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労災の時効が2年から5年へ。骨折0.1%、石綿8.3%が示した制度のひずみと、2027年4月から変わる請求実務:労災保険法等の改正

時効は5年に延びます。それでも給付は1日も早くなりません

まだ労災と決まっていない書類に、病院は判を押してきました


2026年7月10日に参議院を通過した労災保険法等の改正で、何が変わり、何が変わらないのか。政令で定める疾病について、療養補償給付や休業補償給付を受ける権利の消滅時効が2年から5年へ延びる仕組み。対象として想定されている脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病。時効を止めるためだけの追加請求は減る一方で、「認定が出てから請求すればいい」とは言い切れない理由。遺族補償年金の153日分が175日分に一律化される背景。施行日前に生じた疾病には原則として従来の時効が残ること。そして、期限が延びたからこそ、現場で今すぐ始めておくべき記録の残し方を扱います。

セオドアアカデミー独自まとめ

7月10日に決まったこと

2026年7月10日、参議院本会議で「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案」が可決され、成立しました。衆議院本会議の可決が6月2日、参議院厚生労働委員会の可決が7月9日です。確認できる範囲では、参議院の議案情報に公布年月日と法律番号はまだ記載がありません。

厚生労働省が公表した法律案の概要を読むと、改正は5つの束でできています。

  • 遺族補償年金の支給要件等の見直し

  • 労災保険給付請求権等の消滅時効期間の見直し

  • 労災保険の適用事業に関する暫定措置の廃止(農林水産業の小規模個人経営の一部を強制適用へ)

  • 特別加入団体の要件の法定化と、業務改善命令・保険関係消滅の仕組み

  • 社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立て先を、労働保険審査官・労働保険審査会へ統一

施行期日は原則として2027年4月1日。ただし暫定措置の廃止だけは、公布の日から5年以内で政令が定める日とされています。

厚生労働省「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案の概要」(2026年)

このうち、医療と介護の窓口をいちばん揺らすのが、二番目の時効です。

条文には病名が並んでいません。「その疾病の性質上、災害補償の事由に該当するものかどうか等を容易に判断することができない疾病として政令で定めるもの」。この持って回った言い方の中に、脳梗塞も、うつ病も、中皮腫も入ります。

出典:厚生労働省開示資料

骨折と石綿の、83倍の距離

なぜ2年では足りなかったのか。労働政策審議会の労災保険部会は、2025年9月から2026年1月にかけて議論を重ね、1月14日に建議を行いました。その材料として示された数字が、静かに事情を語っています。

令和5年度に請求された休業補償給付のうち、最初の休業日から2年を過ぎて請求されたものの割合。

  • 骨折 0.1%

  • 精神障害 2.6%

  • 脳・心臓疾患 5.7%

  • 石綿関連疾病 8.3%

骨折と石綿関連疾病のあいだには、83倍の開きがあります。脳・心臓疾患でも57倍。これは「うっかり忘れていた人が石綿には多い」という話ではありません。病気の側の性質が違うのです。

厚生労働省「労働政策審議会建議『労災保険制度の見直しについて』」(2026年1月14日)

転んで手首を折れば、その場で誰もが労災だと分かります。ところが、夜勤明けの朝に倒れた職員のくも膜下出血が、業務によるものかどうかは、その日には誰にも分かりません。休職から半年たって、ようやく主治医の口から「これは職場のことが影響していますね」と出てくる。石綿にいたっては、若いころ働いた造船所の記憶を、七十代になって手繰り寄せることから始まります。

気づくまでに時間がかかる病気に、気づいてから2年という物差しを当てていた。ずれていたのは、患者ではなく物差しのほうでした。

今回概要まとめ図

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