2016 イーロン・マスクインタビュー(聞き手 サムアルトマン)
なぜイーロン・マスクはAI、火星、Tesla、OpenAIに取り組んだのか
──2016年、Sam Altmanとの対談から見える「役に立つこと」の哲学
2016年9月。まだOpenAIが設立から半年ほどしか経っていなかった頃、Sam Altmanはイーロン・マスクに「未来に最も重要な問題は何か?」と尋ねた。
当時のOpenAIは40人程度の小さな非営利組織だった。ChatGPTも存在せず、AIブームが本格化する前夜だった。
しかし今振り返ると、この対談にはその後の10年間を形づくる重要な思想がほぼすべて含まれている。
AIの民主化。
Neuralinkの原型となる脳とコンピュータの接続。
火星移住。
Teslaのギガファクトリー。
そして何より、「どうすれば社会にとって最も役に立てるのか」という人生哲学である。
この記事のサマリ
AIは人類に最も大きな影響を与える技術であり、その発展を正しい方向へ導くことが重要
遺伝子工学と脳インターフェースは次世代の重要技術になる
キャリア選択で最も重要なのは「どれだけ人の役に立つか」
社会的価値は「改善量 × 影響を受ける人数」で決まる
技術進歩は自然には起こらず、優秀な人が努力し続けて初めて実現する
勇気とは恐怖がないことではなく、恐怖を抱えながら行動すること
火星移住は実現可能な未来になった
AIは独占ではなく民主化されるべき
人間とAIは対立するのではなく共生する可能性がある
真の競争優位は製品ではなく「製品を作る工場」にある
印象的だった発言
「世界を変えなくてもいい」
社会にとって役立つことをしているなら、それは良いことだと思う。
多くの若者は「世界を変えなければならない」と考えがちだ。
しかしマスクは意外にも、もっと現実的な視点を持っている。
重要なのは壮大なビジョンではなく、人々にとっての価値なのである。
「AIは最も重要な問題だ」
AIは近い将来、人類に最大の影響を与えるものだと思う。
2016年時点でこの発言をしていたことは驚異的だ。
当時はまだ生成AIも存在せず、世間の関心は自動運転やIoTに向いていた。
しかしマスクは既にAIを「人類の未来を左右する技術」と位置付けていた。
「PhDはおすすめしない」
Sam Altmanが
「今の若者はPhDを取るべきですか?」
と尋ねた時の答えは非常にシンプルだった。
ほとんどの場合、おすすめしない。
その理由も明快である。
博士号は取れても、実際の世界に何の影響も与えない研究はたくさんある。
学問を否定しているのではない。
「知識を増やすこと」と「世界を前進させること」は別物だという指摘である。
「技術は放っておくと退化する」
多くの人は技術は毎年勝手に進歩すると考えている。
この考え方は非常に重要だ。
私たちはスマートフォンやAIの進歩を見ていると、技術発展が自然法則のように感じてしまう。
しかし歴史を見ればそうではない。
ローマ帝国は高度な水道網を作ったが失われた。
エジプト人は巨大ピラミッドを建設したが、その技術も継承されなかった。
文明ですら後退する。
だからこそ、進歩は誰かが意図的に作らなければならない。
「勇気とは恐怖がないことではない」
私が最も印象に残った部分はここだった。
私は強く恐怖を感じる。
世間はイーロン・マスクを「恐れを知らない天才」として描く。
しかし本人の認識はまったく違う。
SpaceX創業時。
成功確率は10%未満。
Teslaも失敗する可能性の方が高かった。
それでも挑戦した。
なぜなら成功確率よりも、挑戦する意味の方が大きかったからだ。
OpenAI設立時に語られた「AI民主化」の思想
現在のOpenAIを巡る議論を見ると非常に興味深い。
なぜなら2016年時点のマスクはこう語っているからだ。
AIは一社や少数の人間が支配してはいけない。
そして続ける。
それがOpenAIを作った理由だ。
当時のOpenAIは非営利組織であり、目的はAI技術を社会へ開放することだった。
現在のAI業界を考える上でも非常に示唆的な発言である。
「機械を作る機械」が未来を決める
対談の最後で、マスクはその年最大の気づきを語っている。
最も重要なのは機械を作る機械だ。
多くの人はTeslaを自動車会社だと思っている。
しかしマスク自身はそう考えていない。
彼が見ていたのは製品そのものではなく、製品を生み出すシステムだった。
これは経営にも通じる。
優れた成果を出す企業は、優れた製品だけではなく、優れた組織や学習システムを持っている。
結果ではなく、結果を生む仕組み。
マスクが見ていたのはそのレベルだった。
おわりに
このインタビューを通して見えてくるのは、「壮大な夢を語る起業家」としてのイーロン・マスクではない。
むしろ一貫しているのは、
「どうすれば人類にとって最も役に立てるか」
という問いである。
AI、Tesla、SpaceX、OpenAI、Neuralink。
一見するとバラバラに見える事業群も、その問いから逆算すると一本の線でつながる。
そして彼が繰り返し語るのは、未来は自動的に良くなるわけではないということだ。
技術も文明も放っておけば衰退する。
だからこそ、誰かが前に進めなければならない。
その思想こそが、現在のイーロン・マスクを理解する上で最も重要なポイントなのかもしれない。
詳細に興味ある人のために逐語サマリ訳↓
Elon Musk Interview with Sam Altman(2016.9.15)
逐語訳 Part1(00:00〜05:56)
(00:00)導入
Sam Altman
今日はイーロン・マスクに来ていただきました。
イーロン、参加していただきありがとうございます。
Elon Musk
こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。
Sam Altman
今日は、未来についてのあなたの考えや、人々が何に取り組むべきかについて話したいと思います。
まず最初にお聞きします。
あなたは若い頃、自分が取り組むべき最も重要な問題が5つあると考えていたことで有名です。
もし今あなたが22歳だったら、どんな5つの問題に取り組むと思いますか?
(00:20)社会にとって役立つことが重要
Elon Musk
まず最初に言いたいのは、
誰かが社会にとって有益なことをしているなら、それは良いことだと思うということです。
必ずしも世界を変える必要はありません。
人々に高い価値を提供するものであれば、それは十分に価値があります。
正直なところ、
小さなゲームでもいいですし、
写真共有サービスのちょっとした改善でも構いません。
もしそれが少しでも多くの人の役に立つなら、
それは良いことです。
世界を変える必要がなければ価値がない、というわけではありません。
(00:49)AIは人類に最大の影響を与える
Elon Musk
ただし、
人類の未来に最も大きな影響を与える可能性が高いものという観点で言えば、
AIがおそらく最も重要なテーマだと思います。
近い将来において、
人類へ最大の影響を与える可能性があるからです。
ですから、
AIが良い形で実現されることが非常に重要です。
未来を見通せる水晶玉があったとして、
その未来を見た時に、
「そうなってよかった」
と思える結果になるようにしなければなりません。
AIは間違った方向へ進む可能性があります。
私たちは何度もこの話をしてきましたが、
本当に正しい方向へ進むようにしなければならないのです。
AIに取り組み、
素晴らしい未来を実現すること。
それが今、最も重要で緊急性の高いテーマだと思います。
(01:36)遺伝学の可能性
Elon Musk
次に挙げるなら、
遺伝学に関するあらゆることです。
もし遺伝子疾患を解決できるなら。
もし認知症やアルツハイマー病を、
遺伝子の再プログラミングによって予防できるなら。
それは本当に素晴らしいことです。
ですから、
遺伝学はおそらく二番目に重要なテーマだと思います。
(02:10)脳とコンピュータをつなぐ未来
Elon Musk
そして、
脳との高帯域インターフェースです。
現在の私たちは、
情報のやり取りの速度によって制限されています。
私たちはすでに、
メールやコンピュータ、
スマートフォンやアプリケーションを通じて、
デジタル上の第三の自己を持っています。
ある意味で私たちは既に超人的です。
しかし、
大脳皮質とそのデジタル上の自己との間をつなぐインターフェースの帯域幅が、
極端に狭いのです。
その制約を解決できれば、
未来にとって非常に重要な意味を持つでしょう。
(02:46)「次のイーロン・マスク」になるには?
Sam Altman
私が若い人たちから最もよく聞かれる質問の一つがあります。
野心的な若者たちは、
「次のイーロン・マスクになりたい」
と言います。
もちろん、
次のイーロン・マスクはあなたとは違う問題に取り組むでしょう。
ですが、
若い頃にあなたがやったことで、
大きな影響を与える人間になるために役立ったことは何だと思いますか?
(03:14)大学時代に考えていた5つのテーマ
Elon Musk
まず言っておきたいのは、
私は必ずしもそれらすべてに自分が関わるとは思っていなかったということです。
大学時代、
今から25年ほど前ですが、
私が重要だと思っていたテーマは、
人類を多惑星種にすること、
持続可能エネルギーへの移行を加速すること、
インターネット、
そして遺伝学とAIでした。
しかし、
私はそのすべてに自分が関わるとは思っていませんでした。
(03:43)最初は電気自動車の研究をしていた
Elon Musk
実際には、
私はまず電気自動車の電動化に貢献するところから始めようと考えていました。
インターン時代には、
エネルギー貯蔵技術として、
バッテリーの代わりになる可能性がある高性能ウルトラキャパシタの研究をしていました。
その後スタンフォードへ進学した時も、
大学院で取り組もうとしていたのは、
電気自動車向けの先進的なエネルギー貯蔵技術の研究でした。
(04:13)なぜインターネット企業を始めたのか
Elon Musk
しかし1995年に、
私はそれを中断してインターネット企業を始めました。
なぜなら、
ある技術には特定のタイミングというものがあるからです。
急激な成長曲線の入り口に立つ瞬間があります。
私はスタンフォードで博士課程に進み、
その変化をただ眺めているだけにはなりたくありませんでした。
また、
自分が研究していた技術が本当に成功するかどうかも確信が持てませんでした。
博士号は取れるかもしれません。
しかし、
最終的に現実世界にほとんど影響を与えない研究も数多くあります。
(04:40)「役に立つこと」が最適化関数
Elon Musk
私は本当に、
ただ役に立ちたかったのです。
それが私の最適化関数でした。
自分には何ができるのか。
何をすれば実際に人々の役に立てるのか。
それを考えていました。
(05:03)PhDは取るべきか?
Sam Altman
今の人たちはPhDを取るべきだと思いますか?
Elon Musk
ほとんどの場合、
そうは思いません。
Sam Altman
では、
人々はどうすれば最も役に立てるのでしょうか?
(05:20)社会的価値は「改善量×人数」
Elon Musk
何かを作ろうとしているなら、
まず考えるべきことは、
それが現在の最先端の状態と比べてどれだけ改善するかです。
そして、
それが何人に影響を与えるかです。
大きな変化を少人数にもたらすことも素晴らしいことです。
同様に、
小さな変化でも膨大な人数に影響を与えるなら素晴らしいことです。
Sam Altman
つまり面積ですね。
Elon Musk
そうです。
その曲線の下の面積です。
その二つは、
実はほぼ同じ価値になる可能性があります。
だから結局のところ、
重要なのは「役に立つこと」なのです。
