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マルチスクリーンと妖怪「百目」――視覚の異常拡張と現代の妖(あやかし)

こんにちは。民俗学准教授の東条紗季です。

いつも当ゼミナールを受講いただき、ありがとうございます。

​部屋のテレビで動画配信サービスを流しつつ、膝の上のノートパソコンで作業をし、さらに手元のスマートフォンでSNSのタイムラインをスクロールする。

近年、こうした複数の画面を同時に監視・消費する「マルチスクリーン」という視聴スタイルがすっかり定着しました。

​「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉に象徴されるように、現代人は少しでも時間を無駄にすまいと、膨大な情報を同時に摂取しようと試みています。

しかし、民俗学のレンズを通してこの光景を観察すると、そこには人間が自らを「異形のもの」へと作り変えようとしている、ある奇妙な進化の過程が浮かび上がってきます。

​全方位を見渡す妖怪「百目(ひゃくめ)」

​日本の妖怪伝承に「百目(ひゃくめ)」という異形の存在がいます。

その名の通り、肉体の至る所に無数の目が付いている妖怪です。暗い夜道や古い寺などに現れ、全方位を同時に見渡すことができる恐ろしい能力を持っているとされます。しかしその反面、太陽の強い光には弱く、昼間は目を閉じて隠れ潜んでいると言われています。

​この百目の姿、現代の私たちのライフスタイルと酷似していると思いませんか?

​デバイスという「外部の目」の増設

​人間には本来、二つの目しかありません。一度に一つの焦点しか合わせられないという物理的な限界があります。

しかし、情報過多の現代社会において、二つの目では到底すべての情報を処理しきれなくなりました。そこで私たちは、スマートフォンやPCモニター、タブレットという光る板を「外部の目」として空間に増設し始めたのです。

​マルチスクリーンを駆使している時の私たちは、擬似的に「複数の目」を同時に機能させています。

暗い部屋の中で、いくつものモニターの青白い光を浴びながら全方位の情報を監視しているその姿は、もはや情報社会に適応しようと独自の進化を遂げた「現代の百目」そのものです。

​結論:妖怪化する現代人

​面白いのは、伝承の百目が「強い光に弱い(目を痛める)」という弱点を持っている点です。

私たち現代人もまた、増設した無数の目(スクリーン)から放たれるブルーライトによって眼精疲労に苛まれ、自律神経を乱し、夜眠れなくなるという現代病を抱えています。これもまた、百目の生態と見事に一致しています。

​私たちは「効率」や「便利さ」を追い求めているつもりで、実は自ら進んで肉体を妖怪化させているのかもしれません。

​今夜、もしあなたが複数の画面に囲まれ、あちらこちらの情報を同時に目で追っている自分に気がついたら。

見えない無数の目が、自分の体からポコポコと生え始めている感覚を、少しだけ想像してみてください。

​筆者コメント

​本日の講義はいかがでしたでしょうか。

情報を取りこぼすまいとする人間の「強欲さ」が、結果的に古典的な妖怪のフォルムへと回帰していく現象。これだから、現代の怪異の観察はやめられません。

​(活動継続のためのサポートのお願い)

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