初レコードは「乙女の愛の夢」!『ジャイアンの心の友』/ジャイアン大歌手への道!?②

ジャイアンの歌が酷いというエピソードは、初期の頃から登場している。

記念すべき一本目は「小学二年生」1971年10月号掲載の『ショージキデンパ』。この時から空き地に皆を集めてコンサートのようなことを開いており、ジャイアンに対して「うっとりしちゃう」などと気を遣われている。

さらに同じ月に発売した「小学四年生」での『ドラえもんの歌』でも独唱会を開いているが、この時は音痴の怪獣が化けて出たような声だと評されている。

続けて「小学五年生」1973年8月号の『キャンデーなめて歌手になろう』では、魅惑のリサイタル(実際はリライタルと誤字)なるものが開かれて、「公害の一種だ」などと悪評を受けている。

そして続けて「小学四年生」1975年10月号の『のび太放送協会』では、将来の夢として「タレントになるんだ、この美しい声と男性的なたくましさでテレビの人気者になってみせる」と宣言している。

作中では実際にのび太の作った放送局で「ジャイアンリサイタル」という番組で歌って視聴率を大幅に下げていた。

この作品の翌月「小学四年生」1975年11月号の『おそだアメ』では、「ジャイアン大いに歌う」と題したコンサートを空き地で開催、3時間ぶっ通しで歌い上げるという喉の強さを披露している。

このように、ジャイアンは定期的に空き地でリサイタルを開いており、将来的には歌手になりたいという夢を掲げていることが、初期ドラの頃から明らかとなっているのである。


本稿ではそこから半年後のエピソードを取り上げる。これまではコンサートを開いて強引に動員して人々を苦しめていたが、本作では自宅で気軽(?)に人々を過酷な環境へと追いやることとなる。

それは一体どんなことなのだろうか??


『ジャイアンの心の友』(初出:レコードせいぞうき)
「小学三年生」1976年4月号/大全集7巻

本作ではタイトルにあるように、その後のジャイアンの決め台詞の一つとなった「心の友」が初めて使われている(いきなり2回使用)。ただし、雑誌掲載時は別のタイトルであった。

「心の友」は本作以降でも歌関係で良くジャイアンが使う言葉で、今後も「ジャイアン大歌手への道!?」特集で何度も出てくるので、どうぞお楽しみに。*一度きちんと調べてリスト化しなきゃ。


さて冒頭、いつものようにボコボコに殴られたのび太が泣きながら帰ってくるのだが、いつになく激高しており、「爆弾をくれ!」とドラえもんに泣きつく。そして、

「ジャイアンにぶっつけて、僕も死ぬ」

と、自爆テロを催す構えなのである。

のび太は「僕の顔を見れば、何のかんの言って殴るんだ」と嘆くが、それに対してドラえもんは、「悔しい気持ちはわかるが、仕返ししてもまた仕返しされるからキリがない」と、大人の発言をする。

そんなドラえもんが提案するのは、ジャイアンから意地悪されたら逆に親切にしたらどうだというもの。逆張りの親切作戦によって、真心が通じ、結果的に仲良しになれるというのである。

そう簡単にいくとは思えないが、のび太も「そううまくいくかなあ」と半信半疑。


のび太は「レコードせいぞうき」という道具を持って、ジャイアンの家へ向かう。「さっきのことで文句でもあるのかっ」とジャイアンは凄むが、のび太はそこで「君は歌手になりたいって言ってたね」と切り返す。

ジャイアンは「一枚でもいいからレコードを出すのが俺の夢よ!」と盛り上がり、いきなりホゲ~~と一曲歌いだす。

「相変わらず酷い声だ」と思いつつ「レコードせいぞうき」を作動させると、今の歌声を吹き込んだレコードがポンと出来上がる。

ノビタレコードとレーベル名が書かれたそのレコードには、「乙女の愛の夢」という恐ろしいタイトルが印字されている。歌の歌詞から勝手にタイトルを付けてくれる機能があるらしい。


ジャイアンはさっそくプレイヤーにレコードをかけてみる。例の酷い声が流れるが、ジャイアンは「俺の歌は何度聞いても胸に迫る」と言って感動している。どうやらジャイアンは究極的に耳が悪いようである。

レコードせいぞうきは、コピーを何枚も作ることが可能で、さらにはオリジナルのジャケットも作ってくれる。「乙女の愛の夢」というタイトルからイメージしたものなのか、バラを一輪手にして女性的な表情を浮かべた気色の悪いジャイアンが描かれている。

ジャイアンは時々女性的趣味を垣間見せることがあって、実の本性はこの歌の題名のように乙女なのかもしれない。


念願のレコードを作ってもらったジャイアンは、のび太とガッシと強く握手をして、例のセリフがついに飛び出す。

「今からお前は、俺の親友だ! 心の友だ!」

そんなのび太も「郷田君!」となぜかジャイアンの本名を呼んで意気投合する。

のび太は「これで安心に暮らせる」とジャイアン懐柔の目的を果たし、満足して帰宅の途につくのであった。

さて、これでめでたしめでたしなら良かったのだが、大量のレコードを入手したジャイアンの暴走が始まり、やがてのび太にもその余波が襲ってくることになる・・・!


ジャイアンはレコードジャケットとは別カットと思しき自分の乙女な写真(イラスト?)を使って、レコードの宣材ポスターを作る。

大型新人あらわる!!
乙女の愛の夢
郷田武があまくせつなくうたいあげて・・・ヒット中!!

と安っぽさの極みのようなコピーを添えて、大々的にレコードを売り出そうというのである。

ただ、特に値段が書いてなく、その後金銭のやり取りをしているようには見えないので、今回は無料進呈ということなのかもしれないが果たして・・。


こういうジャイアンの危険な行動を真っ先に察知するのはスネ夫である。ジャイアンが家の前でレコードを皆に売りつけようとしていることを見つけて、皆に回り道をするよう忠告していく。

ところがばったりと人通りが無くなったことに気が付いたジャイアンは、町をブラついて、「当分(ジャイアンの家には)近寄らない方がいい」という発言を聞き出し激怒する。

これをきっかけにジャイアンはレコードを、嫌がる子供たちに手渡していく。調子の良いスネ夫は「なぜ早く教えてくれないんだよ」とお世辞を使うが、このおべっかはすぐに痛い目となって跳ね返ることになる。


強引に売っていたにも関わらず、爆発的売れ行きだと大満足のジャイアン。「俺の歌がこんなにも人気があるとは思わなかった」と、本当に面の皮が厚い

ところがあれだけ捌いたにも関わらず、町を歩いていてもレコードが流れている様子はない。

そこで道でバッタリ会ったスネ夫に「レコード聞いたか」と尋ねてみると、スネ夫は「聞いたとも!もうレコードが擦り切れるほど、繰り返し繰り返し・・」と明らかなウソをつく。

そこで勘の良いジャイアンは、「じゃあ、はじめのとこ、ちょっと歌ってみろ」とツッコミを入れ、答えに窮したスネ夫をボッコボコにしてしまう。そして家に帰らせて無理矢理レコードを聞かせるのであった。


暴力を背景に自らの曲をヒットソングに押し上げるジャイアン。そのくせ自発的にヒットしたかのように脳内思考をチェンジさせて、のび太に対して「この分だとNHKの紅白出場も夢じゃない」と得意満面。

ちなみにこの時「心の友よ、きょうだいよ」と二度目のアレを使ってのび太に感謝の意を示している。

のび太としてはジャイアンに親切にしたことで想定以上に喜んでくれたので、「僕まで嬉しくなってくるよ」と手応えばっちり。

ところが、ジャイアンと親睦できて喜んでいるのはのび太だけで、他の皆にとってはハタ迷惑極まりない。当然その怒りはのび太へと向けられることになる。


のび太はスネ夫たちジャイアンレコードの被害者たちに囲まれる。そして・・・。

のび太は体中に傷を作って泣きながら帰宅。

「ドラえもん、爆弾二十個出してくれえ」

と、今度はジャイアンの被害者たち20名を道連れに死ぬ覚悟を示すのであった。


ドラえもんの助言によるジャイアンへの親切作戦は大成功だったが、ジャイアンを喜ばすことは、他の人たちにとっては迷惑の種になりかねないという部分を読み切れてなかったようである。

ジャイアンは一人暴力団みたいなものなので、反社への対応策同様、一切関わってはならない存在なのである。




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