好きだ! ただし、死なない程度に。『愛しの竹子さん』「仙べえ」/藤子恋愛物語⑰
藤子F先生がストーリー、藤子A先生が作画というコンビネーションで描かれた作品「仙べえ」。
明治七年に突然仙人になると言って家を飛び出した10歳の子供は、その100年後、本当に仙人になって戻ってくる。現代に現れた仙人・仙べえと、仙べえを受け入れる家族の騒動を描いたお話が「仙べえ」である。
実質的な藤子不二雄最後の共作と言われている作品だが、「週刊少年サンデー」で連載されていたにも関わらず、それほど知られた存在ではなかった。(一応単行本は出ている)
どんなお話なのかは、一度簡単に説明した記事を書いているので、こちらを参照いただきたい。
読み返してみたが、我ながらそれほどいい記事ではないようだが・・。
本稿では「仙べえ」の中から、主人公の少年峯野モヤ夫が、ガールフレンド竹子さんのことを思い慕うという「藤子恋愛物語」をご紹介していきたい。
いかにも藤子F先生らしいドタバタな恋愛劇を、いかにも藤子A先生らしいちょっと過激なタッチで描かれる、そのコラボレーションの面白さを是非とも堪能いただきたい一本である。
「仙べえ」『愛しの竹子さん』
「週刊少年サンデー」1972年第1号
まずは、本作の前提として、それまでのモヤ夫と竹子の関係性について確認しておく。
モヤ夫には、3人のガールフレンド、竹子と静枝と千秋がいる。初回から3人の名前だけは出ていたが、実際には3話目の『クーラー大騒動』で竹子が初登場を果たす。
モヤ夫はちょっとした小金持ちの息子で、友だちの中でもいち早くクーラーを導入している。竹子がモヤ夫の家に遊びに来るのだが、これはモヤ夫目当てというよりは完全にクーラーで冷やされた涼しい空間狙いであった。
4話目の『ペットちゃん大あばれ!』では、冒頭モヤ夫と竹子は並んで歩いているので、仲が良いのかと思いきや、ガキ大将の出羽口の犬がモヤ夫を脅すと、なぜかそのまま出羽口と一緒に行ってしまう。
5話目『木の葉換金術Part.1』では、モヤ夫と出羽口が決闘することになり、ここで竹子はモヤ夫を応援する側に回る。乱暴者の出羽口に立ち向かう姿に共鳴したからである。
ちなみにこの作品では、静枝と千秋が初めて姿を見せるが、二人の風貌は竹子と比べてヒロイン感が全くない。
その後もちょいちょいと竹子は登場し、8話目『面くい鳥もわかってる』という作品では美を理解するという面食いの仙鳥に対して、竹子は自信満々に会おうとする。自分の容姿についてはちょっとした自負があるのだ。
ただしこの時は面くい鳥は竹子を相手にせず、竹子は機嫌を損ねてしまう。モヤ夫はすかさず「クラスで一番の美人だぞ」とフォローに入っている。
なお、その後竹子の出番は無くなっていたのだが、18話目となる『愛しの竹子さん』で久しぶりに再登場し、彼女にフォーカスが当たることになる。
これまでのお話の流れ上、モヤ夫が竹子を好きだという感じはあった。しかし本作では、モヤ夫は竹子に徹底的に嫌われたいので、仙術で何とかして欲しいと仙べえに依頼する。
ところが言葉とは裏腹に、実際に校庭でバレーボールに興じている竹子を見てモヤ夫の胸はドキンと高まる。
何だか様子がおかしいが、仙べえは構わず「センベラ!」と竹子に術を掛けると、竹子はモヤ夫の顔を見るだけで悲鳴を上げるほどにモヤ夫を嫌うようになる。
依頼通りに徹底的に竹子に嫌われたモヤ夫を見て、仙べえは「たまにズバッと術が決まると。気持ちいい!!」と喜ぶ。ところがこれにはモヤ夫は大いに不満。発注通りになったにも関わらず、仙べえの顔面を凹む程に殴りつけるのであった。

ここでようやく、モヤ夫から本音が語られる。モヤ夫は本当は(というか明らかに)竹子に好かれたかったのである。そこで、いつも裏目裏目に効果を発揮する仙べえの術を使えば、逆に好かれるのではないかと思って、嫌われたいという相談をしたというわけなのだ。
「侮辱だ」と仙べえは怒るが、確かにモヤ夫が具体的に指摘する通りに、これまでの仙べえの術は失敗ばかりであった。
モヤ夫は失敗例として、「台風を呼ぼうとしたら止んじゃったり、お金が木の葉に変わったり」と指摘しているが、これらは、それぞれ『台風よ来い!』、『木の葉換金術』の回を指している。
そこで仙べえが竹子をどのくらい好きなのか尋ねると、
「好きなんてもんじゃない。この世に本当に愛があるとすれば、それは僕の気持ちだ!! 竹子さんのためなら、死んでもいい!!」
と、自己陶酔気味にハイテンションで愛を語る。その完全にイッている目は、A先生の作画力の賜物である。
するとそこへ、タイミング良く竹子が現れる。「それ本当!?今初めて知ったわ!!峯野さんの気持ち」と、話の一部始終を聞いていたようだ。竹子は嬉しそうな表情を浮かべているが、手にしている長めの棒状のものが気にかかる。
竹子は「私のためなら命もいらないんですって?」と重ね聞きをしてくるので、モヤ夫は「もちろん、命の一つや二つ」と興奮して答える。すると、竹子は「じゃ、さっそくいただくわ」と言って、手にしていた日本刀を抜く。
刀を振り回す竹子に、逃げまどうモヤ夫。そこで「センベラ!」と仙べえが声を上げると、竹子は消える。竹子は仙べえの作り出した幻であったのだ。
殺されそうな目に遭ったモヤ夫は、ここで若干言い回しの軌道修正をして、
「でも好きなのは本当だよ。死なない程度に」
と、順当な愛情を示す。
しかし続けての発言は少々いただけない。
「竹子さんのことを思うとオヤツも喉を通らない、昼も眠れない」
オヤツや昼寝くらい我慢しろと思うところだが、なぜか仙べえには響いて、「わしが力を貸してやるべ」と一肌脱ぐことになる。

仙べえは一本の糸を取り出し、「センベラ!!」と呪文を唱える。そして糸を二つに切り、一本をモヤ夫の足首に結ぶ。そして、もう一本を竹子の足首に巻けば、二人は切っても切れない仲になるのだという。
ドラえもんの道具にでも出てきそうな、運命の糸を使った作戦だが、問題はどうやって竹子の足首に糸を結ぶのかということである。この課題をクリアするために、この後大騒ぎが巻き起こっていく。
まずモヤ夫が竹子の元へと向かうが、先ほどの嫌われる術の効果が残っていて、竹子はモヤ夫が近づくだけで悲鳴を上げてしまう。仕方なく仙べえにお願いするのだが、仙べえもうまく話を切り出せない。
確かに良く知らない人の足首に糸を巻かせてくれとも言い出しずらいし、無理やり巻くわけにもいかない。何気にハードルの高いミッションなのである。
そこで「応戸迷所ン(オートメーション)の術」で、自動的に糸を動かして、竹子の足に絡みつかせようとする。ところが糸はピョコピョコと竹子の隣に座っている、凄まじく悪意のこもった外見の女の足首に巻きついてしまう。
そしてこの女は突然モヤ夫の元へと走り出し、会うやすぐに抱きついてくる。仙べえが慌てて後を追い、糸を回収すると、その女に「何するのよエッチ」と突き飛ばされてしまう。モヤ夫、踏んだり蹴ったりなのである。

再び仙べえが出向いていくと、竹子が一人で歩いている。すかさず近づいて行って糸巻きを試みるのだが、いかにも怪しげな様子で、竹子に警戒されて大声を出されてしまう。
竹子の悲鳴を聞いた出羽口がボディガードに名乗りを上げて、竹子を完全防御。
そこで仙べえは姿を消して二人に接近し、足首に糸を巻こうとするのだが、何と姿を消す術は女性の近くでは破れてしまうという役の立たなさで、仙べえの存在がバレてしまう。
出羽口はすかさず仙べえから糸を取り上げ、首に巻きつけてほぼ窒息死寸前まで締め上げる。
そして次のコマ。運命の糸を巻き付けられた仙べえが、「お嫁にして欲しいのじゃ」と言って、モヤ夫に抱きついてくる。キモチワリ~イと、何とか仙べえから離れそうとあがくモヤ夫なのであった。
このラストを読む限り、糸を巻く場所は足首でなくてもいいようだが、であったら別の穏便な作戦も考えられたような気がしないでもない。まあ、いずれにせよ、糸の有無だけで好き合っても長続きはしないので、あまり意味のある方法ではなかったのだが・・。
