なぜMEDDICにはBudgetがないのか
「予算のない客は案件ではない。」
そう考える営業は少なくない。
確かに、予算があり、導入時期が決まり、決裁者も見えている顧客は営業しやすい。
しかし、私が営業としてのキャリアを始めたPTCで学んだMEDDICには、Budgetという項目がなかった。
営業にとって予算は重要なはずなのに、なぜ存在しないのか。
30年以上営業を続けてきて、ようやくその理由を言語化できるようになった。
予算は営業活動の前提条件ではなく、営業活動の結果だからである。
BANTとMEDDICは、そもそも対象とする商談が違う。
BANTが向いているのは、少額商材で、関係者が少なく、短期間で意思決定される商談だ。
一方、MEDDICが真価を発揮するのは、高額で、複雑で、多くのステークホルダーが関わるエンタープライズ営業である。
同じSaaSでも営業手法はまったく違う。
毎月の数字を追い、短期間で大量の商談を回す営業に、本来のMEDDICを適用するのは難しい。Championを育て、意思決定基準に影響を与え、組織を動かすには時間が必要だからだ。時には1年以上かかる。
だからMEDDICは万能ではない。
商材と営業モデルを選ぶ方法論なのである。
PTCが売っていたPro/ENGINEERも、単なる設計ソフトではなかった。
設計プロセスや組織そのものを変える製品だった。
そんな変革に、顧客が最初から予算を用意して待っていることは少ない。
営業は課題を掘り下げ、変革の価値を明らかにし、それを経営課題へ引き上げる。
その結果として、予算が付き、導入時期が決まる。
つまりMEDDIC営業は、案件を探しているのではない。
案件を作っているのである。
もう一つ、30年経って痛感したことがある。
MEDDICは知識として理解しても意味がない。
Championとは誰かを説明することはできる。
だが、本物のChampionを見つけ、信頼関係を築き、社内で案件を前へ進める存在へ育てることは、チェックシートでは学べない。
営業管理でも同じだ。
入力項目が埋まっていることを確認するだけでは、MEDDICは単なる管理表になる。
私自身、100人を超える営業にMEDDICを教えてきた。
しかし今振り返ると、本当の意味で実践できるようになったのは、数多くの大型案件を経験した後だった。
MEDDICは案件管理のためのフレームワークではない。
顧客とともに案件を作り、育て、前へ進めるための営業実践そのものである。
だからMEDDICにはBudgetがない。
Budgetは、営業が探す条件ではない。
顧客に「買う理由」を生み出した結果なのである。
