃねぇーから、あんな下らない研究やって」剛也は海本を睨みつけながら言った。「それにお前が言うな。修士の最初っからろくすっぽ研究室に顔見せないで、デートだバイトだって、そんなことばっかやってた奴に言われたくないね」
「俺の身にもなってみろって」弱った顔をして海本は言う。「同期がお前だけで、セミナーでも修士論文でも比較されてさ、まるで地獄よ」
「おいおい論文仕上げるために遅くまで付き合ってやったの忘れたのかよ」剛也は厳しい視線を海本に向けて言い、次いで相好を崩して付け加えた。「それに大学帰りとか楽しそうだったし」
「それはお前もだろ」
「確かに」
 剛也は真顔でそう返すと黙り込み、前を向いた。海本も口を閉ざして前を向く。沈黙したまま並んで歩く。
「ああそうだ」
 階段まで来ると剛也はそう言って足を止めた。
「どうした?」海本も立ち止まって問いかける。
「今日レイヴパーティーに行ったんだ」剛也は楽しそうに微笑んで言った。「それ言うの忘れてた」
「レイヴパーティー? なにそれ」
「野外のDJイベント。デカい音でDJして、二百人くらいが踊るの」
「へぇー面白そう。誘ってくれよ、そういうの」
「いやたまたまでさ、河川敷歩いてたらやってるからビビったよ」
「どんな感じ? 詳しく教えて」
 DJイベントの話をしながら二人は階段を降りて行った。一階まで降りてくると廊下を左に進んだが、木の扉の前まで来ると剛也は身を固くした。胸がざわつく。同期がいたらどうしよう。裸見られたくないな。躊躇していると海本が取っ手に手をかけた。右にスライドさせて中に入る。剛也も後に続いて入ると、すぐに正面の脱衣棚——床から天井近くまである棚に目を向けた。ある。棚の右上、そこの脱衣カゴにバスタオルが入っていた。誰だろうと考えていると海本が左の方に向かったので剛也も続いた。
 棚の上に風呂桶を置いたとき、浴槽から人が立ち上がる音がした。意識を右に向ける。服を脱ぎながら耳を澄ませていると浴室の扉が開く音がし、右を見た。色白で短髪、痩せ型で筋肉質な男が浴室の扉の前にいる。谷脇という同期だ。中学からバスケットボールをやっていたらしく、そのためか快活で、入社前のオリエンテーションから声がデカくて目立っていた。
「先に行ってるよ」
 声がしたので横を見ると、全裸の海本が風呂桶を手にしていた。両手で風呂桶を持っているため、局部が露わになっている。剛也は頷き、すると海本は谷脇と入れ替わるように浴室に向かって歩き出した。色黒の海本と色白の谷脇、対照的な肌の色をした二人がすれ違う。その様子に見入っていた剛也だったが、谷脇と目が合ってすぐに顔を背けた。気が急く。手に持ったTシャツを脱衣カゴに放り、スウェットパンツの紐を緩めて一気に下ろした。それを脱衣カゴに入れたとき視線を感じ、剛也は右を向いた。谷脇がこちらを見ている。粘っこい眼差し。下半身に目が向いている。胸が早鐘を打つ。しかし極力平静を装い、バスタオルに手を伸ばした。腰に巻き付ける。横目で谷脇の様子をうかがいつつ、バスタオルがズレないようにパンツを脱いだ。それを脱衣カゴに入れると風呂桶を手にし、谷脇の視線を気にかけながら浴室へ歩き出した。

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