【考察】SNSの「勝手に一番上に戻るタイムライン」は現代の「賽の河原」か?――鬼のアルゴリズムと、崩されるスクロール
こんにちは。民俗学准教授の東条紗季です。
SNSのタイムライン(XやInstagramなど)を、数十分前の、あるいは数日前の投稿まで延々とスクロールして遡っていた時のこと。
突然、画面の中央に「新しい投稿があります」といった表示(あるいはそれすらなく)と共に、画面が勝手に更新され、強制的に一番上、つまり「最新の投稿」へと引き戻されてしまった経験はありませんか?
「ああ!あそこまで遡ったのに!」という、言葉にできない徒労感とイライラ。
民俗学の視点から見ると、このユーザーの意図を無視した一方的な時間のロールバックは、死んだ子供たちが終わりのない苦行を強要される、**「賽の河原の石積み(さいのかわらのいしづみ)」**の構造が現代のデジタル空間に顕現した怪異に他なりません。
1. 「スクロール」という名の終わりのない石積み
「賽の河原の石積み」とは、主に仏教の冥途(めいど)の伝承に登場する終わりのない苦行です。
親に先立って死んだ子供たちは、両親の供養のために、河原の石を一つずつ積み上げて塔を作ろうとします。「一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため」と祈りを込めながら。
現代の私たちがタイムラインをスクロールするという行為は、まさにこの「石積み」です。
私たちは、過去の投稿という「石」を一つずつ確認し、自分の記憶のタイムラインを構築していきます。スクロールを重ねれば重ねるほど、その「努力の石塔」は高く、強固になっていくのです。この石積みは、ユーザーがタイムラインに捧げる、貴重な「時間」そのものと言えます。
2. 「自動更新」という鬼の鉄槌と不条理な崩壊
賽の河原の悲劇は、子供たちが石塔を積み上げたその後に訪れます。
石塔が完成間近、あるいはある程度の高さになった時、どこからともなく鬼が現れ、その塔を鉄の棒(鉄槌)で一瞬にして崩し去ってしまいます。そして、子供たちを嘲笑い、また最初から積み直しを強要するのです。
現代の鬼は、アルゴリズムです。
あなたが何十分もかけて積み上げた「過去のタイムラインの石塔」を、鬼のアルゴリズムは突然、「最新の投稿を表示すべきだ」という一方的なロジック(鉄槌)で、一瞬のうちに崩壊させます。そして、あなたの視界を強制的に一番上(最新投稿)へと引き戻すのです。この「積み上げた努力を一瞬で無に帰す」という、有無を言わせぬ暴力性こそが、賽の河原の鬼と全く同じ構造を持っています。
3. アルゴリズムが強要する非情な「ループ修行」
賽の河原の子供たちは、鬼に塔を崩されても、あきらめることを許されず、また最初から石を積み続けなければなりません。
現代人もまた、タイムラインの鬼にスクロールを崩されたとしても、そのSNSの使用をやめることはできません。また最初(最新投稿)から、延々とスクロールを繰り返し、過去を遡るという終わりのない「ループ修行」を強要されるのです。
アルゴリズムは、あなたが過去の情報を整理し、咀嚼することを望んでいません。ただ、「常に最新の、刺激的な情報」に触れ続け、滞在時間を増やし続けることだけを望んでいます。自動更新という鬼の鉄槌は、あなたが情報の河原から立ち去るのを防ぎ、永遠に石を積み続けさせるための、非情なシステムなのです。
結論
SNSのタイムラインが勝手に一番上に戻ったら、それはアルゴリズムという鬼が、あなたが積み上げた過去の石塔を崩した合図です。
鬼に逆らっても無駄です。また最初からスクロールをやり直そうとするのは、妖怪の思う壺です。
自動更新が起きた時は、「ああ、今はデジタルの賽の河原の時間なのだな」と割り切り、一度スマートフォンから目を離してコーヒーでも淹れに行きましょう。鬼の悪戯に付き合わず、情報の河原から物理的に立ち去ること。それこそが、現代の賽の河原の苦行から身を守る唯一の退魔呪術なのです。
筆者コメント
最後まで読んでいただきありがとうございます。
かく言う私も先日、非常に重要な学会の発表スライドの修正案を、スクロールしてタイムラインの奥深くから探し出そうとしていた時のことです。いよいよ目的の投稿が見つかり、スクショを撮ろうとしたその瞬間、画面が勝手に更新され、強制的に「レッサーパンダがリンゴを食べる動画(最新投稿)」へと引き戻されました。私が獏に奪われた学術的な探求心は、そのまま動画プラットフォームの滞在時間へと変換されたようです。鬼のアルゴリズムは、人間の生態を理解していて恐ろしいですね。
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これからも共に、このけったいな現代の怪異を観察し続けていきましょう。
