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第13話《BALLAD》#1 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

█第12話《My soul,Your Beats》#5

█第13話《BALLAD》#1


僅かにカーテンの隙間から射し込む日差しの中で目を覚ます。

ぼやけた視界が段々とはっきりした輪郭に変化していく。

「星祭りっ!!  ……え?」

起き上がった場所はベッドの上。

周りを見渡すと自分で選んだお気に入りの白いタンスに薄型テレビ、ローテーブル。

やや幼い雰囲気の薄ピンク色をした星柄カーテンはお気に入りで何年も使用中。

ここ最近見慣れていた部屋ではなく、自身で家具を配置した6畳のワンルームだった。


「ここ……私の部屋。でも……」

ハッとして、髪を触る。

髪が短い。

高校生の私は髪が長かったはず。

慌ててベッドから飛び降り、全身鏡の前に立つ。

写っていたのは……疲れた顔をした30歳の自分だった。


「なんで……どういうこと? 私、戻ってきたの?」

鏡に触るとベタベタと指紋が付着する。

何をどうしても高校生の私はいない。

頭の中がグルグルとする。

やがてたどり着いたのは星祭りの記憶であった。


「はっ、星祭りは!? あれからどうなったの!?」

カウントダウンをしてそれから年越しして、黒咲くんが笑ってるのを見て幸せだと感じて……。


「全然……覚えてない。私、あの後どうなったの?」

最後に見たのは笑顔の黒咲くん。

だが今、私は30歳のため黒咲くんの時間も変わっているはずだ。


「……黒咲くん」

ベッドに置かれたスマホを探し、現在の日時を確認する。

着信履歴がたくさんあったが、無視をして日付をみた。

【2022年12月12日(月)  AM10:00】

私は青ざめて腰を抜かし、ベッドに座り込む。

無我夢中でスマホのメッセージアプリを開く。


「やだ、やだっ! 黒咲くんは!?  黒咲くんはどうなったの!?」

震える手で私は通話ボタンを押していた。


ーープルルル、プルルル、プルッ!

「はいはーい、芽々こんな朝からどうしたのー? 久しぶりじゃーん」

「里穂ーっ! 私あれからどうなったの!?」

「はい!?  なんのこと!?」


私の感覚は先程まで星祭りにいた高校生。

だが通話をしている里穂は30歳の大人だ。

時間の感覚がズレているため、話が噛み合わないのも当然であった。

「ご、ごめん……。黒咲くんは……元気かな?」

「えー、卒業してからほとんど喋ってないからわかんないなぁ。家業継いで、復興会にも参加して頑張ってるみたいだけど」

その回答に唾を飲み込む。


「……黒咲くん、まだ生きてるってこと?」



「おいおい、勝手に殺しちゃダメでしょー」


吹き出すように笑い出す里穂に、私は胸をなでおろし安堵の息をつく。

「そうだね。あは、やっぱおかしかったんだよ。そうだ、そっちが夢だったんだ」

黒咲くんが自殺した、という未来がおかしかった。

あれが夢できっと今いる私は間違ったものを見てしまったのだろう。

夢と記憶がごちゃごちゃなだけで、自殺の未来はない。

あんなにキラキラ笑っていた黒咲くんを、私は隣りで見ていたのだから。


「……あのさ、言う必要ないと思って言わなかったんだけど」

「んー?」

「黒咲くんのお父さんなんだけど、亡くなったんだよね」


時が止まったかのような感覚がした。

冷たい汗が背中を伝う。

スマートフォンを持つ手が震えた。


「えっ……何で……」

「なんか急に倒れてそのまま亡くなったみたい。 旦那が言うには脳卒中じゃないかって」

「それっていつの話!?」

「今年の……7月だったかな。 月末だった気がするんだけど」

「7月……」


(なんだろう、妙に引っかかる)


私は何が大切なキーワードを落としている。

このタイムリープした時系列も、夢の時系列も同じことが共通しているはずだ。

そしてそれは、タイムリープでさえ改変出来なかった決定的なこと。

ふと、私の中に卒業式の日の記憶が駆け巡った。

***


卒業式の日、みんながそれぞれの反応を示しながら卒業証書の入った黒筒を握りしめていた。

友達と別れ、校門の前で私は黒咲くんと対峙する。

風に髪をさらわれそうになるので、手で抑えながら私ははにかんでいた。

「卒業、おめでとう」

「……なぁ、時森。 お前、本当に星祭りのこと覚えてないのか?」

黒咲くんの言葉に私は眉を下げ、ヘラりと笑う。


「ごめん。あの辺りの時期のこと、覚えてなくて」

「……そっか」


何故、そんなに切なそうに微笑むのか。

黒真珠の揺らめきが私を捉えて離さない。

これまで黒咲くんの笑顔を好きだと思っていたのに、この微笑みは手を伸ばさないといけないとさえ思ってしまう。

だがこの手は、黒咲くんの何者でもないから。

星に触れてはいけないとブレーキがかかっていた。


「でもありがとう。 俺、前向いてがんばるから」

「え?」

「いつか、約束果たせるよう頑張るから」

「約束?」

「……今は、いいよ。 時森は時森の道を進んでくれ」

「……うん」


きっと私は大切なことを忘れてしまった。

それを聞き返すことは、何かが狂ってしまいそうで出来なかった。

キラキラした一番星に影が見える。

これまでこんな影を見たことがあっただろうか。

いや、既視感はあるのにそれを私は知らない。


「……なぁ、時森はノストラダムスの大予言って覚えてる?」

「あ、うん!  覚えてる! なんか小学生のときに話題になったやつだよね?  懐かしー!」


子どもの時に世界が終わると言ってそれぞれ笑っていたり、絶望していたりと踊らされていた。

その単語を聞いてもただ、ある日フッと終わって疑問にも思わないのだろうと考えていた。

だから今、誤魔化すように黒咲くんの前で笑う自分が気味悪かった。


「みんな世界が終わるって騒いでた」

「終わらなかったな。……あの時終わったのはじいちゃんだけ」

「おじいさん?」

「じいちゃんが亡くなったの、ノストラダムスの大予言の7の月なんだ」


ゾクッと全身に鳥肌が立つ。

これは何だろう。

一番星とはこんなに鈍い光だっただろうか?

どうして気づかなかったのだろう?

とても輝いているようで、よく見れば傷だらけだ。


「終わるはずだった世界でじいちゃんは死んだ。 俺は……まだ生きてる。 じいちゃんが残した世界で生きてるんだ」

「……おじいさんのこと、大好きだったんだね。それが黒咲くんのやりたいこと?」

「うん。だから頑張るよ。 親父のことも支えてやりたいし」

(その話は、私の知らない私が聞いた話?)


「それじゃ、俺行くわ。 寄るところもあるから反対方向」


右と左に分かれていく。

背を向けたとき、私は嫌な予感がした。

慌てて振り返ると、黒咲くんも振り返っていて口角をあげ歯を見せて笑っていた。


「本当にありがとう。また、会おうな。それまで元気で」

「黒咲くん!  私っ!」

「……時森?」


手を伸ばしたい。

どうして離れていく背中を思い出すのか。

はじめて見たときよりもずっと大きく、大人の体付きになっている。

だけどその背中を抱きしめたいと思うのに、この手は伸ばしてはダメだと警告を受ける。

頭が割れるように痛くなった。


「……なんでもない。三年間、ありがとう」

大好きな私の一番星。

(手を伸ばすのが怖いのは……私が弱いからだね)


ーー向き合うだけの自信を持てなかった。

「バイバイ、黒咲くん」

「……ん、バイバイ」

反対方向へ、歩いていく。

今の私は、振り返ることが出来なかった。

「また会えたらいいな、私の初恋」



█NEXT
第13話《BALLAD》#2


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