【第3回・ソーラーパンク小説の書き方】生活感を描いてリアリティを加える。環境配慮型住宅「アースシップ」に学ぶ日常描写のコツ
【あらかじめご了承ください】
主に「創作の初心者から中級者へのステップアップ」を目指す方を対象として構成しています。
筆者は公的な専門家やプロ作家ではございません。
記述の正確性には細心の注意を払っておりますが、物語を面白くするためのアイデアとして、読者ご自身の判断で活用していただくようお願い申し上げます。
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はじめに:生活インフラの設定を考えすぎて、手が止まった経験はありませんか?
前回の第2回では、チート能力を持たない「メーカー・ヒーロー」のキャラクター設計法をご紹介しました。
今回は、そうした主人公たちが暮らす「住まい」や「街のインフラ」をどのように描くかに焦点を当てます。
SF小説やファンタジーを書き始めたばかりの頃、次のような壁にぶつかることがあります。
「水、電気、食料、トイレはどうなっているのか? 現実味のある仕組みを考えようとすると、設定が矛盾してしまい筆が進まない……」
仕事や家事で忙しく、創作に使える時間が限られている方にとって、国家規模のエネルギー網や上下水道の仕組みをゼロから設計するのは、大きな負担に感じるはずです。
実は、設定が破綻してしまう原因の多くは、「都市全体のインフラ」というマクロな視点から作ろうとしてしまうことにあります。
こうした悩みには、現実世界にあるサステナブル技術をヒントにしつつ、「主人公の半径5メートルの生活」に絞って描写を始めるアプローチが有効です。
本記事でご紹介するのは、生活を支えるインフラの仕組みを整理し、読者が没入しやすい日常風景をスムーズに組み立てるための切り口です。
まずは、インフラと社会制度を物語にどう組み込むかという点で、創作の参考になりやすい名作をご紹介します。
ー「ソーラーパンク」おすすめ作品ー
『未来省』
キム・スタンリー・ロビンスン(著)、瀬尾 具実子(翻訳) / 坂村 健(監修)
近未来に起きた激しい気候災害を契機に、未来世代の権利を守るべく設立された国連の専門機関「未来省」。
本作は、その組織の主導のもとで気候危機の打開策を多角的に模索していく、スケールの大きな近未来サスペンスです。
物語は先端科学だけでなく、中央銀行による金融政策の転換や法制度の改革、草の根の活動に至るまで、現実に根ざした具体的な手段を交えて精緻(せいち)に紡(つむ)がれます。
単なる理想論に陥ることなく、制度改革に伴う政治的摩擦や泥臭い交渉の過酷さが丁寧に描かれており、現代社会の課題に対する解像度を大いに高めてくれます。
知性と現実的なリアリティを備えた、大人の読書に相応しい重厚な一編です。
第1章:実在する環境配慮型住宅「アースシップ」に学ぶ
リアリティのある住まいを描くために、ここではアメリカ・ニューメキシコ州タオスにある「アースシップ・バイオテクチャー(Earthship Biotecture)」という公式のコミュニティと、そこで提唱された設計思想を参考にしてみます。
アースシップとは、廃材を活用し、エネルギーや水の自立的な暮らしを目指して設計された環境配慮型住宅のコンセプトです。
これは現実の建築様式ですが、この仕組みには、ソーラーパンクの物語に応用できる魅力的な要素が詰まっています。
なお、実際のアースシップの仕様は地域の建築基準や気候条件、法規制によって異なりますが、本記事では創作のヒントとして、一般的な構成例によく見られる以下の3つの仕組み(システム)に注目してみましょう。
廃材の活用(建材としての再利用)
土を詰めた廃タイヤを壁の基礎に使い、空き瓶やアルミ缶をステンドグラスのように壁へ埋め込む。
これにより、ゴミを減らすだけでなく、美しい採光や断熱効果を生み出します。
雨水の収集と利用
屋根から集められた雨水をフィルターで利用可能な水にし、手洗い用の生活水などに活用する仕組みです。
建物内での食料生産(温室)
生活排水(手洗いやシャワーで使った水など・グレーウォーター)を、室内にある温室の植物(食料)へ流し、水を循環させながら農作物を育てます。
💡案内人からのワンポイントアドバイス
「建築の専門知識が必要だ」と思い込んでいると、設定のハードルが高くなってしまいます。
もし複雑な住宅設計を考えるのが難しければ、まずは「空き瓶の壁から色とりどりの光が差し込み、家の中でトマトが育っている」といったビジュアルを思い浮かべる方が、筆を進めやすいかもしれません。
現時点では、この明るくユニークな家のイメージだけを持っておけば大丈夫ですよ。
手始めに、こうした住まいを主人公の拠点として設定する形を目指してみましょう。
第2章:「五感」をソーラーパンク化する魔法の言葉
アースシップのような住まいを物語に取り入れると、「資源の出どころ」が見えるようになり、ミクロな生活描写に説得力を持たせやすくなります。
このとき、小難しい説明を省(はぶ)いて世界観を読者に伝えるコツがあります。
それは、五感の描写を少し「有機的(オーガニック)」に翻訳することです。
インフラを日常描写に落とし込む際、私たちがよく知る「サイバーパンクの言葉」を「ソーラーパンクの言葉」に対比させてみると、イメージがグッと掴みやすくなります。
視覚の翻訳
【サイバー】ネオンの点滅、酸性雨(さんせいう)の夜、超高層ビルの暗い陰
➔【ソーラー】太陽光を透かす琥珀色(こはくいろ)のガラス、屋上菜園の緑、アール・ヌーヴォー調の有機的な曲線
聴覚の翻訳
【サイバー】パトカーのサイレン、電子的な警告音、重低音のノイズ
➔【ソーラー】小型風車が風を切る「シュルシュル」という音、水路を流れる静かな水音、葉擦れの音
嗅覚の翻訳
【サイバー】重油、ガソリン、濡れたコンクリート、排気ガスの臭い
➔【ソーラー】コンポスト(堆肥)の豊かな土の匂い、街路樹のミントやハーブの香り、太陽で干した布の匂い
☕ちょっと一息
実際の建築基準や衛生・水質基準については、地域の法規によって異なります。
しかし、物語の創作においては、それらをすべて完璧にシミュレーションする必要はありません。
「サイバーパンクが『重油とネオン』なら、ソーラーパンクは『太陽の光とハーブ』である」と、五感を少し置き換えるだけで、読者にその世界の空気感は十分に伝わりやすくなるでしょう。
それでは、こうした住宅の仕組みと五感の描写を、実際の小説へ落とし込んでみましょう。
ここからは、物語のリアリティを高める具体的な描写のアクション(後半)に迫ります。
第3章:もう設定矛盾で悩まない!「生活インフラ」を物語に溶け込ませる3ステップ
描写のイメージがつかめたところで、次は設定づくりの手順を整理します。
ステップ1:資源がどこから来て、どこへ行くのか「流れ」を設計する
初めに、生活に欠かせない資源(水や電気など)の流れを一つだけシンプルに設計します。
設定の矛盾を防ぐには、複雑な配管図を描く必要はありません。
資源が「入り口」から「出口」までどう繋がっているか、矢印(→)を使ってテキストでメモしておくだけで十分です。
たとえば、アースシップの「水」の循環であれば、以下のように整理できます。
雨水 → 手洗いや台所の生活水 → 温室の植物への水やり → トイレの洗浄水
このように「どこから来て、何に使われ、最後にどうなるか?」という直列のサイクルを作っておくと、執筆中に「この水はどこから湧いてきたんだっけ?」と迷うことがなくなります。
ステップ2:小説だからこそ許される「都合の良い技術(SFの嘘)」を交える
資源の流れが決まったら、次は物語のテンポを崩さないための調整を行います。
現実の自給自足やエコな暮らしには、時間や手間がかかるものです。
しかし、小説の中で現実の不便さをすべて忠実に描こうとすると、物語が前に進まなくなってしまいます。
そこで、フィクションならではの「都合の良い技術(SFの嘘)」を割り切って取り入れます。
たとえば、現実の室内農法では野菜の収穫に数ヶ月かかりますが、「特殊なLED光や遺伝子調整によって、数日で収穫できる」という設定にしても構いません。
また、コンポスト(堆肥)の悪臭や衛生問題を避けるために、「架空の超高速分解酵素が、一瞬で生ゴミを無臭の肥料に変えてくれる」といった技術を導入するのも一つの方法です。
🔑ひらめきの鍵
「エコな世界だから、すべてアナログで不便でなければならない」と縛られる必要はありません。
多くのソーラーパンク作品では、高度な技術と自然との共存が描かれています。
主人公が物語の本筋(トラブル解決など)に集中できるよう、面倒な部分は「環境に優しい超技術」でスキップしてしまいましょう。
ステップ3:説明ではなく「朝のワンシーン」として描写する
設定とSFの嘘がまとまったら、最後はそれを「主人公の半径5メートルの日常風景」として書き出します。
巨大な電力会社から独立して、自分たちで電力を自給している(=パンクな自立心がある)という背景を、国家規模の歴史として長々と語る必要はありません。
主人公が起きてから家を出るまでの「朝のルーティン」の中に、インフラの要素を溶け込ませてみてください。
「朝、温室で数日前に植えたばかりのトマトを収穫し、屋根から集めた雨水を浄化した水で顔を洗う。地中を通ってきた涼しい風に吹かれながら、手作りの朝食をとる」
このようなミクロな生活描写を一つ入れるだけで、「この社会は資源が循環しているんだな」という説得力を持たせやすくなり、読者が物語の世界へと没入しやすくなるでしょう。
📝書き手向けメモ
インフラを描写する際は、「太陽の光に合わせて起き、日照時間によって生活のリズムを変える」という考え方もヒントになります。
夜遅くまで煌々(こうこう)とネオンが光る都市とは対照的に、「日暮れとともに活動が緩やかになる」という時間の流れを描くだけでも、ソーラーパンク特有の穏やかな空気感を表現しやすくなりますよ。
まとめ
ここまで紹介した内容を整理すると、ポイントは次の3つです。
生活インフラの設定を考える際、都市工学や建築学の専門知識を完璧に揃えようとするプレッシャーを感じる必要はありません。
まずは「アースシップ」のような住まいを参考に資源の「流れ」を決め、不便な部分は「SFの嘘」でカバーし、それを「主人公の日常風景」として描写する。
この手順を出発点にすると、設定の矛盾を避けながら、読者がすんなりと受け入れられるリアリティのある舞台を組み立てる際の参考になります。
最後に、ご自身の物語のインフラを整理するための簡単なチェックリストをご用意しました。
ぜひ、試してみてください。
✍️ 読者を没入させる「ソーラーパンク日常描写」のチェックリスト
【水】主人公が今朝顔を洗った水はどこから来て、使った後はどこへ流れていくか?
👉 例:屋根の雨水タンクから来て、最後は床下の菜園の土に吸収される
【光と熱】部屋の明かりや調理の熱は、何からエネルギーを得ているか?
👉 例:日中に蓄電したソーラーパネルの電力と、古タイヤの壁が蓄えた熱
【音と匂い】機械の騒音や排気ガスの代わりに、街を満たしているものは?
👉 例:風力タービンの静かな風切り音と、コンポスト(堆肥)の豊かな土の匂い
【衣服と道具】主人公が身につけているものは、誰が作り、どう修理されているか?
👉 例:地域で共有している3Dプリンターで出力し、壊れたら自分でパーツを交換する
【ゴミ】どうしても再利用できないゴミが出たとき、人々はどう処理しているか?
👉 例:色ごとに細かく砕いて、新しい建築物のステンドグラスとして壁に埋め込む
ここまでが、生活インフラの法則を手に入れ、説得力のある日常風景を組み立てる方法です。
では、このようにインフラが整い、人々が穏やかに協力し合うユートピア的な世界において、物語を面白くするための「事件」や「対立」はどのように作ればいいのでしょうか?
次回は、チート能力を持たない主人公が立ち向かうべき「壁」の作り方を考えます。
平和な世界にしてしまうと、物語に起伏が作れず退屈になってしまう。
これは、ソーラーパンクや日常系SFを書く際に多くの人が直面する悩ましい問題です。
しかし、巨大な「悪の帝国」や「世界を滅ぼす魔王」を出さなくても、重厚なドラマを生み出す方法はあります。
本連載では、次回のテーマとして、倫理的に正しい社会を突き詰めた結果生じる「ソラリティ(本記事独自の便宜的呼称)」と、表面的にエコを装った資本主義「ソーラーカルチャー(同)」の対立軸などを取り上げます。
また、自然災害への適応をめぐる「適正技術の限界」や、多世代間に横たわる「倫理的ジレンマ」を用いたプロット構築法もご紹介します。
「過去の環境破壊のツケを、今の世代がどう払うか?」といった、誰もが善人だからこそ生じる正義と正義のぶつかり合い。
こうした3つの葛藤パターンに当てはめるだけで、悪役不在でも物語を力強く動かせるようになる設計法を探っていきましょう。
次回は【第4回・ソーラーパンク小説の書き方】「悪の帝国」を出さずに物語を動かす!ソーラーパンクならではの3つの葛藤パターン です。
お楽しみに。
この記事を読んで感じた点や、実際に試してみた感想があれば、ぜひ教えてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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