アンドロイド転生1576
2133年8月12日 (滞在2日目)
年に一度のメンテナンスのため、アオイとタケル、そしてサツキはホームにやってきた。キリの細やかな調整を受け、まるで体の隅々まで新しい命が吹き込まれたようだ。
夜。リツは、彼らがメンテナンスを終えるのを待っていたかのように共同の居間に呼び出した。腕を組み、難しい表情をしている。そして重い口を開いた。
「会議をしたんだが、結論が出ないまま決裂したよ。滅亡派の爺さんたちはどうも頭が固い。村と共に死ぬとまで言い出す始末だ」
タケルは眉間に皺を寄せた。
「俺の時代の爺さんたちもそんな感じだったな。歳を取ると柔軟性がなくなるんだろうな」
アオイも話に加わる。
「未知のことが怖いのかもね」
中年層は物資の仕入れのために、時々村から出て街に行くのだが、高齢者などは若い頃から街と接点がないのだ。過去の恨みが強く、下山するという気持ちがないらしい。
彼らは戦さから逃れた平家の落人の子孫で、1000年もの長い間、外界と全く交流せず命を繋いできた。たまたま訪れた気象庁の職員が村を発見したのだ。約100年前ことである。
その後20年に渡り、国民になるように説得を試みたが、村人たちはそれを拒否した。その頑なな姿勢を嫌った右翼派の若者たちはある日、村を襲い、そこで村人たち20人の命を奪ったのだ。
リツはため息をつく。
「84年前のことをいつまでも恨むなって言ったら、怒ってな。会議の途中で出て行ったよ」
アオイは眉間に皺を寄せ、首を横に振った。
「ああ、その言葉はすごく腹が立つのよ。私だって、暴走車に撥ねられて死んでしまったんだもん。運転手を恨んだわ」
そこでタケルは決心したように膝を叩いた。
「よし、明日も会議をしよう。何とか宥めて、みんなに参加してもらおう。俺が話をする。アオイ、お前も出ろ」
アオイは不安に駆られた。15年前の会議では、彼女は東京に住んでおり、会議のことは後から知った。それに「平家の子孫」ではないアンドロイドは、オブザーバーとして参加したと聞かされていたからだ。
「本当に…私たちが出るつもり?」
「俺たちはアンドロイドだ。平家の子孫でもない。だが、元人間だ。突然命を奪われた無念も、生きることの大切さも知っている」
アオイは大きく頷いた。
「うん、よく分かってる」
「だからこそ、俺たちが語ることに意味があるんだ」
「うん、うん…そうね。そうかもね」
・・・
翌日 8月13日 午後1時 (滞在3日目)
会議室にて
タケルが村人たちを見渡した。
「お集まりいただきまして、有難うございます。まずは私の話を聞いてください。私は第二次関東大震災に遭遇し、命を落としました。家族もです」
2040年12月28日、午後8時2分のことだった。震度9強の揺れが4分も続き、一都六県が滅亡し、2000万人もの人間が命を落としたり、傷ついたり、路頭に迷ったのだ。
「私は17歳でした。バイクから投げ出され、ガードレールに激突して、肋骨が折れて肺が潰れたんだと思います。息が苦しくて血を吐きました。それでも家族の元へ行きましたが、アパートは潰れてました。そして私も死んだんです」
会議室は水を打ったように静かだった。タケルが元人間であることは知っていても、彼がどのような経緯で命を落としたのかを、村人たちが知ったのは初めてだった。
