キントリよ、永遠なれ!〜劇場版『緊急取調室 THE FINAL』〜
ドラマ『緊急取調室』は、これまでの全シリーズ観てきました。もともとは2022年に公開予定が、安倍元総理襲撃事件により公開延期を余儀なくされ、さらには2023年6月の公開予定がさまざまな事情で再度延期になってしまい、撮り直すにしてもどうなるのか…?気になっていました。
これは、当時の映画館内のポスターを撮影したものです(諸事情により、一部加工してあります)。それくらい、劇場版の公開を心待ちにしていました。

だから公開延期は一ファンとしてショックだったし、何より主演の天海祐希の心情を察するに余りありました。天海祐希は普段は明るくサバサバして男っぽいキャラクターのようですが、本当はとても繊細な人だと感じているので…。
天海祐希にとってはもちろん、キャストの皆さんにとってもキントリは大切な作品だと思うし、このまま"お蔵入り"になってしまうようなことだけはないことをずっと願っていました。
だからそのキントリが今度こそ正真正銘ファイナルの劇場版に加えて、Season5として連ドラも復活!全キャストが再集結というニュースを見た時には心躍ると同時に、嬉しくて涙しました。
劇場版でファイナルという意気込みで作り上げて一度完成させた作品を、もう一度気持ちを新たに撮り直すということが俳優さんにとってメンタル的にも肉体的にもどれだけの労力を要したのか想像もつきません。
たとえば舞台なら初日より千秋楽の方がより良いものになっていくと思われますが、映画の撮影はそれとはまったく異なる性質ものなので、気持ちをまっさらにして臨まれたキャストの皆さんには本当に頭が下がります。
劇場版で真壁と対峙する、内閣総理大臣・長内役の石丸幹二。この役を引き受けるには相当な覚悟が必要だったと思いますが、プロデューサー・三輪祐見子氏のイメージする好感度の高い総理役にピッタリだったと思います。
難しいオファーにもすぐに快諾されたようで、おだやかで優しそうなのに男気のある方なんだなぁ〜と感じました。
Season5の連ドラがスタートし、田中哲司演じる梶山の「皆さん、出番です」の声を聞いた時の感動、天海祐希演じる真壁の「面白くなってきたじゃな〜い」の声を聞いた時の喜び…。あぁキントリが戻ってきた〜!という感じでした。
Season5も【真壁VS被疑者】の取調室での緊迫した攻防にヒリヒリさせられ、やっぱりキントリの面白さは唯一無二だと感じました。
ドラマがスタートした当初は可視化された取調べがまだ制度化されていなかったので、キントリが先行して現実が追いついた形だったんですよね。
Season5のゲストも豪華で、皆さんの演技合戦楽しませていただきました。山本耕史&若村麻由美、戸次重幸、大原櫻子、高岡早紀、高橋ひとみ、坂元愛登、イッセー尾形、加賀まりこ、玉山鉄二…。
特にイッセー尾形は、つかみどころのない被疑者役を相変わらずの"イッセー尾形劇場"で魅せてくれました。あの役は、イッセー尾形じゃなければ務まらなかったと思います。
前置きが長くなりましたが、そんなキントリの劇場版『緊急取調室 THE FINAL』を初日の朝一番で観てきました。多分、初日に観たのは人生で初めてかもしれません。
これで本当に終わってしまうのかと思うと一抹の寂しさがこみ上げてきましたが、しかと見届けてきました。静かだけれど、強烈に心に響くメッセージが伝わってきました。
超大型台風が連続発生し、国家を揺るがす非常事態の最中、内閣総理大臣・長内洋次郎は、災害対策会議に10分遅れて到着する。さらに、その「空白の10分」を糾弾する暴漢・森下弘道が現れ、総理大臣襲撃事件が発生する――。 警視庁は、森下の起こしたテロ事件を早急に解決するため、キントリ緊急招集を決定。真壁有希子らキントリチームは取調べを開始するが、森下は犯行動機を語らないどころか、取調室に総理大臣を連れて来い!と無謀な要求を繰り返す。 森下への取調べが行き詰まる中、長内総理に“ある疑惑”が浮かび上がる。「総理を取調べたいんです。」有希子は真相解明のために総理大臣を事情聴取すべく動き出すが…。
ファイナルにふさわしく、キントリチーム最後の取調べ対象は内閣総理大臣。実際には総理の取調べということ自体現実的ではないわけですが、だからこそフィクションとはいえ、その難題に挑んだキントリチームのさすがのチームワークと鮮やかな"知恵"には感服でした。
今回私にしては珍しく、詳しいネタバレはあえて避けようと思います。劇場で観て、感じていただきたいからです。
今年は知事や市長や町長、首長たちのさまざまな不祥事が明るみになった一年でした。何かのトップになるということはそれだけ大きな責任が伴い、その人間性も問われるものだと思います。
そういう意味では、本当にトップにふさわしい人間なのか否かを常に自分自身に問いかけて職務を全うするという姿勢を見せてほしいと感じます。ただ、首長というその立場に固執するだけではなく…。
この映画では真壁の、
「我々の組織のトップは、絶対に正しい人間であるべきだと、そう思っています」
という言葉が強烈に印象に残っています。この言葉こそ、この劇場版の大きなテーマだったように感じます。
真壁の夫は、警察内部の不正を告発しようとして殺されました。警察という組織がひと筋縄ではいかないことを肌で感じている真壁だからこその言葉であり、さらには真壁たちにとってのトップでもある総理大臣にはなおさらのことそうであってほしい…。
これは、真壁の心からの叫びのようにも感じられました。怒り、悲しみ、真壁の鬼気迫る表情が目に焼き付いています。
一方長内を演じた石丸幹二の長内像は、「死ぬまで真っ白でい続けようとした人」とパンフレットに書いてありました。
確かに総理大臣としての長内は、クリーンでノーブルなイメージです。でもこれまで完全封印してきた自らの過去の罪と嘘に真壁たちがたどり着きつつあることを悟り、自分の目で自分自身と向き合わざるを得なくなります。
総理大臣の襲撃事件を起こした佐々木蔵之介演じる暴漢・森下弘道は、長内と共有してきた過去の罪と嘘に深い後悔を抱えながらも目を背けて生きてきました。
でも自分の余命が残りわずかと悟った時、長内にも過去としっかり向き合ってほしいと願い、自らを犠牲にしてまでも今回の襲撃事件を起こす道を選んだのでした。
森下は自分の罪を悔やみながら孤独な人生を歩み、長内は自分の罪にフタをして国のトップにまでのぼりつめました。両者の対照的な人生の歩みを思うと、これが許されていいはずはないと強く感じました。
長内は可視化された取調室にも関わらず、真壁たちに録音と録画を停止させた上で25年前に起きた事件の真実を語り始めました。
その上で、総理を辞めるつもりはないと宣言しました。総理は清廉潔白では務まらないし、国民はリーダーを必要としていると…。まるでだからこそ、たった一人の命が犠牲になっただけの自分の過去の罪は葬り去られても仕方ないと長内が主張しているようでした。
でも、小日向文世演じる小石川の「被害者がいる」という言葉は非常に重かったです。そして、自分の目と耳で知った事実は変えられないと主張した真壁…。
罪を犯した人間を見逃すようなことは、相手が誰であっても、たとえそれが国のトップの内閣総理大臣であっても絶対にできない…!キントリとしての正義だけは決して譲れないと、長内にカウンターパンチを喰らわせたような思いがしました。
そんな長内に託された決断は…?
真壁たちの想いと願いが通じたのか、総理大臣も国会議員も辞職するという正しいものでした。
今回、真壁、梶山、小石川、でんでん演じる菱本、塚地武雅演じる玉垣の5人のキントリメンバーに加えて、鈴木浩介演じる監物、速水もこみち演じる渡辺の"もつなべ"コンビ、さらには亡き大杉漣さんの息子役の工藤阿須加演じる山上も加わっての"もつなべやま"トリオ、比嘉愛未演じる生駒と野間口徹演じる酒井…。全部で10人のキントリチームとしての活躍が見られたことが感激でした。
真壁はもちろんキントリの顔ですが、このキントリチーム全員の力が集結して今回の事件は解決できたと思うので…。
いつもなら「うぇ〜い!」の脱力系で締めるところ、今回は「いぇ〜い!」で締められたシーンにはグッときました。
キントリは"警察もの"のドラマではありますが、被疑者との心理戦が中心であり、ヒューマンドラマの側面が強かったと思います。
「マル裸にしてやる!」
という真壁の口癖通り、キントリチームと被疑者が真っ向勝負で対峙し、あらゆるテクニックと連携プレーを駆使して被疑者の心の中に深く入り込み、その心の一瞬の隙をついて落とす…。
その爽快な様に、胸が躍ったり、時には涙したり…。人間の中に潜むさまざまな感情が浮き彫りにされる取調べシーンはキントリならではで、このドラマの醍醐味でもありました。
それがこの劇場版で本当に最後かと思うと残念ではありますが、長内の事件に関しては新たな職員たちにより取調べが行われるとラストにテロップで流れました。またいつの日にか…の期待も残してくれたんですかね。
劇場版『緊急取調室 THE FINAL』は、いかにもキントリらしい世界観にシビれる、ファイナルにふさわしい作品でした。
キントリよ、永遠なれ!12年間ありがとうございました!!
