大幅な円高はビットコインを二度下げる──円建て価格から世界市場へ波及する売りの連鎖
ビットコインの価格を考えるとき、多くの人はBTC/USDの値動きに注目する。
しかし、日本の投資家にとって重要なのはBTC/JPYである。
仮にビットコインのドル建て価格が横ばいでも、大幅な円高が進めば円建て価格は下落する。さらに、その下落を見た日本の投資家がビットコインを売り始めれば、売り圧力は円建て市場だけで終わらない。
裁定取引や円キャリー取引の巻き戻しを通じて、BTC/USDにまで波及する可能性がある。
大幅な円高は、ビットコインを二度下げるかもしれないのである。
円建てビットコインは「BTC/USD×ドル円」で決まる
円建てビットコイン価格は、おおむね次の関係で説明できる。
「BTC/JPY ≒ BTC/USD × USD/JPY」
つまり日本人がビットコインを保有することは、BTCそのものに投資するだけではない。
実質的には、
ビットコインの価格変動
ドル円の為替変動
この二つを同時に引き受けることになる。
例えば、BTC/USDを6万3,000ドルとする。
1ドル160円なら、1BTCは約1,008万円
1ドル150円なら、約945万円
1ドル140円なら、約882万円
1ドル130円なら、約819万円
BTC/USDがまったく動かなかったとしても、ドル円が160円から140円まで下がれば、円建てBTCは約12.5%下落する。
日本銀行が公表した2026年7月31日17時時点のドル円は160.20~160.22円だった。ここから大きな円高へ振れるなら、円建ての外貨資産には相応の為替調整が入ることになる。
円高だけなら「換算上の下落」である
まず理解しておきたいのは、円高によるBTC/JPYの下落は、必ずしもビットコインそのものが売られたことを意味しないという点である。
BTC/USDが6万3,000ドルのままでも、ドル円が160円から140円になれば、円換算価格は約1,008万円から約882万円へ下がる。
これは為替レートが変わったことによる機械的な下落である。
しかし、実際の相場ではここで終わらない可能性がある。
円建て価格が急落すれば、日本の投資家は含み益の縮小や含み損の拡大に直面する。その結果、利益確定、損切り、円への資金退避が増えれば、今度は本物のBTC売りが発生する。
為替による下落が、投資家の売却行動を呼び込むのである。
日本人の売却はドル建て市場にも伝わる
日本の取引所でBTC/JPYが大量に売られたとしても、最初に下がるのは国内の円建て価格である。
しかし、ビットコインは世界中の取引所で売買されている。同じBTCの価格が、日本と海外で大きく離れたままにはなりにくい。
日本で売りが増えてBTC/JPYが海外価格より安くなると、裁定業者は日本でBTCを買い、海外でBTC/USDやBTC/USDTを売って価格差を取ろうとする。
流れを整理すると次のようになる。
日本の投資家がBTC/JPYを売る
国内のビットコイン価格が相対的に安くなる
裁定業者が日本でBTCを買う
同時に海外でBTC/USDやBTC/USDTを売る
日本発の売り圧力が世界市場へ伝わる
日本人が円に換えただけでも、市場間の裁定によってドル建て・USDT建て市場へ影響が波及するのである。
もちろん、日本国内に十分な買い手がいれば売りは吸収される。日本市場だけで世界のBTC価格を決められるわけでもない。
それでも、日本国内の暗号資産現物取引高は、2026年6月に全銘柄合計で約9,049億円あった。世界市場全体と比べれば一部だが、無視できるほど小さな市場でもない。
本当に怖いのは円キャリー取引の巻き戻しである
さらに警戒したいのが、円キャリー取引の巻き戻しである。
低金利の円を調達し、その資金を株式、債券、暗号資産などのリスク資産へ振り向けていた投資家にとって、急激な円高は都合が悪い。
円で借りた資金を返済するには、保有資産を売って円を買い戻さなければならないからだ。
この場合、日本人が国内取引所でBTCを売るだけではない。海外投資家も流動性の高いBTC/USDやBTC/USDT、ビットコイン先物を直接売る可能性がある。
すると、
円高でBTC/JPYが下落する
日本の投資家がBTCを売る
円キャリー勢もリスク資産を売る
海外市場でBTC/USDが下落する
先物のロングに強制清算が発生する
BTC/USDの下落がBTC/JPYをさらに押し下げる
という負の連鎖が起こり得る。
円高がビットコインの円建て価格を下げ、その下落が実際のBTC売りを生み、さらにドル建て価格まで下げる構図である。
円高とBTC安が重なれば下落率は大きくなる
例えば、次の二つが同時に起きたとする。
ドル円が160円から140円へ下落
BTC/USDが20%下落
ドル円の変化による円建て価格への影響は約マイナス12.5%である。
これにBTC/USDの20%下落が重なると、BTC/JPYの下落率は約30%になる。
「12.5%+20%=32.5%」ではなく、正確には掛け算になる。
「0.875×0.8=0.7」
したがって、円建てBTCは約30%下落する計算である。
反対に、ドル円が160円から140円へ動いた場合、その為替下落を打ち消すにはBTC/USDが約14.3%上昇しなければならない。
ビットコインのドル建て価格が少し上がった程度では、円建て価格が下落することもある。
「ドル安ならビットコイン高」とは限らない
ビットコインはドルに代わる資産として語られることがある。そのため、ドル安になればBTC/USDが上がり、円高による影響を相殺してくれると考える人もいるだろう。
しかし、必ずそうなるわけではない。
ビットコインとドルの相関関係は一定ではなく、近年は相関が弱まった時期も確認されている。円高が世界的なリスク回避やレバレッジ解消を伴う場合、ビットコインは安全資産ではなく、売却しやすいリスク資産として扱われる可能性がある。
「ドルが売られるからビットコインが上がる」と単純には考えられないのである。
ビットコイン保有企業にも為替が効く
大幅な円高は、ビットコインを大量保有する日本企業にも影響する。
リミックスポイントは、2026年4月末時点で約1,496.4BTCを保有していると公表している。また、保有するビットコインを四半期ごとに時価評価し、その評価損益を連結損益計算書へ計上するとしている。
BTC/USDを6万3,000ドルで固定して単純計算すると、約1,496BTCの円換算価値は、ドル円が1円下がるごとに約0.94億円減少する。
ドル円が10円下落すれば約9.4億円
ドル円が20円下落すれば約18.9億円
これはBTC/USDが動かない場合の為替要因だけの試算である。
実際にはBTC/USDも同時に下落する可能性があるため、ビットコイン保有企業を見る際には、BTCのドル価格だけでなくドル円も確認しなければならない。
円高は日本人にとってのビットコインの前提を変える
円安局面では、BTC/USDが横ばいでも円建てBTCは上昇しやすい。
これまで日本の投資家が感じてきたビットコインの強さには、ビットコインそのものの上昇だけでなく、円安による押し上げも含まれていた可能性がある。
大幅な円高になれば、その追い風が逆風へ変わる。
しかも影響は、単なる円換算価格の低下だけではない。
円建て価格の下落が日本人の売却を呼び、裁定取引を通じて海外市場へ伝わり、円キャリー取引の巻き戻しや先物の強制清算まで重なれば、BTC/USDそのものを押し下げる可能性がある。
大幅な円高で警戒すべきなのは、「ドル円が下がった分だけBTC/JPYが下がること」ではない。
本当に警戒すべきなのは、円高が実際のBTC売りを生み、その売りがドル建て価格を下げ、さらに円建て価格を押し下げる循環である。
円高は、ビットコインを二度下げる可能性があるのだ。
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