詩 行合の空
もう少し、わたしに白髪がふえたら、キッチンであなたが踊っていたら、やっぱりちょっと、笑ってしまうかもしれない。豊かな毎日を、その豊かさと引き換えに「空が降りてくる」という、美しい怖さを知らなかった。まだ飛べないということ、飛ばないということではなく。慎重に水をのんでいるあなたは、柔らかい傷のあるくだものみたい。令和が過ぎたころには、わたしたちは、すでに百歳を超えて、いつまで生きるんだろうという思いも最早ないまま、ひそかに、ささやかに、最後は息を吸う。それをすることで終わるのだと頑なな、意思をもって。みなものように窓から、あなたの春が降ってきて、それから夏を迎えて、それもまた通り過ぎたころに、台風の夜が更ける。からっとした空になるのかな。服を着替えるとき、肌に透ける、命を、透明な、水よりも、もっときらきらしている「それって」、海みたいだと思う。海岸沿いを行くバスに乗り込んだ光は、写真に写ることなく、また写されることもなく、道のそばに溜まって、少し消えた。その揺らいだものを世界と呼ぶ。どんぐりを拾うあなたと、それをみて、懐かしいと思うわたし。前世はりすの夫婦、だったかもしれない。心地よい朝、目覚めると、おいしそうな季節のあたたかい、香りがして、同時に少し涼しかった。

