第12話《My soul,Your Beats》#4 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
⬛︎第12話《My soul,Your Beats》#3
⬛︎第12話《My soul,Your Beats》#4
天幕の外に出ると、光る石を配っていた黒咲くんの前に一人の老人が立っていた。
周りは突然起こった騒ぎに戸惑い、何も言えずに視線だけを向けている。
腰の曲がった厳つい顔の老人、蒲田 雅箔はふたご町の復興会副会長だ。
黒咲くんの祖父の知己であり、とても大きな壁だった。
「復興会では反対の意見で決まったのに何を勝手にやっとるか! 誰が責任とるんじゃ!」
威圧されそうな怒鳴りで下から黒咲くんを睨みつける。
周りの視線を浴びながら黒咲くんは冷や汗を流し、わずかに声を震わせて石を握りしめた。
「これは俺が勝手にしたことです。 責任は俺が……」
「高校生に責任がとれるか! 決まりごとは守ってくれないと秩序が乱れる!」
長いため息を吐き、静かな眼差しで黒咲くんを射る。
「伝統とは忠実に守ってこそ伝統。 遊び半分にやられてたまったもんじゃない」
「遊びじゃありません! 俺は本当にこの町を盛り上げたいんだ! 実際、こんなに人だって集まって……」
「今回だけだ。 お前は何が一番大変かをわかっとらん」
これは萎縮させての諭す言葉。
諦めさせるための説得術。
間違っていると自覚させるための誘導。
歳を重ねた人が若者へみせる教えであり、守りであり、責めである。
レールは沿って歩くも外れて歩くも、そこに保証はない。
私たちは見えない足元をずっと歩くしかないんだ。
「石は持ち帰るようアナウンスして。 星の女王とかも、なしだ」
「……いやだ」
こんなに熱くかすみそうな声を出せたのか。
黒曜石の瞳に月が映り込み、星を握りしめて黒咲くんは腹の底から想いを吐き出す。
「絶対にいやだ!! 俺はこの星祭りをもっといいものにしたいんだ!!」
空に吠える。
まるで空に訴えるように、高く、高く、高くーー。
「ふたご町はいい所なんだって、知ってもらいたいんだよっ!!」
「由利くん、君はもう少し世の中を……」
「ストーップ!!」
黒咲くんが欲しいと望むのなら叶えよう。
私はそのために時をかけた。
この照らされた身は、星を宿らせて輝きを見失わないように風を切る。
「と、時森!?」
「こういうのはきっかけが大事なんです! 何もしなきゃ何も変わらない!」
突如割り込んできた私に黒咲くんは高い声を出して驚く。
見上げてくる雅箔の目は怖かった。
それでも目の前にいる人は、黒咲くんの祖父の知己だったのだから向き合いたいと思った。
「現状維持ってのは周りが進むと下がるものなの! 先がわからなくてもやってみなくちゃ!!」
「甘いこと言うな! 金も人も、時間もタダじゃないんだ!」
「だったら潰してんじゃねーよ!!」
何度も潰された。
情けないほどに泣いても誰も助けてくれない。
痛い目で見られるのが常だ。
それでも私はその苦しさも、痛さも、虚しさも全部知っているから。
潰されそうになる光を守りたかった。
この穴ぼこの心は、星のためにある。
「無価値だとか決めつけて、失敗して勝手に失望しやがって……そういうのが若者の成長を止めるってわかんないの!? カッコわりぃって、それが一番カッコ悪いって!!」
あぁ、止まらない。
煮えくり返った思いが噴火する。
このしんどさはなんだ。
声を出してもそれが虚しさに変わったとき、絶望は訪れる。
未来で黒咲くんは壊れてしまった。
その分岐点はどこかわからないし、いつそうなってしまったかも、そこにどれだけ自分の要素があったかも不明のままだ。
だから「頑張りたい」の意思には応えるも応えないも、心を壊すことにだけは繋げてはいけない。
「あなたのためを思って」の言葉は本当に相手のためなのかを考え、無責任に行動を束縛しないで。
呪いを呪いのまま終わらせるようなことにしないでーー!!
「頑張りたいって言ってんだから頑張らせてよ!! 成功も失敗も、責められてたまるか!!」
息が苦しい。
喉、こんなに痛かった?
でも止めてはいけない。
「リスクはある……だけど、一人で背負うものじゃないでしょ? 同じ目標を抱いたならそれはみんなの夢なんだから……」
黒咲くんがいたから私は光を見た。
その光がなければ私は頑張る勇気もない。
奪われたくないのなら、カッコ良く生きるしかないんだ。
「叶わなかったら人のせい、失敗したらダメ! そんなこと考えてる暇あったら助けろっての!! アンタらが見てるだけになったら叶うものも叶わなくなる時だってある!! 勝手に落胆して、無価値にすんなっ!!」
涙が溢れるのは何故?
どうしてこんなに虚しい?
本気になればなるほど虚しさがつきまとい、最後に押しつぶされるのはどうしてなのだろう。
吐きたいとはこういうことだ。
叫びたくなることもある。
奇異なものを見てくる目は、私にだけで十分だ。
「頑張ってることの意味を壊すのはいつだってっ──ごほっ、ゴホッゴホッ!!」
興奮が喉に亀裂をはしらせ、ピリッとした痛みが走る。
たまらず咳き込み、私は腰を曲げ喉を抑えた。
「時森、大丈夫か? ほら、水……」
「あ、りがと……喉痛いや……」
ペットボトルの水を受け取り、一口飲むと私はヘラっと笑った。
暴走グセって何歳になっても治らないものだ。
でも後悔はない。
これは守りたい人を守るための戦う手段だったから。
器用な守り方なんて、私はまだ知らない。
大人って、言うほど大人じゃないからーー。
「蒲田さん」
黒咲くんが雅箔に緊張した面持ちで向き合っている。
しかし先程よりも落ち着いていて、自分の気持ちを一つ一つ丁寧に伝えだした。
「俺、諦めてないんだ。 じいちゃんが……作ってきた場所だから。じいちゃんの世界はあの時終わってしまったけど、俺たちはまだ生きてるから」
空を見上げると大きな月と、キラキラ輝く星。
何度も見上げて探した一つの星はまだ見つからない。
望遠鏡で覗き込み、それを探し続けていた。
その輝く瞳をみて、雅箔は懐かしさを観る。
遠い昔、無鉄砲に祭りをやりたいと言い出したバカがいたと思い出す。
そしてそのバカは惚れた女のために必死になってたことがあり、キラキラと圧倒的希望を瞳に宿らせていた。
「……あんたは輝利さんそっくりだな」
「え?」
「ふんっ、もう夢の時代は終わったんだよ」
誰も知らない過去の物語。
表に出ることなく、消えてしまうものもある。
あれは……何のために名前だけが有名になったのだろうか。
情熱がいつか落ち着いて、何を見たのだろう。
ーーこれは雅箔の心での独白。
血が濃くとも、これは違う人間なのだ。
「あ……」
雅箔はため息をつき、背を向け会場から離れていく。
その後ろ姿を黒咲くんは悲しそうに見送るしかなかった。
「蒲田のじいちゃん……」
「……黒咲くん、スタートさせよ?」
私は黒咲くんの手を掴み、反対の手を空に掲げる。
星を掴む勢いで背伸びをし、目に光を映していた。
「こうなったら大大大成功にしよう!!」
「……ああ!」
諦めなんて必要ない。
まだ終わってない。
だって時は終わらなかった。
私たちはここで魔の大王に襲われることなく生きているのだから。
風がふき、河川敷の草がそよそよと揺れ、川がせせらいでいた。
「……時森、年越ししたらちょっと時間ちょうだい」
「え?」
「話したいことあるんだ」
キラキラしたながらも真剣な面持ちで見つめられれば、真冬なのに頬が熱くならないわけがなかった。
(なんだろ? まぁ、今は楽しもう)
「ん、わかった。またその時ね」
ーーさぁ、星祭りの年越し開幕だ!!
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第12話《My soul,Your Beats》#5
