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ひとつのせかい

「おはよう」
『おはよう』
「昨日はよく寝れた?」
『うーん、あまり、寝れなかったかも』
「まあ、そりゃそうだよな、今日で自分の世界とさよならだもんな」
『ソビーは?よく寝れた?』
「あー、相変わらずかな。俺の世界はもうすぐ終わるってのにさ、昨日は一段と明るくて。あまり寝れなかったんだ。」
『そっか、ソビーの世界は最期だって分かっててわざと明るくしてたのかもね』
「ヨアの考え方は面白いね。そういえばヨアはさ、自分の世界から出たくないって言ってたよな?大丈夫か?」
『んー…怖くないって言ったら嘘になるね。
生まれた時から私の世界は夜だったから。
太陽の光に慣れるための訓練もすごく疲れちゃったし。できればこのままでいたい。
でも、ウキウキしてる自分もいるよ。』
「分かる分かる。俺はさ、ヨアと真反対の世界にいるけど、夜がめちゃくちゃこわい。
でもヨアが楽しそうに夜の話するから、俺も少し楽しみな気持ちになれたんだ。ありがとな。」
『こちらこそ、ありがとう。ソビーの世界には影っていうものがあるんだよね、早く見てみたいな。あと太陽でしょ、植物の水滴に反射する光とか、綺麗なんだろうな。』
「すごく綺麗だよ、太陽の下の海もすごく綺麗なんだ。ヨアの世界には俺の世界でいう太陽の代わりの月っていうのがあるんだよな?
早く見たい。」
『そう、月っていうのがある。今にも消えちゃいそうな青白い光がとても綺麗だよ。』
「俺たちの世界はさ、きっとそれぞれで充分綺麗なのにどうして片方だけじゃだめなんだろうな。自分で自分の世界が綺麗だってそれで満足だって思っても何か違うものを見なきゃだめなのかな。」
『んー難しいね。正直私も何でだろうって思うよ。それに両方見えている人達が、みんな自分たちと同じであるべきだって思っているなら、それはそれでちょっとムカつくね。』
「まさかヨアがムカつくって言うとは思わなかったよ。」
『私もムカつくときはあるよ?』
「そうだよな、でもびっくりした。夜の人達は冷静沈着って感じだからさ。」
『それをいうなら朝の人達はみんなパワフルだよね。凄いと思う。』
「うるさいだけだと思うよ。」
『そんなことないでしょ笑。そういえばさ、ソビーはこの後どうするの?』
「とりあえず、北の寒い寒い所へ行って、オーロラと月と星々を見に行こうと思う。ヨアが好きだって言ってる夜がどんなに綺麗か早く見たいからな。」
『なんか嬉しいな。』
「ヨアは?この後どうするんだ?」
『うーん。私みたいな夜の人間たちはしばらく明るい太陽の光に慣れるのに1週間かかるんだよね。その間は朝の世界の勉強を家でして、あとは、太陽の光でキラキラ光る海を見に行こうと思う。私の中では海は真っ黒なイメージしかないから。』
「そっか。俺たちはさ、それぞれ知らなかった世界の本当の美しさをこれから学びに行くんだな。でもなんでちょっと悲しいんだろう。今まで生きてきた世界、自分だけの世界とさよならするからかな。」

「実を言うと、俺が一番さよならしたくないのは、ヨアだよ。」
『うん。ありがとう。私ソビーとさよならしたくない。新しく知った世界について話したかったな。』
「俺も話したかった。ヨアと2人で夜の美しさについてずっと話してたかった。」
『いつか、また会えるよ。きっと。』
「ああ、会おう。きっと。」

私の真っ暗な世界は明るい世界と中和された。
暗闇もあれば光もあるようになった。
初めて太陽を見た。太陽が作る影を見た。まるで宝石を詰め込んだように太陽の光を乱反射する海を見た。どれも明るすぎて目眩がしたけれど、自分の存在が祝福されているような感じがして、なんだか心に光が灯ったように感じた。

ソビーは今頃どうしているだろうか。見たかったものが見れたのだろうか。思ったよりも暗い世界に絶望してないだろうか。それでもなんとか前を向こうと笑うソビーの表情がふと思い浮かぶ。

あの時は心の底から言えなかったあの言葉。すっかり染み付いた太陽の光が私の喉を揺さぶる。

おはよう。

ぽろっと落ちたその言葉は、誰にも拾われずただただ私の前に横たえたままだった。

届けたい。まだまだ目眩がするような日差しに逆らいながら私は外へ駆け出した。

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