ヒーロー+生活ギャグが確立!「とびだせミクロ」/初期SFヒーロー漫画⑤
藤子・F・不二雄大全集「とびだせミクロ」第一巻巻末に、藤子先生が季刊「UTOPIA」6号に寄稿した文章が収録されている。「とびだせミクロ」の立ち位置が良くわかるので、一部抜粋してみよう。
まず作品については以下のように端的に説明している。
「博士と男の子、女の子の三人組が、ホルスターから飛び出す小型ロケットを乗りまわし悪と戦うという・・・なんとものんびりした素朴なSFまんがでした」
作品プロットだけ読むと、別に「のんびりした素朴な作品」とは一概に言えないと思うが、中身は確かに素朴そのもの。本作あたりでSFギャグ路線が生まれつつあることを自覚されていたようである。
そして本作の立ち位置については以下のように語っている。
その二年前に、少年サンデーに「海の王子」(高垣葵・案)を書いたわけです。(中略)僕等の最初のヒット作といえましょうか。好評で、同じ小学館の学習誌から、海の王子幼児版みたいなのを書いてくれといわれて「ろけっとけんちゃん」を発表しました。幸い好評で、も一つ似たような物をといわれ「すすめロボケット」を書き、お陰様で好評で、更に似たような「とびだせミクロ」を書いたわけです。
ここでは触れていないが、他にも類似作品を書いている。ただし、連載期間が短かったりして、マイナーな存在に留まっている。
藤子先生の中では、「海の王子」を起点に、「ろけっとけんちゃん」「すすめロボケット」と繋がっていき、「とびだせミクロ」に辿り着いたようなイメージをお持ちだったようだ。
僕の分類とは少し異なるが、大全集が示していた「海の王子」系列の作品は下記となる。
<メジャー>
「海の王子」
1959年3月~1961年3月(「週刊少年サンデー」他)全30話
「ロケットけんちゃん」
1960年4月号~1963年3月号(「小学三年生」他)全29話
「すすめロボケット」
1962年1月号~1965年8月号(「小学三年生」他)全75話
「とびだせミクロ」
1963年1月号~1965年7月号(「小学三年生」他)全29話
<マイナー>
「すすめピロン」
1961年6月号~1962年4月号(「小学二年生」他)全10話
「ロケットGメン」
1962年4月号~1963年3月号(「小学二年生」)全4話
「スーパーじろう」
1963年1月号~12月号(「幼稚園」他)全12話
「ろぼっとたろう/すぴーどたろう」
1963年4月号~12月号(よいこ」)全9話
ここまで「とびだせミクロ」以外は、簡単な記事を書き終えているので、下記にリンクを貼っておく。ただし、「海の王子」の学習誌版については触れていない。
本稿ではSFヒーローもののメジャー4本目となる「とびだせミクロ」について、簡単な概略などをまとめておきたい。
まずは掲載誌の状況から。
「幼稚園」1963年1月号~3月号(全3話)
「小学一年生」1963年4月号~1964年3月号(全11話)
「小学二年生」1964年4月号~1965年3月号(全12話)
「小学三年生」1965年4月号~7月号(全3話)
「幼稚園」でスタートして、学年繰り上がり方式を取りつつ、「小学三年生」7月号まで、通算2年7ヵ月も連載が続いている。
連載の最後の方は、「オバケのQ太郎」の大ブレイクと重なって、7月号という中途半端な時期に最終回を迎えてしまう。
そして、オバQが登場してからは、本作のようなSFヒーロー路線の作品は描かれなくなる。その意味で、本作の最終回は、「海の王子」から始まったSFヒーロー路線の終着地点と言えよう。
本作の主要登場人物は3人。主人公の少年けんちゃんと、そのガールフレンドまりこちゃん、けんちゃんのおじいちゃんである丸山博士である。
けんちゃんとまりこちゃんと聞いて、オヤッと思った方は相当な藤子通。実は主人公二人の名前は、本作よりも少し前に連載されていた「ロケットけんちゃん」のコンビと同じなのである。
博士のキャラクターも、大田博士と丸山博士という違いがあれど、設定や見た目がかなり近しい。
このあたりの作品が区別しにくいのは、こうした登場人物の配置・ネーミングが混乱しやすいからであろう。
本稿では、連載スタートからの各作品をダイジェストで紹介しておきたい。
『とびだしたロケット』「幼稚園」1963年1月号
記念すべき第一回目。主人公のけんちゃんが、おじいさん(丸山博士)からミクロと名付けられたロケットが飛び出すホルスターを譲り受ける。ロケットは空を飛び、海を潜航する。そして「戻れ」と声を掛けるとホルスターの中に収納される。
「これを良いことに使うんだよ」と、おじいさんから声を掛けられるけんちゃんであった。
『さらわれたまるやま博士』「幼稚園」1963年2月号
悪者に攫われた丸山博士。悪いロボットが身代わりとして残され、ミクロと格闘して何とか撃退。そして、無事博士の救出にも成功するのであった。
『強盗をやっつけろ』「幼稚園」1963年3月号
冒頭でヒロインとなるまりこちゃんが初登場。まりこのパパのダイヤが盗まれたので、ミクロで追いかけて海上で撃退する。ダイヤのお礼にヘルメットをプレゼントされる。
ここまでの「幼稚園」掲載3作で大体の設定、登場人物の紹介は終了。学年が繰り上がり、ページ数も大幅に増加。いよいよ本格的なバトルが勃発していくことになる。
『ふんわりガス』「小学一年生」1963年4月号
おじいちゃんが作った、重いものを軽くする「ふんわりガス」が悪者たちに盗まれる。ふんわりガスを使って山を空に浮かべて、空から犯罪行為に及ぶ悪者たち。
けんちゃんと博士で天空の山に向かうが、博士が悪者たちに捕まってしまい・・・。読者が小学生ともなると、いきなり本格的な冒険物語を作ってしまうF先生なのである。
『ノア博士の野望』「小学一年生」1963年5月号
小惑星が地球に接近、地球が破壊される前にロケットで脱出するべしと、ノア博士がテレビで喧伝する。料金は一人100万円とのことで、この時代の物価を考えると、とてもではないが庶民には手が届かない。
しかし実際には、小惑星はロケットエンジンを積み込んだ「セット」であることをけんちゃんたちが突き止める。
後のSF短編集の『箱船はいっぱい』を彷彿とさせるアイディアの作品となっている。
『巨大なカメにさらわれて…』「小学一年生」1963年6月号
タイトルからわかるように、「浦島太郎」をモチーフとした展開だが、そこにひとひねり。
冒頭でカメを助けてあげるが、水中から浮かび上がってきたのは巨大なカメ型の潜水艇であった。けんちゃんとまりこちゃんは捕らえられ、海のど真ん中でサメの餌食にされそうになるが、そこに冒頭で助けたカメによって、縛られていた縄を嚙み切ってもらう。
亀が恩返しをしてくれない・・・と思わせておいて、しっかり後で助けてくれるという流れが素晴らしい。
『そっくりロボット』「小学一年生」1963年7月号
背中のボタンを押すと、押した人に姿形がそっくりになる「そっくりロボット」を博士が発明する。ところが、ひょんなことからロボットが悪者の手に渡り、悪用されてしまう。
外見からはロボットなのか人間なのかわからないので、ロボットであることを見抜くことができる「レントゲンライト」を博士が作り、捜索に出発するけんちゃんたち。
本物とそっくりロボットが混在して大騒ぎとなる、藤子流のドタバタ展開がかなり楽しい。そしてラストも気が利いており、後の「ドラえもん」を彷彿とさせるお話となっている。
『恐竜と少女』「小学一年生」1963年8月号
夏休みとなると「恐竜もの」を書くことが多い藤子先生の特色が早くも表れている。
アフリカの奥地で、絶滅したはずの恐竜の写真を撮られて、報道される。けんちゃんたちはミクロに乗って、アフリカへと飛び立ち、ジャングルで動物たちと心通わせながら生活している少女と出会う。
少女は恐竜にジーゴと名付けて交流しており、けんちゃんたちもそこに加わる。しかしそこに密猟者が迫ってくる。
アフリカ奥地で恐竜を発見するという展開は、藤子作品ではお馴染みのもの。「パーマン」や「海の王子」などでも描かれている。
『イラビヤのアラビン』「小学一年生」1963年9月号+付録
こちらもタイトルから推察されるように、「アラジンと魔法のランプ」をベースにしたお話。別の記事でも紹介しているが、藤子先生は「アラビアンナイト」の物語が大好きで、たびたび自作のモチーフに取り込んでいる。
イラビヤ国の王子が攫われ、なぜか日本で囚われていたところをけんちゃんたちが発見。イラビヤ国に乗り込んで、事件の真相に迫る。
いかにも怪しい魔法を使う大臣が黒幕で、けんちゃんたちは大臣の繰り出す魔人や巨大ロボと戦うことになる。
全56ページの大ボリュームだが、本作以降この分量での作品が増えていく。
『サーカス戦争』「小学一年生」1963年10月号+付録
こちらも藤子先生お得意のパターンである、利口になった動物たちに人間が制圧されてしまうというお話。
博士が作った動物を人間並みに利口にしてしまう薬を、売れないサーカス団員が動物たちに飲ませたことで、動物たちが賢くなり、やがて人間に反乱を起こす。
本作の直前にも「てぶくろてっちゃん」で『動物たちの反乱』というお話を発表しているし、その後も「パーマン」や「ウメ星デンカ」などでも同様の展開が描かれることになる。
『どうぞうロボット』「小学一年生」1963年11月号+付録+12月号
何かと悪用されがちな丸山博士の今回の発明品は、小型の機械を取り付けるだけで人形などがロボットになるという「インスタントロボット」。案の定悪い外国人に奪われてしまい、後を追って外国へ。
明示はしていないが、外国とはアメリカのことで、そこで「インスタントロボット」を取り付けた自由の女神像と思しき巨大な銅像が暴れ出してしまう。
巨大な銅像が動くという絵力の強い展開は、後の「のび太の大魔境」などにも引き継がれている。
『ブラック島にきたスパイ』「小学一年生」1964年1月号+付録
初日の出を求めて辿り着いた島はウラン国の秘密基地のあるブラック島であった。そこでは太陽爆弾という地球の形を変えてしまうほどの威力を持った兵器が開発されている。
けんちゃんたちはスパイ容疑は解かれるものの、兵器完成まで幽閉されることになる。ところが、そこにトリム国の本物のスパイが潜入してくる。
ウラン国、スパイ、けんちゃんたちと三つ巴の駆け引きを読ませる一作。
『ミクロ対忍者』「小学一年生」1964年2月号+付録
既に記事化させているが、新ためて傑作だと思う。
『人類ミクロ化計画』「小学一年生」1964年3月号+付録
体を小さくする薬を使って、背が低かったことで馬鹿にされていた復讐を企てる博士との対決を描く。
「のび太の宇宙小戦争」に代表される、人間が小さくなるという藤子先生お得意のテーマが描かれる。本作での最大の見どころは、小さくなったけんちゃんが巨大な蜘蛛(実際は通常サイズ)と格闘するシーンだろうか。あまりに蜘蛛がリアルで、子供たち読者を震えあがらせる描写となっている。
ここまでが「小学一年生」掲載作品となる。この後学年が繰り上がり、「小学二年生」~「小学三年生」と連載が続いていく。
SF色豊かな、そしてギャグ要素も盛り込んだ傑作が次々と登場していくのだが、本日はここで体力切れ。
どこかで余裕があれば、他作品もレビューしてみたいと思います・・・。
