アンドロイド転生1580
2133年8月13日 午後 (滞在3日目)
ホーム 会議室にて
村の存続をかけた話し合いは決裂し、滅亡派代表のケンジは会議室から出て行った。兄である村長のサトシは、悲しい過去を語り始めた。ケンジの頑なさ。それには理由があったのだ。
「私は気弱な子供だった。闇夜に響く、村人たちの悲鳴や叫び声…。それだけじゃない。高笑いをしている輩の声が恐ろしくて、腰を抜かしたんだ。本当に怖くて堪らなかった…」
・・・
(回想) 2049年 84年前の夏 丑三つ時
ホームにて
リョウヘイは並々ならぬ決意があった。何があっても妻子を守るのだ。だが、サトシは泣き出した。まだ6歳だ。当然だろう。まずは自分が裏口へ行き、安全を確認しようと思い、その場から離れようとした。サトシは慌てた。
「お父さん…どこ行くの…?」
「サトシ、待ってろ」
「行かないで…」
「怖がるな。お前は〇〇だろ?」
父親は長男を慰めたつもりだったが、次男のケンジはハッとなる。〇〇とは、漫画のヒーローで兄弟の憧れの存在だ。時々訪れるタウンの大人たちが、2人に漫画をプレゼントしてくれたのだ。格好いい主人公は正義の味方なのである。
タウンの大人たちとは、実は国の職員で、村人を国民にしようと度々説得に訪れていた。村人はそれは拒否したが、職員たちはいつも礼節を守っており、あからさまに無碍にはできなかった。
それに、数々の魅力的な品物を運んでくる。外界と接しないホームの暮らしには近代的なものなど何もない。まず喜んだのは女性たちだった。家事や炊事が楽になるアイテムに目を輝かせた。
そして子供らにも贈られる。ケンジはおもちゃのピストルを渡された。それに似た飛び道具を持っていたが、竹で作られたものとは訳が違う。その格好良さにケンジは大喜びだった。
今、目の前では気弱な兄は母親に縋って泣いている。父親は裏口へ行き、確認すると戻って来て囁いた。
「よし、声が遠くなった。行こう」
妻は頷くとサトシの体を抱き起こし、歩き出した。その後をケンジがついて行く。裏口に出たが、またどこかで叫び声がした。サトシも大きな悲鳴を上げる。
声を聞きつけられては危険だと、リョウヘイはさっとサトシを抱き上げ、闇夜の中を猛然と走り出した。妻は慌てて追う。だがケンジは家の中に戻った。そのことに両親は気付かなかった。
ケンジは廊下を走り、兄と共同の部屋に行く。暗闇の部屋の中を月明かりを頼りに、ある物を探し始めた。気持ちが焦ったが、目当てのものを見つけてホッとする。おもちゃのピストルだ。
(これで鬼をやっつけてやる!)
気弱な兄と違って、ケンジは大胆だった。漫画のヒーローのように鬼なんて容易く倒せる。そんな気持ちでいっぱいだったのだ。そして、ピストルを握り締め、裏口に戻った。
一方、森を抜ける途中で、ケンジの姿が見えないことに気づいた両親。リョウヘイはサトシを抱いていたが、降ろすと妻に託した。小声ながらも力強く告げる。
「祠に行け!早く!」
「で、でも…」
「大丈夫だ。必ずケンジを連れてくる。振り向くな!今すぐ走れ…!」
「う、うん…」
リョウヘイは妻子を見送ると、一目散に来た道を戻って走り出した。背を低くして風の抵抗をなくし、1秒でも早く息子の元へ向かうのだ。その顔は引き締まり、決意がみなぎっていた。
