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アンドロイド転生832

2118年7月25日 午後
東京都世田谷区:ホストファミリーの邸宅

「カナタ君は音楽は好きかい?」
サイトウ氏の朗々とした声がリビング内に響いた。恰幅の良い彼は声楽家だそうだ。
「ヒップホップくらいです」

サイトウ氏の妻はおっとりと微笑んだ。
「今の若い人はそうですよねぇ」
カナタの両親は気まずくなる。そういう時はクラシックも好きですと言うのだと。

天井が高く広々とした室内は、音楽関係の物で溢れていた。サイトウ氏の妻はバイオリニストだ。ストラディバリウス(最高級品)を所有している程の卓越した人物だ。

カナタの父親はずっと恐縮していた。サイトウ夫妻の1人息子は音楽院の学生でウィーンに住んでいる。そんなセレブな一家がうちの息子のホストファミリーなのかと思うのだ。

当の本人はケロリとしていて、鼻歌でも唄い出しそうな雰囲気だ。いつもながら思う。カナタは子供の頃からそうだ。何事も動じない。そして真正面から受け止める。泣く時は泣く。笑う時は笑う。

わーいと喜び、ぎゃーと泣き、えーと驚き、ガーッと怒り、ほーと感心する。素直なのかもしれないがあまりにも天真爛漫なので大丈夫かと思う。もう少し思慮深くなって欲しいのだ。

さっきも部屋を案内されて、かなりの贅沢な作りにワーと大喜びだった。サイトウ氏の手を握り締めて何度も振ったものだ。こんな喜怒哀楽が激しい息子は迷惑ではないかと思う。

カナタは窓の外を眺めていた。「あ!」と声を上げて立ち上がった。両親は何事かと慌てる。
「犬?あれって犬ですか?」
「そうだよ。ボルゾイなんだ」

へぇ!とカナタは頷いたものの、ボルゾイと犬種を言われても分からない。ホームには柴犬しかいなかった。あんなの初めてだ!とカナタは目を輝かせる。動物が好きなのだ。

「撫でてもいいですか?」
「勿論。名前はシェリーだ」
カナタは喜んでリビングからテラスに飛び出した。

両親はまたまた恐縮する。
「落ち着きのない息子ですみません」
サイトウ氏の妻は微笑む。
「犬好きに悪い子はいませんよ」

カナタは広い庭の芝生の上でシェリーと会った。大きな身体。細長い顔。スラリとした脚。絹のような毛並み。優雅な動き。飼い主だけでなく犬もセレブのような雰囲気を湛えている。

「シェリー。今日から家族なんだぞ。宜しくな」
シェリーは頭を撫でられると本能でカナタを信頼した。ふたりは直ぐに打ち解けた。犬はボールを持って来ると投げてくれとせがんだ。

仲良く遊んでいるふたりを見てサイトウ夫妻は満足だった。どうやらカナタは息子によく似ている。明るく堂々としており、天真爛漫で良いも悪いも全身で受け止めるタイプだ。

やがて別れの時間になるとカナタの両親は何度も頭を下げた。カナタにしっかりしろよ。大人しくしろよと言うのも忘れない。
「父ちゃん、母ちゃん。元気でな」

サイトウ氏はカナタの肩を叩いた。
「明るくて良い息子さんです。責任を持って育てます。安心して下さい」
両親は手を振って去って行った。


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