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みんな一度は通り名に憧れるよね?

あれは、十年ほど前。私は丸々とした赤子のお世話で膝を壊し、産後のホルモンバランスの影響で腱鞘炎にもなった。あの頃は手に力が全く入らなくて、病院で子供に飲ませるように渡されたビタミンKか何かのシロップの容器が開けられず、途方に暮れたこともある。処置室みたいなところに通されて、看護師さんが部屋を出たあとに、開けられないことに気がついたのよ。
その後海外へ渡り、壊れた膝でワンオペ育児をすることになる。もともと、体力はないし体も強くない。横断歩道の真ん中でベビーカーから体を捻って滑り台の要領で脱出し、車道に転げて泣く、活きのいい我が子を魚河岸スタイルで抱えあげつつ、ベビーカーと買い物袋を運んで対岸の安全な場所に立ち去るというミッションインポッシブルを、一人でこなすのはきつかった。乳幼児期の子育てというのはミッションインポッシブルの連続だ。いや無理でしょ? ってことだらけなのに、なぜか一人で力技でやり遂げねばならない。
いつも思っていたのは、
霊長類最強女子になりたい……
だった。

霊長類最強というのは、人類最強よりも尊い。人間より遥かに力が強い、他の類人猿も従える存在だからである。
生物最強とか宇宙最強とかだと、おいおいアフリカゾウには勝てないだろ? とか、まだ見ぬ屈強な宇宙人への畏怖がたりないぞ! とか思われそうなので霊長類最強くらいが至高かつちょうどいい。
霊長類最強女子なら、片手でひょいと子供を抱え上げて肩にのせ、残りの荷物をもう片方に担いで悠然と横断歩道が渡れただろう。信号は空気を読んで止まり、信号待ちの車もリズムに合わせて優しく体を揺らし始めるだろう。町を歩く人たちは女子を讃える歌を歌いだし、町にいる鳩とか雀も敬意を表して、ディズニープリンセスのアニメ映画風に囀りながら周りを飛び交うと思う。スポットライトが如く、雲間から差し込んだ陽光を受けながら女子はゆっくりと歩く。駄々を捏ねていた子供もご機嫌だ。道を渡りながら鼻歌をうたう余裕もあるに違いない。

霊長類最強女子という言葉を考えた人、とても優秀よね。生態系のトップとして、霊長類すべての尊敬を集めてる感じがよく表現されてるもの。女子、という点で可愛さもあるし女性として完璧。

思えば、あだ名とも無縁に生きてきた。
大抵、下の名前にちゃんづけで呼ばれていたから、組長とか、マッチョとか、ユニークなあだ名を持つ友人が羨ましかった。弱そうな見かけなもので、つい強そうな名前に憧れてしまう。
通り名にも憧れた。
鎌倉の狂犬
歯医者でたまたま読んだ不良漫画でこの言葉に出会ったときは大変興奮した。鼻えんぴつには震えた。
いつか、〇〇の狂犬と呼ばれたいものだなと思ったものの、まだ呼ばれていない。今更呼ばれても困惑するとは思う。
歴史上だと鬼の副長とか、人斬り以蔵、逃げの小五郎あたりもいいよね。

やっぱり格闘技はいい名前たくさんある。
最凶巨人兵
美しき死神
神の子
浪速の核弾頭
うっとりする言葉の宝庫よね。
殴るほうののび太
というのにも惹かれた。
今まで殴られるほうののび太しかしらなかったから驚いた。殴るほうののび太のいる世界線には、殴られるほうのジャイアンや、マウントされるほうのスネ夫、できなすぎる出来杉くんがいるのだろうか。そしてしずかちゃんは、お風呂を覗く側。今だ! やり返せ! しずかちゃん! 君にはのび太の風呂を堂々と覗く権利がある。
ちなみに私は格闘技ファンでもなんでもないので、ご本人のこと知らずに書いてて申し訳ないです。

色々調べてみたけど、私、霊長類最強女子に勝るものはまだ見つけられてないんだ。あんなに尊敬を集められそうな称号は他に見つからない。
でもさー、まだ私、強くなりたい?
どうだろう?
もう、子育てで体力を一番必要とする時期は過ぎたんだけど、子供が育ってくると、今度は精神力がいるよね。思春期とか反抗期とか受験とか就職とかさ、鋼の精神が必要よね。
母は強しとかふざけたこと言う人いるけど、強くならなきゃやってられない世の中なんて嫌いだよばーか、と言いたい日もある。





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