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正しいことなのに、もやもやする。私の心が狭いのだろうか

正しいはずのことに、もやもやしてしまう自分は、心が狭いのだろうか。

先日、休憩室でコーヒーを飲んでいたら、同僚がぽつりとこぼした。

「彼、最近、出張ぜんぶ断ってるよね」

彼、というのは同じ職場の男性職員だ。あと二か月ほどで、奥さんが出産を控えているらしい。「らしい」というのは、本人から聞いたわけではなく、噂で知ったからだ。上層部には伝えてあるようだけれど、毎日顔を合わせる現場の私たちには、彼の口から一度も話がない。

先月あたりから、彼は出張や時間外の仕事を断るようになった。事情を知っていれば「大事な時期だもんね」と素直に思える。でも、何も聞かされていない人からすれば、「最近どうしたんだろう」と首をかしげるしかない。

うちの職場には、彼と似たような仕事をしている非常勤の人たちがいる。出張や時間外が難しいから、本当は常勤で働きたくても、仕方なく非常勤を選んだ人もいる。その人たちの隣で、彼はいま、常勤の給料のまま、非常勤とほとんど変わらない働き方をしている。

先に言っておきたい。
休むことは権利だ。育休も産休も、堂々と取っていい。男性が当たり前に取れる職場であってほしいと思っている。

それでも、もやもやするのだ。

休みを取ることと、周りに何も言わないことは、たぶん別の話なのだと思う。

気づけば、休憩室で彼の愚痴を聞く回数が増えた。うなずきながら、その輪に加わっている自分にも、少し嫌気がさす。権利を尊重したい気持ちと、割り切れない気持ちが、胸の中でずっと綱引きをしている。

考えてみれば、彼は彼で、言い出しにくいのかもしれない。男性が職場で「妻が出産するので」と口にするのは、まだ少し勇気がいることなのかもしれない。上に伝えてあるのだから、手続きとしては十分。そう考えていても、不思議ではない。

でも、と思う。

制度は手続きで回るけれど、職場は気持ちで回っている。

「実は来月、子どもが生まれるんです。しばらく出張に行けなくて、すみません」

たったそれだけの一言があれば、受け止め方はまるで違ったはずだ。
「おめでとう」
「大変なときはお互いさま」
と、気持ちよく送り出す空気が生まれたはずだ。もやもやの正体は、彼が休むことじゃない。その一言がなかったこと。たぶん、それだけなのだと思う。

そして、これを書きながら気づいてしまった。私も彼に、何も聞いていない。「もうすぐなんだって?」のひと言すら、かけていない。噂で知っているのに知らないふりをして、もやもやだけを胸の中で育てている。それって、彼の沈黙と、そんなに違うだろうか。

権利は、黙っていても守られるべきものだ。でも、職場の空気は、誰かが口を開かないと変わらない。それは休む側の一言かもしれないし、送り出す側の一言かもしれない。

正しさで相手を測る前に、軽いひと言を投げてみるのはどうだろうか。
「噂で聞いたけど、もうすぐだね」「手伝えること、ある?」——それだけで、綱引きしていた気持ちが、ふっとゆるむことがある。

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