明治時代にも刑法に規定がなかった「日本国国章損壊の罪」(国旗損壊罪)の問題点を考えたーいかようにでもとれる条文には注意が必要
現在の日本の刑法は、1907(明治40)年に制定されたものがベースで、改正を重ねて現在に至っています。そこに、参政党が2025年10月27日、「国旗損壊罪」を新設する刑法改正案を提出しました。
同党のホームページで確認すると、「第四章 国交に関する罪(第90条ー94条)」に、「第四章のニ 日本国国章損壊の罪」を加え、「第94条の2 日本国に対して侮辱を加える目的で、日本国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁系又は二十万円以下の罰金に処する」を追加するというものです。提出理由は「日本国に対して侮辱を加える目的で、日本国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損する行為についての処罰規定を整備する必要がある」となっています。
また、自民党と日本維新の会連立合意書にも「26年通常国会において、『日本国国章損壊罪』を制定し、『外国国章損壊罪』のみ存在する矛盾を是正する」と明記されており、制定が現実味を帯びています。自民党は2012年に現首相も条文策定にあたって同様の法改正案を提出しましたが、審議未了、廃案となっています。そういう意味では、これまでもたびたび必要性を政治家が訴えてきたというものです。
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その前に、現在刑法92条に規定されている「外国国章損壊等罪」は、どういう内容でどんな経過を経て来たか、みてみます。条文は「1、外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する。2、前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない」というものです。その後の日本国内の判例では、大使館など公式な場に掲げられた国旗への損壊等が対象となるとされ、それ以外は器物損壊で対応しています。
この92条が「国交に関する罪」の項目に入っていることからも、諸外国との外交に悪影響を与える行為に対して処罰が必要と考えられたためのもので、それゆえ、公式の旗の棄損に対して特別に項目を設けることによって、友好提携と相手への尊重の意思を国家として示したといえます。ただし、これが濫用されないよう、相手国からの請求が必要という親告罪になっている点も見逃せず、相手の処罰感情なども含めて総合的に判断するとしたということでしょう。
今回の条文の提出理由には入っていませんが、外国の国旗に対する損壊罪はあるのに、日本国旗に対する損壊罪がないのはおかしいといった理由が、2012年も今回も談話として出ています。
しかし、ここに一つのマジックがあります。先に述べたように、外国国旗に対する損壊罪は、あくまで外交関係を考慮して制定したものです。形式だけ、同じ国旗の問題だからというのは、筋が通りません。
筋が通らないから、わざわざ「国交に関する罪」の章にねじ込み、この外国国旗損壊罪と並立しているように見せるごまかしのように見えます。ちなみに「94条の2」としていますが、「94条」は「中立命令違反罪」です。日本国旗への損壊とは、そもそもなんの関係もありません。立法府の代表として、恥ずかしくないのでしょうか。
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2025年11月1日の信濃毎日新聞は、この件について社説に取り上げました。
この社説は「国旗をあえて燃やしたり、破ったりする行為は、政治的な意思を表す方法の一つである。刑罰によってその行為自体を封じるのは、表現の自由の保障に抵触する。米国では、処罰規定を違憲とする判決を連邦最高裁が出している」としています。日本に暮らす人が政府への抗議をするのは、主権者として当然認められている行為です。その行為の一つを縛る法律を今、制定する理由は見当たりません。
また、2012年当時、日本弁護士連合会は、国旗損壊罪について法改正に反対する声明を出しています。
その中から抜粋しますと「刑法における外国国章損壊罪が規定された理由は、それらの罪に当たる行為が外国を侮辱するものであることから、国際紛争の火種となり、外交問題にまで発展する可能性があり、ひいては日本の対外的安全と国際関係的地位を危うくするからとされている。他方、上記『国旗損壊罪』の保護法益は明確でないが、少なくとも外国国章損壊罪と同様の保護法益が存在しないことは明らかである」としています。
何を守るために国旗損壊罪を設けるかが明確ではない、少なくとも外国国章損壊罪と同様ではない、と言って居る点が重要です。バランスを欠くから設けるという論理は破綻しています。
実際、信濃毎日新聞社説では、1987年の沖縄国体で掲揚された国旗が引きずり降ろされ燃やされた事件では器物損壊で有罪となっているとし、現在でも、公式な国旗を棄損した場合に処罰が可能な法律はあるとします。そういう点からでも、立法の必要性に欠けると言えそうです。ちなみに、器物損壊罪は3年以下の懲役か30万円以下の罰金です。
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では、なぜ参政党はこの改正案提出を急いだのか。何が狙いなのか。参政党神谷代表は、7月の参院選における参政党の街頭演説で、「バツ」印を付けた日の丸を掲げた市民らの抗議を受けたことがあったとして、「国家に対する冒瀆にもなり、早めに法制化しようと選挙中から準備を始めていた」とインタビューに答えています。
ここが肝心なところです。当然ですが、抗議をした時に使われた旗は私物でしょう。そして条文は、公式な場の公式な旗であるかどうかを明記せず、「日本国に対して侮辱を与える目的」によって処罰するとしています。自身の党の演説にバツ印の日の丸が使われたことがきっかけ、と話すぐらいですから、誰かが「日本国に侮辱を与えた」と思えば逮捕拘留ができるように狙っているのは明らかでしょう。
日本弁護士連合会は、先の声明で、次のようにも指摘しています。
「国家の威信や尊厳は本来国民の自由かつ自然な感情によって維持されるべきものであり、刑罰をもって国民に強制することは国家主義を助長」しかねないと強調。
そして「損壊対象の国旗を官公署に掲げられたものに限定していないため、国旗を商業広告やスポーツ応援に利用する行為、あるいは政府に抗議する表現方法として国旗を用いる行為なども処罰の対象に含まれかねず、表現の自由を侵害するおそれがある」としています。
ここで、先ほどの「外国国章損壊等罪」をみてみますと、適用の要件に相手国側からの申請が必要としています。何をもって侮辱と線引きするかが困難であるため、「相手がそう感じたら」適用するとしています。これに対応する条文はないので、誰でも「そう感じたら」訴えができ、極めて恣意的に運用が可能となる点に注意が必要です。
つまり、この条文は、判例が積み重なるまで、恣意的に運用される可能性が高いわけです。しかも、訴えのハードルが「日本国に侮辱を与えた」と思われればいいだけですから、芸術表現にしても、抗議活動にしても、はたまた、気に食わない相手の不注意でも、訴えが可能であり、刑法にある以上、訴えがあれば警察は動いて事情聴取などをすることになります。こうした行為が簡単に可能になることは、一般人にとってかなりのプレッシャーとなります。
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戦前の資料から、日の丸に関するものを拾ってみますと、こんなものがあります。



また、日露戦争前には、各国の大砲の試射目標に日の丸の旗を使い、ずたぼろにしたという事例を、昼寝猫さんが紹介してくださっています。
例えばこの寄せ書きは、武運長久を祈る目的であるといえるので、これが問題になることはないでしょう。しかし、例えば添え書きの内容によっては反戦で国家を侮辱と言い募ることも無理ではありません。2番目のものは故意に汚損させた、3番目のものはやはり使っていて破れ捨てたら侮辱とこじつける可能性がないわけではありません。何しろ、内心を問うわけですから、何とでも言えるわけです。
信濃毎日新聞社説は、中国の例を引き合いに出します。そして「香港では、中国による支配の強化に抗議して国旗を燃やしたり、逆さに掲げたりした学生や活動家らが『国旗侮辱罪』で相次いで逮捕、起訴されてきた。権力が市民を弾圧する手段になり得る危うさに目を凝らす必要がある」と注意喚起しています。
日本弁護士連合会の声明では、国旗国歌が戦前の侵略時と変わっていないことも指摘し、「国旗・国歌法制定の際の国会質疑においても、こうした過去の経緯に配慮して、国旗・国歌の義務付けや尊重規定を設けることは適当でない旨の政府答弁がなされている」としています。
最後に、こちらの品に絡む話を一つ。戦時下の工場などでよく使われた国旗類似の鉢巻きです。

戦時下の信濃毎日新聞への投書で、工場で配られたこうした鉢巻きは広げると手ぬぐいと同様なので、銭湯で使われているのを見た人が、神聖な精神で使うものをそんな扱いをしてけしからんとしたものがありました。庶民の意識は当時でもそんなものです。そうした外形から内面へ立ち入るような法は、御免蒙ります。
おまけに、今回は参政党の選挙での思いや実績作りから拙速に出された側面もあります。もしこの条文が通れば、何が問題になるかわかりませんから、国内のあらゆる場所、デザインから日の丸が消えかねませんね。
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