「狭すぎるウィンドウ」:角田裕毅とRB21、初予選で直面した“現実”
夢にまで見たレッドブル昇格。しかし、その第一歩は思いのほか厳しいものとなった。
2025年日本GP、母国ファンの前でレッドブルのマシンを駆るという角田裕毅にとって、特別な週末であったことは言うまでもない。しかし、その予選結果はQ2敗退、15番手というもの。数字だけを見れば、期待に応えられなかった―そう評されても仕方ない結果だ。
だが、そこに至るまでの過程を紐解くと、角田がどれだけ難しい状況で戦っていたか、そしてRB21というマシンがどれほど“ピーキー”な存在であるかが浮き彫りになる。

■ アウトラップの落とし穴とウォームアップの失敗
予選で角田が最大の落とし穴にはまったのは、Q2の2回目のアタック前のアウトラップだった。最後のアタックに向かうアウトラップで、角田はメルセデスのキミ・アントネッリに途中で抜かれ、自分のペースで走れないまま、アタックラップに入っていた。FIAからも呼び出しを受けるほど遅かったそのラップは、単なるマナー違反以上の意味を持っていた。
タイヤのウォームアップ、特にリアタイヤの発熱が不十分な状態でアタックに入ってしまったため、アタックに入る前のシケインの立ち上がりでリアを滑らせ加速が鈍り、セクター1ではQ2の1回目、つまり中古タイヤでの記録をすら更新できなかった。角田自身も、「タイヤの温めをちゃんとできなかったのが一番でした」と語っている。
自らも語るように、「このマシンが機能するウィンドウってすごく狭くて、ほぼすべての要素が完璧に揃わないとダメ」。まさにこの「狭すぎるウィンドウ」を見誤ったことで、角田のQ2は始まる前に事実上終わっていたと言える。

■ RB21――“天使”にも“悪魔”にもなりうるマシン
RB21は、乗りこなせれば抜群に速い。しかしその一方で、完璧なタイヤマネジメント、シャシーへの理解、そして極端に狭いオペレーティングウィンドウの中でマシンを最大限に機能させることが求められる。フェルスタッペンという特異な才能を前提として設計されているこのマシンは、言ってみれば「マシンを信じてくれるドライバーにだけ応えてくれる」存在だ。
そして、ローソンも語っていたように、「RB21は乗ってみないと分からない」ほど扱いが難しい。角田自身もシミュレーターでは違和感がなかったにも関わらず、実車に乗って初めてその難しさを実感したと明かしている。
■ Q1では速さを見せた――問題は“再現性”
興味深いのは、Q1で角田がトップからわずか0.1秒差の7番手につけていたことだ。ホーナー代表も「Q1では非常に競争力があった」と語っている。つまり、単発のパフォーマンスを引き出す能力は証明済みだったのだ。なのでQ2最後のアタックでも新品ソフトを履けば、問題なくQ3へ進出できるはずだった。
問題は、それをQ2で“再現”できなかったこと。その理由がウォームアップの失敗にあったとすれば、技術的というよりも「経験値」と「適応力」の差であり、これは走行距離を重ねることで埋められる部分だ。

■ 比較されるローソン、しかし視線を向けるべきは“今後”
興味深いのは、より遅いレーシング・ブルズのマシンに戻ったローソンが角田を上回ったことだ。しかし、これをもって即座に「交代は間違いだった」と結論づけるのは早計だ。
ローソンが時間を与えられず、RB21で苦しんだのと同様、角田もまた学習中の段階にある。むしろFP1からFP3、そしてQ1に至るまでの適応の速さを見る限り、彼がこのマシンにフィットする日も遠くないように感じられる。
ホーナーの言葉を借りれば「Q2の結果は、ここまで彼がやってきた仕事を正確には表していない」。まさにこの一言に尽きる。

■ 「教科書を読み終えた」角田の次の一手
角田はこう語る。「それ以前に、まだ(RB21が)十分に理解できてない。Q2の時点でようやくレッドブルの教科書を一通り読み終えたって感じだよ」。これは単なる比喩ではなく、RB21という“レッドブルの文法”を理解し始めたという手応えだろう。
あとは実戦の中で、学んだことをいかに定着させ、再現性のある速さへとつなげていくか。それが次戦以降の課題となる。
■ まとめ:夢の入り口は、厳しさとともにある
レッドブル昇格――それは栄光の入り口であると同時に、冷酷な現実にさらされるスタートラインでもある。角田裕毅の日本GP予選は、そのことを改めて我々に思い知らせてくれた。
だが、悲観するにはまだ早い。初日からRB21と格闘し、そして手応えを掴みつつある彼の姿は、確実に次なる成果への布石となるだろう。
むしろ問題はこれからだ。彼がその教科書を閉じ、いかに自分の“物語”を書き始めるか――決勝レースの角田に、我々は静かに注目したい。
