アンドロイド転生1772
(夢)
アオイとモネは床に座り込んでいた。2人は目を赤く腫らし、鼻をすすりながら、お互いの手を固く握りしめている。傍らではサツキが背筋を伸ばして正座し、慈しむような眼差しで2人を見守っていた。
その時、高く澄んだ赤ん坊の笑い声が、静まり返った部屋に響き渡った。アオイが驚いて辺りを見回すと、モネはすっと立ち上がった。彼女の姿が、再び眩い光に包まれる。
それは世界を白く塗りつぶすほどの、鮮烈な輝きだった。やがて光が引いた跡に立っていたのは、34歳になった現在のモネ。その腕には、1人の赤ん坊が抱かれていた。
『カー…見て。私の子。ミカルっていうの』
『えっ…⁈』
『もうすぐ1歳になるの』
アオイは絶句した。いつモネは母になったのだと思う。
『カー、あっちの世界は怖かったよね。タケルさんは亡くなり、なっちゃんは傷ついた。本当に、本当に辛かったよね』
モネの声が震え、再び涙が溢れ出す。それにつられるように、アオイの頬を涙が伝った。
『は、はい…本当に…』
『だから、あなたは現実を拒絶して2年も眠り続けていたの』
『えっ!? に、2年!?』
『そう…自分にとって幸せな世界を創り上げて、目覚めることを拒んでいたのよ』
アオイは言葉を失い、ただモネを見つめることしかできなかった。モネは、そんなアオイに優しく微笑みかける。
『その気持ち、私にはよく分かる。…ううん、全部を理解することはできないけれど、分かりたいと思ってる』
『モ、モネ様…』
『すべては、あなたのせいじゃない』
モネはそっと膝をつき、腕の中のミカルをアオイへと差し出した。ミカルは「あーあー」と声を上げながら、小さな手をアオイに向かって懸命に伸ばしている。
『たくさんの人が、あなたの目覚めを信じて待っている。ねえ、現実に戻ろう。このマンションから、一歩外へ出よう。大丈夫、私がずっと手を繋いでいてあげるから。そして、カーのその腕で、ミカルを抱いてほしいの。ね?』
アオイは2人を交互に見つめた。ミカルは機嫌よく、おもちゃの猿のように両手をパチパチと叩いている。アオイは意を決し、差し出されたモネの手を力強く握り返し立ち上がった。
しかし、リビングを出ようとしたその時。鋭いチャイムの音が鳴り響いた。怪訝に思いながらアオイがモニターを確認すると、そこには1人の女子高生が立っていた。アオイの顔から、一瞬にして血の気が引く。
『く、クロエ…』
『こんにちは、アオイ』
・・・
(現実)
エルが顔を歪め、激しく舌打ちをした。思わず「くそっ」と毒づく彼女の様子に、モネは驚いた。
「どうしたの⁈」
「クロエが現れました」
「えっ⁈」
「アオイさんは、クロエを心底恐れていましたからね…。この精神世界における、いわば『ラスボス』の登場です」
「ど、どうするのよ⁈」
「…相手の動向を探ります」
・・・
(夢)
モニターを凝視したまま、アオイは石のように固まっていた。その絶望を察し、モネが即座に行動を開始した。彼女は振り返ると、サツキにミカルを託す。
『サッちゃん、ミカルを別の部屋へ連れて行って』
『はい。畏まりました』
サツキがリビングから立ち去るのを見届けた後、モネはアオイに向き直った。
『カー。部屋のロックを解除して』
『で、でも…』
『大丈夫。わかっているでしょ? あのクロエも、カーの恐怖が創り出した幻影に過ぎない。だから恐れることはない。強い心でいれば、あんな奴、簡単に倒せる』
『幻…』
『そう、ただの幻よ!』
アオイは何度か深呼吸を繰り返し、震える指でロックを解除した。間もなく、玄関の扉が開く乾いた音が響き、リビングにクロエが姿を現した。
