Lecture #30 都市の余白を耕す ~暫定利用・市民参加から見えるこれからの農の可能性~(ゲスト:新保 奈穂美 氏)
都市に生まれる「余白」は、ただの空き地ではなく、未来のまちを形づくる可能性そのもの。2025年8月5日(火)のSOCIAL GREEN DESIGN レクチャー(以下SGDレクチャー)では、東京大学空間情報科学研究センター・新保 奈穂美(しんぽなおみ)准教授をゲストに迎えて、お話を伺いました。
都市にひそむ未活用空間に「農」がどのように関わり、新たなみどりの場を生み出していけるのか?国内における実践のヒントや可能性、今後の展開について深く探っていきます。
SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDレクチャーについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。
当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。
17:00-17:15 イントロ(15min.)
– ソーシャルグリーンデザインとは?
17:15-17:45 ゲスト紹介(30min.)
~休憩5分~
17:50-18:45 モデレーターとのディスカッション(55min.)
18:45-19:15 Q&A(30min.)
19:15-19:30 クロージング(15min.)
– 今日のまとめ
都市農への道のり
まずは新保さんから、活動やご経歴について紹介がありました。
新保さん:もともとは農学部の緑地生物学専修で、ランドスケープの生態学よりの勉強をしていました。設計実習を頑張ろうと思いましたが難しく、都市計画寄りに進みました。そこでヨーロッパの都市緑地計画を知り、街中の農園「クラインガルテン」と出会いました。2025年3月までは兵庫県立大学で神戸市の現場事例を見て、4月からは東京大学柏キャンパスでデジタルや地理情報を使って俯瞰的に都市の農を研究しています。研究テーマは都市の農的営みの意義で、最近は駐車場や道路などを人が使える公園的空間に変え、植物やイチゴ・ブドウ・トマトなども植える活動も調べています。

人口減少と都市の余白活用
新保さん:今日のテーマは都市の余白です。日本の人口は急速に減少していて、2014年から10年間で約340万人減少、2024年以降もさらに急減しています。国交省では「コンパクトシティ」を目指し、駅近くの居住・働くエリアに人を集約しようとしています。
これは理想的ですが、市街地を集約するまでの間に関する現実的な解がまだありません。空き地や空き家がスポンジ状に広がっており、開発で一斉に埋められるわけではないので、歯抜け状態が続きます。その間にどう環境を整え、コミュニティを維持するかが重要です。国土交通省の土地政策研究会でも、空き地を農園や菜園として活用することが、食料供給だけでなく地域コミュニティ形成にも有効だと考えられています。

都市の余白と活用
実際に都市の余白と農がどのように関わりながら、活用されてるのかをご紹介いただきました。空き地、空き家、公園、農地のように、さまざまな余白を活用する事例があるそうです。

①空き地や空き家の活用事例
新保さん:まず、大阪・北加賀谷で始まった「みんなのうえん」という事例があります。ここは地主さんがアートの街づくりをしていて、もともと銭湯や住宅があった場所を貸し出してもらい、農園にしています。
第2農園では隣の空き家を活用してシェアスペースにしていて、奥にキッチンもあり、農園メンバーで料理をしたり、地域イベントで近隣のお店の方が料理や手作り小物を出展したりもしています。
単に貸し農園だけでなく、特に子育て世代の女性などが自分のやりたいことを実現できる場になっていて、そこからお店を開く人も出ています。大豆から醤油を作る「醤油部」など、農を中心にさまざまな活動に派生していて、今は大阪や神戸でも活動が広がっています。


新保さん:空き地活用の例として、兵庫県神戸市の「まちなか防災空地」という制度があります。普段はコミュニティ広場として使い、緊急時には避難場所や消防車・救急車の駐車場になる仕組みです。土地所有者にとっては固定資産税が非課税になるメリットもあります。こうした防災空地は、日常も地域活動に活かせます。また、補助金や土地所有者と利用希望者のマッチングも進められています。
千葉県柏市では空き家でもカシニワ制度のような取り組みがあり、市民が地域づくりを考えるきっかけになり、隣地統合やコンパクトシティ実現にもつながる可能性があります。
②低・未利用の公園の活用事例
新保さん:次は公園の事例ですね。神戸市の平野コープ農園は、農水産課が実証実験を経て公園を農的な活動の場として、コミュニティ作りに活用した事例です。運営は民間企業に委託し、3年後には自走できるようにしました。農家さんが教えに来て、自分の区画で野菜を育てられます。また誰でも収穫できるコミュニティ農園もあり、安全性や公平性の課題を抱えつつも、多様なイベントで人を引きつけています。

新保さん:神戸市灘区の都賀川公園は、民間企業ファクティブと連携して貸し農園にしています。ファクティブはコストを抑え、Webやアプリで作業指導を提供し、現地に来なくても学べる仕組みを作っています。神戸市もこうした事例を増やしていきたいと進めています。

③低・未利用の農地の活用事例
新保さん:次は農地の事例です。耕作放棄地が増えていて、農家の平均年齢も70を超えています。東京都日野市のせせらぎ農園は先駆的な事例です。もともと水田地帯に住宅が広がった場所で、生産緑地として地主が耕作するところを、市民が当初は援農の形で、いまは一般社団法人を作り、都市農地貸借法に基づいて借り受けて耕作しています。2008年から2023年まで、近隣約200世帯の生ゴミを週2回土壌に還元する活動を続け、自然に定期的な集まりの場が生まれました。都市部の生産緑地制度の規制によって生ごみ回収の手法など活動内容を変えざるを得なくなりましたが、今でも野菜を育てられる空間として、子どもも大人も学べる資源循環の場になっています。園庭のない保育園や幼稚園の子どもと先生も定期的に来て、植付や収穫、虫取り、用水路遊びなど複合的に楽しんでいます。

新保さん:農地は可能性があるものの、農地法や農業委員会の承認がハードルで参入は難しかったです。ただ2017〜18年頃の法改正で借りやすくなり、相続税の猶予も継続。まだ浸透は課題ですが、先進事例がどう評価され広がるかが鍵だと思います。
都市の農園の意義
新保さん:国内外の事例を見ると、都市の農園の意義は多岐にわたります。まず食料保障で、北米では社会格差の大きい地域で新鮮な野菜が買えず、コミュニティガーデンが栄養ある食料を供給していました。収穫物をフードバンクに寄付する例もあります。次に社会的包摂で、移民や難民が共通の作業や食べる目的を通じて居場所を得たり、自国の食材を育て母国を感じられることがあります。日本では高齢者の地域とのつながりづくりにも使われています。健康維持では、農作業で筋肉が保たれ、外で汗を流し仲間と話すことで精神的にも支えられます。防災では市街地のオープンスペースとして避難や食料供給に役立ち、震災後に日常の活動が続けられる場としても機能します。環境教育では野菜の育ち方や生き物に触れる機会を提供し、資源循環では生ゴミの堆肥化や不要資材の活用、アップサイクルにつながります。さらに虫や鳥の生息地となり、生物多様性保全にも役立ちます。

海外における都市の余白活用
ここまでは国内の話でしたが、後半では海外の事例もたくさんご紹介いただきました。
新保さん:空き地の暫定利用は移転による地域コミュニティの崩れが問題になることもありますが、遠くなければ維持できる可能性があり、移転も選択肢としてあります。ベルリンのPrinzessinnengartenでは、ベルリン中心部の空き地で2012〜2020年に活動し、移動できるようモバイルガーデンとしてコンテナで野菜を育て、誰でもお世話ができる仕組みでした。カフェも併設し、収穫物だけでなく近郊農家から仕入れて運営し、若い2人が企業を作り他の事業と組み合わせて、助成金なしで経営していました。ただ契約満了で移転が必要になり、管理が困難になっていた墓地へ移り、森のような空間にコンテナを置いて継続。カフェも続き、墓石を加工するワークショップなど土地ならではの活動も行われています。

新保さん:シンガポールでは都市での「農」を国策として推進しており、自給率の低さやコロナ禍での食料ネットワークの分断を受け、食料保障を強化しています。健康促進として種を国民に配るプログラムも実施。団地の住民委員会がコミュニティガーデンを作る際の支援、公園内のアロットメントガーデン(区画貸しの農園)設置も進み、2016年開始から28公園で2400区画が作られています。公営住宅の屋上にもこれが広がっています。世界的にも自分で自給しコミュニティを作る動きが広まっており、日本でも参考になる事例です。

発表のまとめ
新保さん:まとめとして、空き地を放置すると草ぼうぼうや犯罪、ゴミの不法投棄につながりますが、みんなで管理し、食べ物が得られコミュニティや健康にもつながる場所にできれば、より良い暮らしが生み出せると思います。そのためにはライフスタイルや価値観の転換、収入の仕組みづくりなど総合的に考える必要があります。誰が農園を担うのかも課題で、市民、企業、福祉団体、行政など多様な主体が動いていますが、包括的な計画が少なく、個人も動きづらく相談先も分かりにくい状況です。

新保さん:これからは食を軸にした街づくりのコンセプトを作り、異なる土地や縦割り行政、民間企業をどうつないでいくかを包括的に考えることが重要だと思っています。参考になるのは神戸市の「食都神戸」戦略や、東京都日野市による農のあるまちづくり計画書です。ヨーロッパやニュージーランドで広がるエディブルシティのように公共空間に食べられるものを植え、就労訓練にも使う取り組み、「都市食料政策ミラノ協定」なども役立ちます。これらによりフードシステムの再構築や土地の再活用、格差是正につながると思います。

新保さん:もう1つの方向性として、ウォーカブルシティの要素として捉える方法があります。15〜20分以内に都市機能を集約することで、車を使わず環境負荷を抑え、農園やコミュニティガーデンも組み込めるというコンセプトです。

新保さん:最近、国土交通省の社会資本整備審議会の計画部会に呼んでいただいていますので、人口減少が進む中で街のあり方に農の要素をどう組み込み、低密度地域に差し込むかを提言したいと考えています。余白を耕すことで豊かな街づくりを実現したいです。

ディスカッション〜
新保さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)、石川由佳子さん(一般社団法人 for Cities)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

土地の暫定利用について
石川さん:土地の暫定利用という大きなテーマがありますが、暫定利用について、継続したものと終わったもの、どういう違いがあるのか知りたいです。
新保さん:土地の貸借契約も、契約が切れそうでも市民の熱意で延長されることが多く、完全になくなる事例はあまりありません。移転したケースはありますが、意外と使われ続けます。
石川さん:土地オーナー次第で左右されることも多いですね。
新保さん:はい。民地は難しいですが、公有地では交渉の余地がある場合が多いですね。
石川さん:先ほど神戸市の戦略と東京都日野市での街づくりレベルでの計画を教えていただいたんですけれども、このような街づくりの計画の取り組みって、どんな地域や土地状況にフィットしますか?
新保さん:よく聞かれる質問です。農村に近すぎると街中に作る必要がなく、うまくいきません。適度に都市化された大都市近郊で、周囲に農地もある地域、例えば神戸や富山のような場所が合っていると思います。東京23区の中心部は難しいですが、郊外では神戸と同様の動きが進んでいます。
農業におけるプロ・アマの境界
三島さん:都市農業、周りでも関わる人増えてます。農業人口は減ってますが、プチ農民みたいな人が増えれば、プロ農家とアマチュアの壁も薄くなり、国の食料保障みたいな可能性もあると思うんです。都市農業に関わる人口が統計的に出ているのか、そしてプロとアマチュアの境界はどうなっていくと思いますか?
新保さん:統計的には都市農業に関わる人数は不明です。プチ農民やボランティアはデータがなく、神戸などでは小さな空き地を借りて農業に興味を持つ人もいます。副業として農園運営を始める人も増えていて、入り口のハードルを下げる制度も出てきました。農家自体は減っていますが、少しずつでも状況は変わると思います。
三島さん:専業農家は減っても技術継承は必要で、応援するプラットフォームが広がると良いと思います。八王子の大久保ファームなどでも、会員が農家をサポートして農業が成り立っています。
新保さん:従来の農家とそうでない人の境は薄れてきています。農水省も街中の農園への補助を始めていますね。
三島さん:国策では保護しすぎるより、社会に開いて都市農業に関わる人を増やした方が、農家のビジネスもサステイナブルになりそうです。ご紹介いただいたシンガポールの国策が日本で難しいのはなぜでしょう?
新保さん:規模の違いと都市の一体性が大きいです。シンガポールは面積が淡路島くらいで全て都市、トップダウンで統制しやすい。一方、日本は広く多様で47都道府県もあり、意見も多様なので、一気には進めにくいです。
日本と海外の事例の違い
小松さん:都市農園の意義が分かりやすくて、もっと実践したくなりました。私も松戸の実家でバーベキューガーデンを作っていて、野菜やハーブがあるとみんな喜ぶんです。本来家庭にあった農が薄れている気がして、住宅や集合住宅と農の関係をもっとかっこよくしたいんです。海外だと美しく見えるのに、日本はなぜダサく見えるのか、そのギャップも知りたいです。
新保さん:ウィーンのクラインガルテンだと、DIYで小屋を作りデコレーションする文化があり、ライフスタイルとして週末にここで過ごす余裕もあります。都市計画的には緑地カテゴリーに位置づけられ、法的にも小屋での通年居住や2階建ても可能です。日本にはこのような包括的な法律はありません。日本では2拠点生活は遠方想定ですが、街中にこうした空間を持つことも可能です。ウィーンでは元農村地帯が市街地に取り込まれ、都市の中にクラインガルテンが残っています。
土地の所有は、基本は国や自治体です。鉄道会社や民間も一部あります。昔は賃貸が多かったですが、今は買い取ることも可能です。借りる場合は、昔は年間5万円くらいで、今は10万円前後かもしれません。借りたら基本ずっと使えるので人気です。新規開発はほとんどなく、手放した場所を次に貸すくらいです。

ゲストに対するQ&A
今回も、視聴者の皆様から本当にたくさんの質問をいただきました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます!

新保さん:誰でも収穫できる仕組みなので「泥棒」という概念はあまりないと思うんです。ただ、こっそり芋を全部持っていっちゃうみたいなケースはあって、そこはまだ対策しきれてないみたいです。でも基本は「美味しい時期にどうぞ」というスタンスで、収穫時期を札で示すなど工夫されています。
三島さん:直売所の話でも、盗難が2割くらいあると聞きました。でも一番の対策は「誰が育てているか」を想像してもらうことらしいんです。生産者の存在が見えるほど、盗難は減っていくと。
新保さん:確かに、誰が作っているかわからないと「まあいいか」と思いやすくなるのかもしれませんね。
石川さん:情報設計で「顔が見える」ようにするだけでも、防ぐ工夫はできそうですね。

新保さん:土地の使用契約で原状復帰が必要だったり、元々砂利や建物があったりすると整備が大変で、汚染の懸念もあったりするので、コンテナ栽培になるケースが多いですね。土でやるのが理想ですが、暫定利用だとコンテナの方が管理しやすいという面もあります。

新保さん:集客方法としてはやっぱり「開く」ことが基本ですね。できるだけオープンなイベントを定期的に開催して、新しい人が入りやすい雰囲気や入り口を作っておくことが大事です。義務化するとハードルが高くなるので、来たい時に来られる形が望ましいですね。その分、参加者のプールが大きくなるので管理する人員も必要になります。
利益面で安定させるには会費収入が一番。月1000円くらいから、高いところだと5000円や1万円くらいまで幅があります。それで最低限の運営を確保して、そこからどう付加価値をつけるかはまだ模索中です。土地管理や行政サービスの代替として委託費で担保する方法もありますね。東京都日野市のせせらぎ農園さんは生ゴミ処理を事業として行うことで補助金を受け、その一部を農園整備に使うやり方でした。

新保さん:丁寧なワークショップを何度も開いたり、収穫物を近隣にお届けしたりして、コミュニケーションを取ることが重要だなと感じます。最初は「何これ?」と思われても、活動を公開することで理解してもらえることもあるそうです。三島さんは実際に活動してみてどうですか?
三島さん:合意形成をゴールにしないことが大事ですね。最初から完全な合意を目指すと逆にプレッシャーになります。大切なのは、地域住民という大きな括りではなく、個々の人に丁寧にアプローチすることです。人間関係をほぐしながら、少しずつ理解や協力を広げていく感じです。新しい学校での過ごし方みたいに、一人一人をちゃんと見て向き合うという感覚ですね。
新保さん:最初は反対していた人が後で味方になることもよくあります。
石川さん:反対の情熱がある分、地域への関心が強いということですもんね。地域住民を一括りにせず、誰とまず対話すればいいかを見極めながら進めるのがポイントですね。

新保さん:都市農地は収穫物がある分、普通の緑化とちょっと違うので、同じ方向性では語れないと思います。ただ最近はフードフォレストやエディブルガーデンのように、食べられるものと観賞用植物を混ぜる形が流行っています。公共の場での運用は難しいですが、最近の法律改正でも、緑地と農を組み合わせた計画が求められるようになってきています。

新保さん:最近、学校農園やエディブルスクールヤード(「食べられる校庭」という意味)の関心は高まっていますが、実際の小学校はマンパワー不足で現実的には厳しいですね。教育効果は高いので、コミュニティガーデンと連携して関わるのが現実的かなと思います。
石川さん:そうですね。先日伺った平和不動産の屋上農園も、近隣小学校と授業プログラムで連携していました。地域の農園と学校が協力する形は可能性があります。神戸市の中学校の部活が地域委託になった例もあります。
新保さん:そういう形なら、地域の農園で「農園部」みたいな受け入れもできますし、大学サークルとも連携できそうです。
石川さん:学校の土地を活用して、地域の人も一緒にそれを世話する、みたいな取り組みもできそうですね。
新保さん:プロ農家だと品質管理が大変ですが、出荷目的でなければ十分可能だと思います。
【SGDトーク】今回のまとめ
小松さん:新保さん、本日はありがとうございました。都市農園の世界がこんなに幅広く、活用方法も多様だと改めて感じました。住宅や不動産とどう掛け合わせるかも含め、日本の課題解決につながる可能性があるなと。市民農園やプロとも連携できる駆け橋になれるよう、これからも勉強していきたいです。よろしくお願いします。
三島さん:今日はありがとうございました。聞きながら改めて思ったんですが、「農」って単に土から作物を育てる生産行為だけじゃなくて、もう一つの生き方みたいな感じになってきてるなと思いました。つまり農業や農家だけの話ではなくて、興味や関心のある人が自由に飛び込んで関われる、生き方やライフスタイルとしての側面がある。そういうイメージで「農」という言葉を広げていくのは面白いなと思います。都市の「スポンジ化」という表現には、少し違和感があります。スポンジだと穴が空いて空っぽなイメージですが、むしろ地面がめくられて新しい活動や空間が生まれるような感じがします。都市の中の空地や余白をどう捉えるかという話で、農の視点から見れば、単に空白ではなくて「可能性を秘めた場所」という感じですね。だから都市の縮退や空間の見方を、言葉で正確に表現することも大事かもしれません。
石川さん:私が今日感じたのは、都市で農業するってすごく手間がかかることだなということです。都市生活では、効率や即時解決が重視されて、手間をかけることが置き去りにされがちですよね。でも農は手間がかかること自体が価値になる。体を動かすことでもあり、運動や健康、美容にもつながる。そういう「手間をかけることの価値」をもう一度見直すことが大事だなと思いました。
新保さん:都市の農は、生き方や暮らし方を見直すきっかけになると思います。生産物を作る農業とは違う側面もあって、街の中でどう活かせるか考えることで、新しいアイデアや面白い街づくりにつながると思います。都市計画でも、かつては「街に農はいらない」とされていましたが、今は「都市に農はあるべき」と捉え直されてきています。これをどうデザインし直すか、実践していきたいですね。

【SGDトーク】 プロフィール
ゲストスピーカー
新保 奈穂美(しんぽ なおみ)
東京大学空間情報科学研究センター 准教授
さいたま市出身。東京大学農学部環境資源科学課程緑地生物学専修を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻にて修士・博士号(環境学)を取得。筑波大学生命環境系助教・兵庫県立大学緑環境景観マネジメント研究科准教授等を経て、現職。緑地計画学を専門とし、主にコミュニティガーデンなど市民主導で空き地などにつくる都市型農園の役割や管理運営方法、都市計画への位置づけを国内外で研究。主な著書に「まちを変える都市型農園 コミュニティを育む空き地活用」(学芸出版社 刊)。
モデレーター
小松 正幸(こまつ まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会 理事
NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事
代表を務めるユニマットリックはエクステリア・造園CADシステム「RIKCAD」の開発や、エクステリア・ガーデンデザイナーを養成する専門校「E&Gアカデミー」の運営を行い、「エクステリア・造園・園芸業界の課題解決」と「豊かな生活空間の創出」を目指している。
https://www.rikcorp.jp/
三島 由樹(みしま よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部 共同代表理事
ランドスケープデザイナー
慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院GSD修了後、MVVA NYオフィス、東京大学都市工学専攻助教を経て、2015年4月に株式会社フォルクを設立。全国の様々な地域における文化と環境をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営に取り組む。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。主なプロジェクトの受賞として、Good Design Award(下北線路街空き地, 2020)、緑の環境プラン大賞 国土交通大臣賞(芝のはらっぱ, 2020)、SD Review 入賞(石井の家, 2022)、都市公園等コンクール 日本公園緑地協会会長賞(シモキタのはら広場, 2023)、緑の都市賞 内閣総理大臣賞(シモキタ園藝部, 2023)、日本造園学会賞(シモキタ園藝部, 2024)など。八王子市まちづくりアドバイザー/登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。
石川由佳子(いしかわ ゆかこ)
一般社団法人 for Cities 共同代表理事
一般社団法人Social Green Design協会 理事
Dear Tree Project 主宰
watageディレクター
アーバニスト
エクスペリエンス・デザイナー
女子美術大学 芸術学部 共創デザイン学科 非常勤講師
「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに東京、カイロ、ホーチミンなど国内外の都市で市民主体の小さな活動を街の中で企てていく。都市体験のデザインスタジオ「for Cities」共同代表理事。世界中のアーバニストのためのプラットフォーム「forcities.org」や学びの場「Urbanist School」を国内外で企画・運営。神田にコミュニティ拠点「watage」を立ち上げ。ユース世代のためのアーバンデザインセンターとして活動をスタート。街路樹のデータプラットフォーム「Dear Tree Project」主宰。
https://linktr.ee/YukakoIshikawa
(執筆:稲村 行真)
