ヒーローごっこVS.悪者ごっこ「オバQ」『バードマン対フラック団』/正義のヒーローごっこ②
わが日本における、正義のヒーローを振り返る。
古くは鞍馬天狗、赤胴鈴之助、月光仮面。少し時代が進み、鉄腕アトム、ウルトラマン、スーパーマン。さらに進んで、仮面ライダー、忍者赤影、ガッチャマン・・・。
さらに時代が進んでいくと、世の中ヒーローだらけになっていて、みんなが一致して心に思うヒーローがいなくなっていく。
子供たちの間では必ず「ごっこ遊び」が流行るわけだが、特定のヒーローごっこがしずらい時代になっているのかもしれない。
さて、子供たちの間でヒーローごっこ全盛期だったと思われるのが「オバQ」や「パーマン」が大人気だった1960年代なのではないかと勝手に考えている。
例えば「オバQ」の記念すべき第一回目では、正ちゃんたちが忍者ごっこをしている時にQちゃんのタマゴを見つけている。「パーマン」はごっこ遊びをしている子供たちにとって、待ってましたの題材であった。
本稿ではそんな60年代の真っ只中に描かれた本格派(?)の「スーパーヒーローごっこ」を描いた作品を見ていきたい。
「オバケのQ太郎」の『バードマン対フラック団』というお話で、その後の藤子先生の歴史を知る身からすると、色々と突っ込みたくなるタイトルである。
本作冒頭で、テレビ番組のヒーローとしてバードマンというキャラクターが出てくるが、この特徴の説明が前回の記事で紹介した「ドラえもん」の「スーパーダン」とほぼ一緒。
藤子先生の「ヒーローごっこ」作品の原点的なお話と言えるのかもしれない。
「オバケのQ太郎」『バードマン対フラック団』
(初出:とんだバードマンの巻)
「月刊別冊少年サンデー」1966年6月号/大全集4巻
まず正ちゃんやQちゃん、町中の子供たちが大好きなテレビキャラクター「バードマン」の説明から。
バードマンは鳥のように空を飛び、弾丸なんかびくともせずはね返す。彼の行くところ常に悪は滅びる。正義の味方バードマン。
スタイルはスーパーマンタイプだが、マスクが真っ黒なのが特徴的で、「パーマン」のプロトタイプのマスク(注)を彷彿とさせる。スーツの胸の部分には「V」の字をベースにした鳥のモチーフが付けられている。
(注)「パーマン」では連載初期の設定が固まりきらないお話で、パーマンマスクが今と違って真っ黒に塗られているタイプで描かれていた。
ちなみに「ドラえもん」に登場するスーパーダンの説明は以下。バードマンとそっくりである。
「空を飛べばロケットより早く、ピストルの弾丸も弾き返すその強さ、悪を滅ぼす男、その名はスーパーダン」
さっそくテレビ番組に影響された正ちゃんは、風呂敷とお手製のマスクでバードマン姿に扮装する。そしてQちゃんに抱えてもらって飛べばヒーローになれると言う。
Qちゃんは「そんなら僕がバードマンになった方が早い」とツッコミを入れるのだが、「そんなデブチンのバードマンがあるかい」と笑われてしまう。
かくして悪者を探しに空に飛び立つバードマン(を抱えたQちゃん)。さっそく地上から声を掛けられるのだが、それはなんと引っ越しの手伝いのお願いであった。確かに困っているのかもしれないが、ヒーローの任務ではない。
「ろくな仕事がない」と嫌気がさし始めたところで、野球のボールが飛んできて正ちゃんに直撃する。飛んできたタマを跳ね返す力は、正ちゃん演じるバードマンには無かったようである。
そして正ちゃんはそのまま野球に誘われて、ヒーローごっこからフェイドアウトし、Qちゃんだけが取り残される。
・・・このように、とっかかりは正ちゃんだが、すぐに飽きてしまい、Qちゃんがそれを引き継ぐというのが、「オバQ」の典型的な進行パターンとなっている。
バードマンセットを引き継いだQ太郎。空は飛べるのだが、やはり背格好がヒーロー然としておらず、小さい子供たちに「水ぶくれのバードマン」「バーカマン」などと悪口を言われてしまう。
「近ごろ景気がいいから太ったんだ」と訳の分からない強がりを言って、「あんな子供は相手しない、僕の役目は悪を懲らすことだ」と、本当の悪者を探すことにする。
するとおあつらえ向きに、マンホールの下から「これから世界的大犯罪の計画を立てる」という、大声での内緒話が聞こえてくる。
入ってみるといかにも悪人を目指していますといった風貌の男二人が、「わがフラック団は世界的ギャング団だ」と語り合っている。「団」というにはたった二人だし、やりとりが悪者ごっこをしているだけのようにも見える。
ちなみにここでの「フラック団」とは、本作連載時に大人気だったヒーロー番組の「忍者部隊月光」に登場する悪の組織「ブラック団」から取られたものと思われる。(鉄人28号のブラック団かもしれないが・・)
自分たちが元祖だと言い張るフラック団の二人だが、これまでの犯罪歴を聞くと、全て計画倒れに終わっており、Qちゃんは即座に「放っておいても悪いことのできるやつじゃない」と言ってその場を立ち去ろうとする。
すると「見捨てないで、今度こそ大犯罪を計画するからさ」と、ヒーローと戦うことを希望する。Qちゃんは「相手にとって不足だなあ」と不満を述べるが、フラック団も「俺たちだってデブチンのバードマンで我慢してやるんだ」と言い返す。
このやり取りだけを見ても、ヒーローごっこしているオバケと悪者ごっこしているいい歳の男たちという、バカバカしい構図が浮かび上がってくる。
まあ、何はともあれ「火花を散らして戦おうじゃないか」と、正義と悪の思惑が見事一致したのであった。
やがてQちゃんの元へフラック団から犯行予告が届く(切手不足で20円払わされる)。フラック団の狙いは大加根(おおかね)氏が保有するキング・オブ・キングスであるという。
はて、なんのこっちゃではあるが、ともかく現場へと急行するQちゃん。屋敷の主人に犯行予告について伝えると全く心配していないという。
さそがし厳重な警備が敷かれているのかと思いきや、キング・オブ・キングスとは、飼っている犬のことで、やたらと噛みつくクセがあるので、持て余しており、むしろ盗んでもらいたいのだという。
ちなみにこの犬は時価60万円の名犬だそうだが、1966年当時の物価は現在の半分とのことだから、約120万ほどの犬となる。調べてみると高価なトイプードルで100万超えくらいらしいので、最高級の犬と言ってもいいだろう。
が、名犬と思えぬほどに、まるで躾けられていないのである。
やたらとQちゃんの服を噛みついて破き、予告通りに侵入してきたフラック団二人も、そんなキング・オブ・キングスの凶暴さを見て、あっさりと手を引こうとする。
Qちゃんからすれば、ヒーロー活動は悪者が悪事を働くからこそ輝くものであり、まずはこの犬を盗んで貰わねばならない。そこで持っていけと言って、男たちを追いかけることにする。
オンボロなアストンマーチンに乗り込む男たちを見て、Qちゃんはやっとムードが出てきたと喜ぶ。悪とのカーチェイスほど盛り上がる場面はないからである。
もっとも、犯人側は何も盗んでいないし、ヒーローが追跡するのも、盗み出して欲しいからである。かなり本末転倒、倒錯状態なのである。
さらには、追跡するも、あっと言う間に車を追い越してしまう。2万5000円で買った中古車なので、まるでスピードが出ないのである。
あっさりと犯人に追いついたQちゃんは、まずはこれを盗めと言って犬を入れた箱を手渡す。これをバードマンが追いかけて取り戻すから面白いんだと説得する。
フラック団の二人は「それもそうか」と同意し、ただし「きっと取返しにこいよ、嘘ついたら酷いぞ」と、再び倒錯したやりとりとなってしまう。やはり本質的にこの二組の攻防は、ヒーローごっこVS悪者ごっこの域を出ていないのである。
車が故障したため、Qちゃんは一足先に本部に行けと言って地図を渡される。もはやごっこ遊びの体裁すら取れなくなってきている。
Qちゃんが向かった悪の本部は、単なるボロアパートの一室で、これだけ家賃の安そうな部屋なのに、丸二年も支払いを溜めてしまっているらしい。
そしてフラック団二人が返ってくる前に部屋を追い出され、男二人は「宿なし」となってしまうのであった。
その後もヒーロー対ギャングの設定をぎりぎり守った「ごっこ遊び」が続くのだが、最終的に取り返してきたキング・オブ・キングスを、元の持ち主が受け取り拒否(しかもガチ切れ)して、Qちゃんが持って帰ることになる。
そして大原家の部屋で、家族の服を無差別に食い破り、みんなで逃げまどう羽目になるのであった。
ヒーローもので大事なのは敵(ヴィラン)だと言われるが、本作を読んでいても、ヒーローよりもよっぽど悪役の方が貴重だなあと思う。
だからアメコミに出てくる魅力的な敵キャラは、なかなか死なないのだと、納得するのでありました。
