アンドロイド転生1577
2133年8月13日 午後 (滞在3日目)
ホーム 会議室にて
タケルとアオイは村の存続をかけた会議の中心に立った。15年前の会議の時は、2人は既に村にいなかった。残されたアンドロイドたちは意見は出せず、オブザーバーだった。
しかし、元人間である2人は村人たちを説得したいのだ。タケルは自身の過去について語った。震災に巻き込まれ、命を失ったと。そして一呼吸置くとアオイに視線を向けた。
「アオイは、暴走車に轢かれて亡くなりました。まだ自動運転車が少なかった時代なんです。24歳で、3か月後には結婚式を控えていました」
会議室の女性たちが悲しそうに口元を押さえる。アオイはこみ上げてくる涙を必死に堪えた。
(泣いちゃダメ。今日は大事な会議なの。私のお涙頂戴の物語ではないんだから…)
タケルの声が一段と大きくなった。
「皆さん、人は必ず死を迎えます。ですが僕たちのように突然命を奪われる場合もあれば、病気で苦しむ人もいる。そして、眠るように穏やかに旅立つ人もいる」
タケルの言葉に、村人の何人かがひそひそと軽口を叩き始める。
「俺は後者だな」
「お前は徳を積んでないから無理だ」
「いいや、天国に行くぜ」
彼はそんな村人たちを一瞥し、さらに声を張り上げた。
「死ぬことよりも、生きることを考えませんか?」
「考えてるよ!」
「何言ってんだ?」
村人たちの嘲笑に、タケルは首を横に振った。
「いいえ、高齢化がさらに進めば村の暮らしは厳しくなるんです。でも街に行けば、生きる質が上がります。病気になっても適切な治療が受けられるんです」
そこでアオイも話に加わり、滅亡派の代表であるケンジを見つめた。
「あなたは杖をついています。去年までは必要なかった。確実に老いが迫っています」
ケンジはアオイをジロリと睨む。
「だからなんだ? ジジイを嘲笑うのか?」
「違います。笑うどころか心配なんです。歩けなくなったらどうするんですか?」
アオイは掃き出し窓の外に目をやった。美しい緑に囲まれた村だが、そこには剥き出しの土と起伏に富んだ地面が見える。花壇が彩りを添えているものの、敷地は決して平坦ではなかった。
「足だけではないんです。もっと体の不調が現れます。寝たきりになったら、誰があなたを助けるんですか?」
「黙れ!」
「いいえ。黙りません」
アオイの冷静さとは反対に、ケンジは顔を赤くして、いきなり立ち上がった。だが、よろけて隣にいる妻の肩に手を置いた。妻が慌てて彼を支える。
「うるさいぞ!ホームを出て行ったやつが口出しするな!言わせてもらうが、元人間だとは言え昔の人間だろうが!」
またタケルが、語り始めた。
「昔の人間。確かにそうです。でも、あなたも昔に拘っているじゃないですか。恨みばかりで前に進まない。あなたの頑なな心を他人に押し付けてはいけません」
ケンジの瞳に怒りが宿る。
「何だと?」
タケルは静かな双眸でケンジを見つめた。
「若者や子供たちに未来を与えましょう」
すると外から子供の声がした。窓に顔を移すと子供らは花壇の手入れを始めた。その中に背を向けたノアとスイがいる。タケルは2人を指した。
「ノアはサキが産んだ。国民になったからです。スイはリツの娘だ。そして、年末には2人目の子供を迎える。平家の血が繋がったんです。そしてあなたの息子も」
ケンジの息子はリョウだ。リョウはイギリスへと旅立ち、イギリス人女性と恋をして家族になった。そして、4人の子供に恵まれた。平家の血は世界へと広がったのだ。
