アンドロイド転生775
2118年5月25日 午後6時過ぎ
白水村集落:建物内
(リョウの父親の視点)
リョウの父母はダイニングルームに向かって歩いていた。ホームでは全員で食事をするのだ。息子のリョウに呼び止められて振り向いた。手招きをして人気のないところへ誘われる。
両親は息子の宣言に目を丸くした。
「イ、イギリスに行く…だと?」
父親のケンジは目玉が飛び出さんばかりに驚いた。手がワナワナと震え出した。
ケンジは呆気に取られて暫く絶句した。息子は…東京に住むどころかそれを飛び越えて海外に行こうとしている。なんでそうなる?平家の落人の末裔がなんたる事だ…!
「ゆ、許さん…!」
「許してもらおうなんて思ってないよ。俺は35だ。許可を取る必要なんてない」
「馬鹿者!!」
ケンジの額には血管が浮いていた。滅亡派代表の息子が国民になって渡英する?
「ふざけるな!平家の血筋を汚す気か!」
「親父は古い!」
確かに古いかもしれない。だがな?人間は恐ろしいぞ。69年前にタウンの輩が村を襲って20人も死んだんだ。俺の父親も殺された。街も…よその国も…人は残酷なのだ。
1000年前は我が平家の一門が国を追われたんだ。そうやって人は人を虐げるのだ。我々はその由緒ある平家の血を塩を舐める思いで繋いできたのだ。誇り高き末裔なのだ。
リョウは深々と溜息をついた。
「血筋だなんだってうるさいよ。いい加減にしてくれよ。誰だって自由だ。俺がどんな道を歩いたっていいだろうがよ」
「じゃあなんだ?イギリスで暮らすのか」
「分からない」
「日本に戻ってタウンで暮らすのか」
「分からない」
ケンジは鼻息を荒くした。
「ホームに戻ってくるのか」
「分かんねえよ!いちいちうるさいな」
「親に向かってなんだ!」
ケンジの妻が間に入って2人を諌めた。
「お父さん。いいじゃない?リョウの自由にさせてあげましょうよ。リョウもあっちに行ったきりにならないで連絡してね?」
ケンジは暫く黙り込んだがやがて口を開いた。
「何でイギリスなんだ?」
「親父も知ってるけど、俺はタケルの彼女を貶めた。酷い事をした。その謝罪に行く」
リョウは父親をじっと見つめた。
「ちゃんと詫びないといけない。それをしないと俺は前に進めない。俺は平家の誇りなんてどうでもいい。けれど人間としての誇りがあるんだ」
ケンジは頷く。人は罪を認めて心から詫びること。それが道理だ。当然だ。だが息子は行くのか。旅立つのか。妻はケンジの腕に触れ何度も頷いた。応援しようという顔つきだった。
許すものか。許せるものか。だが…そう…リョウは35歳。とやかく言える筈もない。そして奴の人生だ。俺が俺の人生を好きに歩んできたようにリョウも自由に歩くべきだ。
ケンジの怒りが潮が引くように凪いできた。
「好きにしろ」
リョウは笑った。
「よし。メシにしようぜ」
