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「ケアマネ受験資格を緩和しても、現場は満たされない」3つの理由と55万人の専門職が動かない本質。転職で年収が減少する?「3年で受験OK」になっても、ケアマネジャーが増えない可能性がある本当の理由とは?

処遇改善なき制度改革の限界:ケアマネ不足が解消されない構造的ジレンマ

介護保険部会資料より

どーも、セオドアアカデミーです。

「ケアマネジャーの受験資格が緩和されるらしいよ」

そんな話を聞いて、あなたはどう感じましたか。

「これで介護現場の人手不足が解消されるかも」と期待した方もいるかもしれません。あるいは、「でも、本当に人は増えるのかな?」と疑問を抱いた方もいるでしょう。

実は、その疑問こそが核心をついています。

 今回の改革案は、診療放射線技師や臨床検査技師など5つの医療系国家資格を新たに受験対象に加え、さらに、実務経験年数を5年から3年に短縮するというもの。
 数字だけ見れば、受験資格を持つ人が一気に55万人以上増える計算です。

でも、冷静に考えてみてください。

受験できる人が増えることと、実際に現場で働く人が増えることは、同じでしょうか。

 今日は、この改革案を「受験者は増えるのか」「現場で働く人は増えるのか」という2つの視点から、じっくり掘り下げていきます。
 統計データと現場の実態を照らし合わせながら、「なぜ資格制度の改革だけでは人手不足が解決しないのか」を一緒に考えていきましょう。


改革案のポイント|門戸は広がるが、その先は?

 まず、今回の改革案で何が変わるのかを整理しておきます。

変更点は大きく分けて2つ。「受験資格の拡大」と「実務経験年数の短縮」です。

新たに5つの国家資格が対象に

 これまでケアマネジャー試験を受けるには、医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士といった、いわゆる「対人援助職」の国家資格が必要でした。

今回の見直しで、以下の5つの資格が新たに加わります。

  • 診療放射線技師

  • 臨床検査技師

  • 臨床工学技士

  • 救急救命士

  • 公認心理師

 これらの資格保有者を合計すると、全国で約55万人。受験資格を持つ人の母数が、一気に膨らむことになります。

厚生労働省の説明によれば、この改革の狙いは「医療・介護連携の強化」。在宅医療が広がる中で、医療機器の管理や急変時対応に強い専門職がケアマネジャーになることで、利用者により質の高いケアプランを提供できる、というわけです。

実務経験は5年から3年へ

もう一つの大きな変更が、実務経験年数の短縮です。

 これまでは「5年以上の実務経験」が必須でしたが、今回の案では「3年以上」に緩和されます。

この変更の背景には、介護福祉士の資格取得ルートとの整合性があります。介護福祉士になるための実務経験ルートでは「3年以上+実務者研修」が求められており、ケアマネジャーだけが5年というのはバランスを欠いている、という指摘がありました。

一見すると、どちらも「門戸を広げる」改革です。

でも、ここで立ち止まって考えてみましょう。

門を広げれば、本当に人は入ってくるのでしょうか。


55万人の医療職、彼らは本当に受験するのか?

 新たに受験資格を得る5つの国家資格について、もう少し詳しく見ていきましょう。

資格別の就業者数

厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」(2024年)のデータをもとに、各資格の就業者数を整理すると、以下のようになります。

  • 診療放射線技師:約20万人以上

  • 臨床検査技師:約20万人以上

  • 臨床工学技士:約4万~5万人

  • 救急救命士:約6万~7万人(多くは消防機関に勤務)

  • 公認心理師:約6万~7万人(2023年末時点の登録者数)

合計すると、約55万人以上。
 これは、現在ケアマネジャーとして就業している約15万人(厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」2023年)の3倍以上の規模です。

数字だけ見れば、確かに「潜在的な受験者層」は大きく広がります。

でも、給与を比較すると......

ここで、現実的な話をしましょう。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2024年)によれば、各職種の平均年収は以下の通りです。

  • 診療放射線技師:約540万円

  • 臨床検査技師:約490万円

  • 臨床工学技士:約480万円

  • 救急救命士(消防士):約640万円

  • 公認心理師:約420万円(勤務先により大きく変動)

一方、ケアマネジャーの平均年収は、居宅で約400万円、施設でも約430万円程度。

つまり、診療放射線技師や救急救命士にとって、ケアマネジャーへの転職は「年収ダウン」を意味します。

もちろん、給与だけが仕事の価値ではありません。
 でも、責任の重さを考えると、この差は決して小さくありません。

「やりがい」だけでは説明できない転職ハードル

ある臨床検査技師の方(仮名:A子さん、40代)は、こう話してくれました。

「ケアマネジャーの仕事には興味があります。でも、今の職場を離れて、一から介護保険制度を勉強して、試験に合格して、さらに給料が下がるとなると......正直、躊躇します」

A子さんは検査室で毎日、血液検査や尿検査に向き合っています。患者さんと直接話す機会は少ないけれど、「検査結果が治療方針を決める」という使命感を持って働いています。

そんな彼女が、ケアマネジャーという「生活全体をコーディネートする仕事」に魅力を感じつつも、現実的には転職を選べない。この葛藤は、多くの医療職に共通するものではないでしょうか。

ケアマネ試験は「専門外」という壁

もう一つ見逃せないのが、試験の難しさです。

公益社団法人日本介護支援専門員協会の統計(2023年)によれば、ケアマネジャー試験の合格率は約15~20%台で推移しています。

試験内容は、介護保険制度の全体像、居宅・施設サービスの種類と特徴、給付管理、ケアマネジメントのプロセスなど、多岐にわたります。

医療職にとって、この領域は「専門外」です。

仕事が忙しい中で、わざわざ参考書を開いて勉強する。しかも合格率は2割弱。さらに合格しても、年収は下がる可能性が高い。

こう考えると、「新たに55万人が受験可能になった」という数字の裏に、実際に受験する人がどれだけいるのかは、かなり不透明です。


「実務経験3年」のインパクト|介護福祉士への効果

一方で、実務経験年数の短縮は、確実に受験者増につながると考えられます。

特に影響が大きいのは、介護福祉士です。

介護福祉士190万人の存在

日本介護福祉士会の統計(2024年)によれば、介護福祉士の登録者数は約190万人。そのうち、実際に介護現場で働いている人は約150万人とされています。

これまでは「5年経ったら、ケアマネ試験を受けよう」と考えていた人たちが、3年で受験できるようになる。つまり、受験のタイミングが2年早まるわけです。

介護労働安定センター「介護労働実態調査」(2023年)によれば、介護職の平均勤続年数は約8年。5年というのは、ちょうど「続けるか、辞めるか」を考える時期でもあります。

それが3年に短縮されれば、「もう少し頑張ってみよう」というモチベーションにつながる可能性があります。

キャリアパスの見える化

ある介護施設の施設長(仮名:B課長、50代)は、こう語ります。

「うちの職員たちは、『いつかケアマネになりたい』って言うんですけど、5年って長いんですよね
 その間に結婚、出産、育児と、ライフイベントが重なる。そうすると、『やっぱり無理かも』って諦めちゃう人も多いんです」

3年への短縮は、こうした「途中で諦める」リスクを減らす効果が期待できます。

特に20代後半から30代前半の介護職にとって、「3年後にはケアマネ試験を受けられる」という目標は、キャリアの見通しを明確にしてくれます。

ただし、「質」への懸念も

一方で、実務経験の短縮には慎重な声もあります。

全国老人保健施設協会の調査(2024年)では、ケアマネジャーを退職した理由として「経験不足を感じた」という回答が約15%ありました。

5年の実務経験は、介護現場のさまざまなケースに向き合い、アセスメント能力を磨くために必要な期間だという指摘もあります。

3年で十分な「現場感覚」が養われるのか。この議論は、今後も続くでしょう。


最大の論点:「受験者増」と「就業者増」は別問題

ここまで見てきて、気づいた方もいるかもしれません。

今回の改革案は、あくまで「受験のハードルを下げる」ものです。

でも、ケアマネジャー不足の本質は、そこにはありません。

「ペーパーケアマネ」の存在

実は、ケアマネジャーの資格を持っていても、実際には就業していない人が一定数います。

介護労働安定センター「介護労働実態調査」(2023年)によれば、ケアマネジャー資格保有者のうち、約3割が「現在はケアマネとして働いていない」と回答しています。

理由はさまざまですが、最も多いのが「業務負担の重さ」と「給与水準の低さ」です。

せっかく資格を取っても、実際に働いてみたら「想像以上にハードだった」「給料が見合わない」と感じて、離職してしまう。

この構造が変わらない限り、受験者が増えても、現場で働く人は増えません。

ケアマネジャーが辞める理由

全国老人保健施設協会「ケアマネジャー業務実態調査」(2024年)では、ケアマネジャーを退職した理由として、以下が挙げられています。

  • 業務量が多すぎる:42%

  • 給与が見合わない:38%

  • 精神的なストレスが大きい:35%

  • 事務作業に追われる:31%

ある居宅ケアマネ(仮名:C子さん、30代)は、こう打ち明けます。

「利用者さんやご家族と向き合う時間が好きで、この仕事を選びました。でも実際は、パソコンに向かって書類を作る時間の方が圧倒的に長い。しかも、家族からのクレーム対応、サービス事業所との調整、医療機関との連携......一人で抱え込むことが多すぎて、正直、限界を感じています」

C子さんの担当は35件。介護保険制度上の上限ですが、一人ひとりに丁寧に向き合おうとすると、どうしても時間が足りません。

処遇改善の対象外という現実

もう一つ、見逃せない問題があります。

介護職員には「処遇改善加算」という制度があり、給与の底上げが図られてきました。厚生労働省「介護従事者処遇状況等調査」(2024年)によれば、介護職員の平均月給は処遇改善加算の効果もあり、約32万円(常勤換算)まで上昇しています。

しかし、ケアマネジャーはこの加算の対象外です。

平均月給は約33万円前後。一見、介護職員より高いように見えますが、責任の重さや業務量を考えると、決して割に合う水準とは言えません。


医療・介護連携という視点|改革の意義はどこにあるか

ここまで、やや否定的なトーンで書いてきました。

でも、今回の改革案に意義がないわけではありません。

特に、「医療・介護連携」という観点では、一定の効果が期待できます。

医療ニーズの高い利用者の増加

厚生労働省「介護給付費等実態統計」(2024年)によれば、要介護認定者のうち、何らかの医療処置を必要とする人の割合は約45%に達しています。

在宅での人工呼吸器管理、胃ろう栄養、褥瘡ケアなど、医療的ケアを必要とする利用者が増える中で、ケアマネジャーにも医療の知識が求められています。

臨床工学技士や救急救命士の専門性

臨床工学技士は、人工透析や人工呼吸器など、医療機器の管理に精通しています。救急救命士は、急変時の対応や救急搬送の判断に長けています。

こうした専門職がケアマネジャーになれば、退院時カンファレンスでの医療職とのやり取りがスムーズになり、利用者にとってより安全なケアプランが作成できるでしょう。

ある訪問看護ステーションの管理者(仮名:D氏、40代)は、こう期待を寄せます。

「在宅で医療機器を使う利用者さんが増えていますが、ケアマネさんの中には『機械のことはよく分からない』という方もいます。臨床工学技士さんがケアマネになってくれたら、すごく心強いですね」

ただし、「生活支援の視点」は別

ただし、医療の知識だけでは、ケアマネジャーの仕事は務まりません。

ケアマネジャーに求められるのは、「生活全体を支える」視点です。

利用者の生活歴、価値観、家族関係、経済状況、地域とのつながり。こうした情報を総合的にアセスメントし、利用者が「その人らしい生活」を送れるよう支援する。

医療職としてのキャリアを積んできた人が、この「生活支援の視点」を身につけるには、現場での経験と学びが必要です。


本当に必要なのは「入口改革」ではなく「環境整備」

ここまでの議論を整理しましょう。

今回の受験資格見直しには、一定の意義があります。特に、実務経験年数の短縮は、介護福祉士のキャリアパスを明確にし、早期離職を防ぐ効果が期待できます。

また、医療職の参入により、医療・介護連携が強化される可能性もあります。

しかし、それだけでは不十分です。

処遇改善と業務負担軽減をセットで

ケアマネジャー不足を解消するには、「受験資格を緩和する」だけでなく、「ケアマネジャーとして働き続けられる環境を整備する」ことが不可欠です。

具体的には、以下のような施策が求められます。

  1. ケアマネジャーへの処遇改善加算の適用

  2. ICTツールの導入支援(AI活用のケアプラン作成支援など)

  3. 介護保険制度の簡素化(給付管理業務の効率化)

  4. スーパービジョン体制の整備(経験豊富なケアマネによる相談支援)

  5. 一人ケアマネ事業所への支援(複数配置の推進)

日本総研「ケアマネジメント業務効率化に関する調査」(2023年)によれば、ケアマネジャーの業務時間のうち、約40%が「記録・書類作成」に費やされています。

この事務作業を削減できれば、利用者と向き合う時間が増え、仕事の満足度も上がるはずです。

「誇り」を持てる職業に

何より大切なのは、ケアマネジャーが「専門職として尊重され、誇りを持って働ける」環境をつくることです。

介護労働安定センター「介護労働実態調査」(2023年)では、ケアマネジャーの約65%が「仕事にやりがいを感じている」と回答しています。

でも、「今後もケアマネを続けたい」と答えた人は約50%にとどまっています。

つまり、仕事そのものにはやりがいを感じているのに、待遇や労働環境が原因で辞めていく人が多いのです。


「門戸開放」の先にあるもの

今回の受験資格見直しは、ケアマネジャー不足という課題に対する「入口改革」です。

受験者数は、短期的には増えるでしょう。特に、実務経験3年への短縮は、介護福祉士の受験者増に直結します。

しかし、「受験者が増えること」と「現場で働く人が増えること」は、決してイコールではありません。

ケアマネジャーという仕事に魅力がなければ、資格を取っても就業しない「ペーパーケアマネ」が増えるだけです。

医療職の参入も、期待される効果はあるものの、給与や待遇の面で転職のハードルは高く、劇的な変化は望めないでしょう。

本当に必要なのは、「門戸を広げること」と同時に、「ケアマネジャーとして働き続けたくなる環境」をつくることです。

処遇改善、業務負担軽減、そして専門職としての社会的評価の向上。

これらがセットで実現されたとき、初めてケアマネジャー不足という課題は解決に向かうのではないでしょうか。

「入口を広げても、その先に魅力がなければ、人は入ってこない」

この当たり前のことを、私たちはもう一度、真剣に考える必要があります。

以上、セオドアアカデミーでした。おしまい!


参考文献

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