なぜ今、中小企業にも温室効果ガス排出量の算定が求められるのか
深刻化する気候変動と企業経営への影響
日本だけでなく、世界各国で温室効果ガス(Green House Gas: GHG)排出量の算定や情報開示に関するルールの整備が進められています。その背景にあるのが、深刻化する地球温暖化と気候変動です。
今年も各地で記録的な猛暑が続いていますが、その一因として地球温暖化の影響が指摘されています。また、集中豪雨や大型台風などの異常気象による被害は、人々の生活環境だけでなく、企業の経営環境にも大きな影響を及ぼしています。
例えば、洪水による工場の操業停止、道路の冠水による原材料や製品の配送遅延、取引先の被災による部品供給の停止などが挙げられます。今や気候変動は、企業経営にとって看過できないリスクとなっているのです。
サプライチェーン全体で進む排出量の把握と情報開示
こうした状況を背景に、企業が事業活動を通じて気候変動に及ぼす影響を把握し、温室効果ガス排出量の多い事業や企業をサプライチェーン全体で管理しようとする動きが広がっています。
また、企業が気候変動にどのように対応しているかを、投資家や取引先をはじめとする社会に対して公表するための制度も整備されつつあります。
国内では、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示や、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した開示基準などがその代表例です。これらの制度では、企業自身が直接排出する温室効果ガスだけでなく、原材料の調達、物流、販売、製品の使用、廃棄など、サプライチェーン全体から生じる排出量を把握し、必要な情報を開示することが求められています。
ここで用いられる算定範囲の分類として、自社が直接排出する「スコープ1」、購入した電力などによる間接排出の「スコープ2」、そして原材料調達・物流・販売・廃棄などサプライチェーン全体の排出を含む「スコープ3」という枠組みがあります。
中堅・中小企業にも広がるGHG排出量算定の要請
これらの開示制度が直接適用されるのは、主に一定規模以上の企業です。しかし、サプライチェーン全体の排出量を算定するためには、その企業と取引関係にあるサプライヤーからも情報を収集しなければなりません。
つまり、制度の直接的な対象ではない中堅・中小企業であっても、大手取引先から温室効果ガス排出量に関する情報の提供を求められる可能性があるということです。
GHG対応は取引の維持と競争力に関わる経営課題
今後、こうした要請に対応できないサプライヤーは、優れた技術や製品を持っていたとしても、取引先の調達方針によっては新規取引の対象から外れたり、排出量の削減計画や改善策の提示を求められたりする可能性があります。
一方で、自社の排出量を把握し、削減に向けた取組を説明できる企業は、取引先からの信頼を得やすくなります。温室効果ガス排出量の算定は、単なる環境対応ではなく、取引の維持や新たな受注機会の獲得にも関係する経営課題になりつつあるのです。
GHG排出量の算定は難しくない
「温室効果ガス排出量の算定」と聞くと、難しい作業のように感じて尻込みする方もいるかもしれません。しかし、基本的な算定であれば、必ずしも高度な専門知識や高額なシステムが必要なわけではありません。
もちろん、サプライチェーン全体を対象に精緻な算定を行う場合には、一定の知識や費用が必要になります。しかし、最初から完璧な算定を目指す必要はありません。まずは電気、燃料、ガスなどの使用量を把握し、公表されている排出係数を用いて、自社の排出量の概算値を算定するところから始めることができます。
目的を明確にし、把握できる範囲から始める
問題は、算定方法が必ずしも分かりやすく整理されているとは限らないことです。行政機関や業界団体などから複数のガイドラインや算定ツールが公表されていますが、自社がどの方法を選択すべきか、どの範囲まで算定すればよいのか、迷う企業も少なくありません。
大切なのは、最初から複雑な算定に取り組むことではなく、自社が排出量を算定する目的を明確にすることです。
取引先から求められた情報を提供するためなのか、自社の排出削減につなげるためなのか、将来的な情報開示に備えるためなのかによって、必要となる算定範囲や精度は異なります。
まずは、自社のエネルギー使用量や事業活動を整理し、把握できる範囲から算定を始めることが重要です。そのうえで、取引先からの要求や社会的な要請に応じて、段階的に算定範囲と精度を高めていくことが、現実的な進め方といえるでしょう。
記事提供:S.M
輸送機器メーカーで、サステナビリティレポートの作成やサステナビリティ委員会の事務局などを担当してきました。また、ISO認証機関に所属しISO14001やISO50001の主任審査員として認証審査を行ってきました。保有資格は、EMS主任審査員、EnMS主任審査員、QMS審査員補、OHMS審査員補、環境カウンセラー(事業者部門)、公害防止管理者(水質2種)、GHGベリファイヤー等を所有。
