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【直前期応援記事】8月はゴールデンタイム 〜働きながら合格した私が、いま受験生に一番伝えたいこと〜

■はじめに


連載をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は連載記事の番外編として、直前期のど真ん中「8月はゴールデンタイムである」という話です。


8月に入ると、受験生の皆さんのSNSには不安の声があふれます。「模試の点数が伸びない」「もう間に合わない気がする」「今年は記念受験かもしれない」。私も働きながら複数回受験した身ですから、その気持ちは痛いほど分かります。8月の自分は、毎年そういう言葉を心の中でつぶやいていました。


しかし、合格した年の8月を振り返って断言できることがあります。


社労士試験は、8月に一番伸びる試験です。


これは精神論ではありません。試験の構造と、人間の記憶の仕組みから導かれる、きわめて合理的な結論です。今回はその理由と、働きながらの8月の過ごし方を、実体験を交えてお話しします。



■なぜ8月が「ゴールデンタイム」なのか


●理由①:社労士試験は「記憶の鮮度」で勝負が決まる


社労士試験の出題の中心は、数字要件、期限、手続、目的条文、そして統計です。深い思考力を問う問題よりも、「正確に覚えているか」を問う問題が圧倒的多数を占めます。


ここで思い出してほしいのが、エビングハウスの忘却曲線です。人間は覚えたことを、翌日には7割前後忘れると言われています。つまり、4月に完璧に覚えた数字も、放っておけば本試験当日にはかなり抜け落ちています。


逆に言えば、本試験に一番近い時期に入れた記憶ほど、鮮度の高い状態で試験会場に持ち込めるということです。8月に覚えたことは、忘れる前に本番が来ます。これが「ゴールデンタイム」の正体です。


4月の1時間と8月の1時間は、同じ1時間ではありません。記憶系の試験において、8月の1時間は数倍の価値を持ちます。


●理由②:土台ができているから、吸収速度が違う


もう一つの理由は、皆さん自身の変化です。


年明けから積み上げてきた学習によって、8月の皆さんの頭の中には、すでに科目の骨格ができあがっています。骨格ができた状態での暗記は、ゼロからの暗記とはまったく違います。


例えるなら、4月の暗記は更地に杭を打つ作業。8月の暗記は、できあがった棚に物を収める作業です。「これは健保の傷病手当金の話だから、労災の休業補償給付と比較して覚えよう」という関連付けが自然にできるようになっている。だから入りが速く、抜けにくい。


模試の点数が伸び悩んでいる方も、心配いりません。模試を受けた時点の記憶と、8月末の記憶は別物です。模試の点数は「7月時点の鮮度」しか測っていません。



■8月に「貯める」べき記憶4選


では、具体的に何を貯めるか。私が合格年に重点を置いた4つをご紹介します。


●①数字要件の総ざらい


「2か月」「4分の3」「1年6か月」「60歳以上65歳未満」。社労士試験は数字の試験です。テキストや横断整理本の数字部分だけを抜き出して、毎日回転させましょう。


ポイントは、科目内ではなく科目横断で似た数字を並べることです。「継続給付の要件は1年か1か月か」「時効は2年か5年か」。混同しやすいペアをセットで覚えることで、選択式・択一式の両方に効きます。


●②目的条文の暗記


選択式対策の王道です。労基法、労契法、安衛法、労災、雇用、健保、国年、厚年。主要科目の目的条文は、8月に音読とセットで固めましょう。


私は通勤中に目的条文の音声を聞き、昼休みに空欄補充形式で確認していました。目的条文は「今から覚えても間に合う」代表格です。むしろ早く覚えすぎると忘れるので、8月こそが適期だと考えています。


●③統計・白書の要点


深追いは禁物ですが、捨てるのはもっと危険です。各予備校の直前対策講座や白書まとめ教材の範囲に絞り、「傾向の方向性(増えているか減っているか)」と「おおよその水準」だけを押さえます。


細かい数値を全部覚えようとすると沼にはまります。「上がっているか、下がっているか、横ばいか」を答えられれば、選択式の消去法で戦えます。


●④直近の法改正


法改正は出題者が「聞きたくてたまらない」論点です。改正部分は、改正前と改正後をセットで整理しましょう。ここも記憶の鮮度がそのまま得点になる分野です。


●8月の暗記は、選択式にも択一式にも効く


「択一は足りているが選択式が怖い」という方、逆に「択一の点数が伸びない」という方、どちらにも朗報があります。8月の暗記は、両方の対策を兼ねます。


数字要件と目的条文を正確に覚えれば、選択式の空欄は埋まり、択一の肢の正誤判断も速くなります。統計の傾向を押さえれば、選択式の一般常識で消去法が使えるようになります。つまり、8月にやるべきことは試験形式ごとに分かれているのではなく、「正確な記憶」という一点に集約されるのです。


対策が一本化されるということは、迷わなくていいということです。「選択式対策と択一対策、どちらを優先すべきか」と悩む時間があったら、数字を1つ覚えましょう。それが両方の得点になります。



■働きながらの8月 〜時間の作り方〜


私は勤務しながらの受験でしたので、「8月が大事なのは分かるが、時間がない」という声には全力で共感します。その上で、実際にやっていた工夫を3つ挙げます。


●①夏季休暇は「暗記合宿」にする


多くの会社には夏季休暇があります。私は合格年、この休暇を家族に頭を下げて「暗記合宿」に充てました。旅行やお盆の予定を完全にゼロにする必要はありませんが、まとまった休みのうち2〜3日を確保できるかどうかで、8月の総学習量は大きく変わります。


合宿と言っても、やることは地味です。数字要件の回転、目的条文の空欄補充、択一の過去問を科目単位で解く。派手さはありませんが、この地味な反復が9月の合格発表につながりました。


●②スキマ時間は「暗記専用」と割り切る


8月の平日は、机に向かえて1〜2時間が現実です。だからこそ、通勤・昼休み・入浴前後などのスキマ時間を、すべて暗記に振り向けます。


スキマ時間に択一の長文問題を解こうとすると、中途半端になってストレスが溜まります。スキマは暗記、机は演習。この役割分担を決めてしまうと、迷いが消えて回転数が上がります。


●③「今日の暗記メニュー」を前夜に決めておく


直前期に一番もったいないのは、「今日は何をやろうか」と考えている時間です。私は前夜に付箋1枚分のメニュー(例:健保の数字30個+労基の目的条文+統計1テーマ)を書いておき、朝はそれを消化するだけにしていました。判断を前夜に済ませることで、当日の意志力を暗記そのものに使えます。



■記憶を「貯める」ための3つのコツ


同じ1時間でも、やり方次第で貯まる量は変わります。私が合格年に効果を実感した暗記のコツを3つご紹介します。


●①「読む」より「思い出す」


心理学で「テスト効果」と呼ばれるものです。テキストを繰り返し読むよりも、一度閉じて「思い出そうとする」ほうが、記憶は格段に定着します。


具体的には、数字要件のページを読んだら、すぐにテキストを閉じて白紙に書き出してみる。目的条文なら、キーワードを隠して空欄補充する。思い出せなくて悔しい思いをした箇所ほど、次は忘れません。「読んだ回数」ではなく「思い出した回数」を数えてください。


●②寝る前に暗記、朝に確認


記憶は睡眠中に整理・定着すると言われています。私は寝る前の15分を「その日の暗記メニューの総復習」に充て、翌朝の通勤電車で同じ内容を思い出す、というサイクルを回していました。


夜に入れて、寝て、朝に思い出す。この一往復で、記憶の定着度は体感でまったく違います。夜更かしして詰め込むより、睡眠をはさんだ反復のほうが、直前期には圧倒的に有利です。


●③声に出す、手で書く、歩きながら覚える


黙読だけの暗記は、どうしても単調になり、集中が切れます。目的条文は音読する、混同しやすい数字は表に書き出す、疲れたら部屋を歩きながらブツブツ唱える。五感を複数使うほど、記憶の引っかかりは増えます。


私は休日、近所を散歩しながら目的条文を暗唱していました。傍から見れば怪しい中年ですが、机に向かうより頭に入る実感がありました。直前期は、格好をつけている場合ではありません。



■【参考】合格年8月の私の1日


イメージしやすいように、働きながらの私の8月のモデルスケジュールを載せておきます。


【平日(合計約3時間)】

・通勤(往復60分):目的条文の音声+社労士秒トレの回転

・昼休み(30分):前夜に決めた暗記メニューの空欄補充チェック

・帰宅後(60〜90分):机で択一過去問を科目単位で演習、間違えた論点をその場で暗記リストに追加

・就寝前(15分):その日の暗記メニューを白紙に書き出して総復習


【休日(合計6〜8時間)】

・午前:択一過去問を2科目(集中力のあるうちに演習系)

・午後:横断整理+統計・白書のまとめ教材(暗記系)

・夕方:散歩しながら目的条文の暗唱

・夜:1週間の間違いノートの回転+翌週のメニュー作成

私は8時間以上の勉強はできませんでした。


見てのとおり、特別なことは何一つしていません。演習で穴を見つけ、暗記で埋め、睡眠で固める。この地味な循環を、本試験前日まで止めなかっただけです。



■8月にやってはいけないこと


貯める話の裏返しとして、「捨てる」話もしておきます。


新しい教材には手を出さない。8月に新しい問題集を買いたくなるのは、不安の裏返しです。しかし、新しい教材は新しい「覚えるべきリスト」を生み、既存の記憶の回転数を下げます。手元の教材の回転数を上げることが、最も合格に近い道です。


難問を深追いしない。模試や答練の正答率が低い問題は、本試験でも皆が落とします。合否を分けるのは、正答率の高い基本問題を落とさないことです。8月は「みんなが取れる問題を確実に取る」ための記憶固めに徹しましょう。


完璧主義を捨てる。全科目を完璧にして試験会場に行ける受験生は存在しません。私も合格した年ですら、「あの論点は最後まで曖昧なままだった」という箇所がいくつもありました。それでも合格点は取れます。7割の完成度の科目を8つ揃える意識で十分です。



■不安な夜に思い出してほしいこと


最後に、精神面の話を少しだけ。


8月の夜、勉強を終えて布団に入ると、不安が押し寄せてきます。「今日覚えたことも、どうせ忘れるのではないか」と。


でも、思い出してください。忘れてもいいのです。忘れる前に、本番が来ます。それが8月に暗記する最大のメリットです。


そして、いま不安を感じているということは、それだけ真剣に合格を目指している証拠です。記念受験のつもりの人は、8月に不安になりません。不安は、あなたが本気で戦っている勲章です。


私は複数回の受験を経て合格しました。合格した年の8月と、届かなかった年の8月の違いは、才能でも運でもなく、「8月をゴールデンタイムだと信じて、最後まで記憶を貯め続けたかどうか」でした。



■おわりに


まとめます。


社労士試験は記憶の鮮度で勝負が決まる試験であり、本試験直前の8月に入れた記憶は、最も高い鮮度で本番に持ち込めます。土台ができあがった今の皆さんは、年間で最も吸収の速い状態にあります。数字要件、目的条文、統計・白書、法改正。この4つを、スキマ時間と夏季休暇を総動員して、最後の1日まで貯め続けてください。


模試の点数は過去の記録です。合否を決めるのは、これからの数週間です。


8月は、追い込まれる月ではありません。貯めた者から順に合格していく、ゴールデンタイムです。


試験会場でお会いする皆さんの健闘を、心から祈っています。

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