不良どもを打ちのめせ!『即席スーパーマン』「ドビンソン漂流記」/正義のヒーローごっこ⑧

藤子世界では、小学生を牛耳って偉そうにする中学生(高校生?)が時々登場する。中にはお金を要求してくるカツアゲタイプもいる。(これは以前記事にもしている)

非力な小学生を相手にするとは情けない限りだが、支配される小学生にはたまったものではない。ジャイアンのような小学生の中で権力を振りかざすガキ大将でも、さすがに成長期を終えた中学生には歯が立たない。

この手の暴力を振るう輩が目の前にいると、非力な少年たちは、「もし自分がスーパーマンだったら、こいつらを打ちのめしてやるのに」と思うものである。

おそらくは藤子F少年もそんな気持ちになったことがあるのだろう。そして、世の子供たちも同じことを考えているから、その気持ちを反映して、ヒーローになりたいと夢想するキャラクターが、藤子世界には多いのかもしれない。


本稿では、そんなスーパーマンになりたいと思う典型的な男の子のお話を取り上げたい。

「ドビンソン漂流記」『即席スーパーマン』
「こどもの光」1972年2月号

いきなり余談から始めるが、本作が描かれた1972年の上半期は、スーパーマンに関する作品が頻出している。

「ドビンソン漂流記」『即席スーパーマン』 1972年2月
『わが子スーパーマン』1972年3月
「ドラえもん」『スーパーダン』1972年5月

このように、短期間で複数の作品を横断しつつ、同様のテーマを取り上げることは結構ある。一つのネタから浮かび上がってくるお話を、色々な切り口で描く藤子先生の作家スタイルが見て取れよう。


「ドビンソン漂流記」はややマイナーな作品なので、詳細を知らない方も多いかと思う。そんな方は、まずは下記を読んでみて欲しい。



本作の冒頭、「ドビンソン漂流記」世界のジャイアンである源二が、学ラン姿の不良ども(中学生?高校生?)に言いがかりをつけられて、指先一本で倒されてしまう。

ガキ大将の源二を見せしめ的に打ちのめす様子を見ていたマサル(本作の主人公)たちに向かって、不良たちは「俺たちはいつも正しいのだ、文句あるか」と凄む。小学生相手に気張ってみっともない限りだが、マサルたちにとっては大迷惑だ。

マサルは「なんて酷い奴だ」と思い、自分がムキムキのスーパーマンになる姿を想像する。マサルが皆の制止を聞かず不良たちに立ち向かい、ボガッと一撃で吹っ飛ばしてしまうというもの。

すっかり空想の世界にハマりこんでいたマサルは、気が付けば一人で不良たちに囲まれている。そして「さてはなにか文句あるな」と因縁を吹っ掛けられて、ボコボコにされてしまう。


マサルは家に帰り、居候のドビンソンに対して「暴力団だよ!!」と不満をぶつける。そしてスーパーマンになる薬はないのかと尋ねてみると、「作ればいいんだよ、簡単だ」とあっさり答える。

ドビンソンは科学の進んだポッド星から地球に漂流してきた子供で、これまでにも未来を映すカメラや四次元をくぐることのできるチャックなど、ドラえもん顔負けのひみつ道具を作り出している。

なお、スーパーマンになる薬の原材料は
・アイスクリーム
・ケチャップ
・カズノコ
・インスタントラーメン
・トウガラシ

で、材料はだいたい身近なものだが、配合がとても重要であるらしい。

この薬を飲めば、骨格の硬度を高め、筋肉の収縮力を強め、皮膚を金属化させるのだという。要するにスーパーマンになることができるのだ。


原料から想像できるように、非常に不味いようだが、マサルが一口食べてみると、すぐに体に異変が起こる。

ムズムズ、ガクガク体が震え、ボンボボンと耳口鼻から蒸気のようなものが噴き出す。マサルの体の中で、とてつもないエネルギーが充満したようである。

パワーが湧き出て、「よォし、やるぞォ」とマサルが一歩踏み出すと、凄まじい猛ダッシュで走り出し、襖を突き破って廊下の先の壁にめり込んでしまう。どうやら想像以上の力が出るようである。


「悪者たちをボロボロにしてやるぞ」といきり立って、先ほどの空き地へと向かう。ところが不良三人組の姿はなく、みんなで平和に野球をしている。

「せっかくやっつけてやろうと思ったのに」と残念がっていると、源二が「俺より弱いくせに」と茶々を入れてくる。

そこでマサルは「まあ見てよ」と、空き地の土管を指一本でヒョイと持ち上げて、げんこつ一つで砕いてしまう。友人たちは「今までわざと弱いふりをしてたのか」と感嘆の声を上げる。


スーパーマンとなってみんなの英雄になることを夢想していたマサルは、実際に皆から褒められたので、気分を良くする。「いやあなにもそんな・・」と、(得意げに)謙遜して木に寄りかかると、その木がメリメリと倒れてしまう。

マサルは友人たちに「あの三人を探して、僕が相手になると伝えてくれないか」と告げると、同じように鬱憤の溜まっていた面々は、「あいつらをギュッと言わせてくれ」と言って、探しに向かう。


さて、戦う準備は万端。皆にちやほやされて気分も上がるマサル。するとそこへ、「大変だ」と声を上げてドビンソンが走ってくる。何と、薬の作り方を間違えたというのである。

強くなっているので問題なしな気がするが、そうではなくて、強くなりすぎたんだと言う。今の状態で喧嘩となれば、相手がバラバラになってしまうというのである。確かに先ほどは、土管を一撃で木っ端みじんにしていた。

ドビンソンは喧嘩は中止して逃げようと提案する。スーパーパワーを得ても、加減できないのでは、ヒーローではなくて悪役になってしまう。


ところが空き地を出る前に、皆が不良三人を連れて戻ってきてしまう。「あんたたちのこと大馬鹿野郎のウスノロのブタ男だって」などと、マサルが口にしていない悪口を添えたりしている。

激怒する三人は姿の見えないマサルをここに連れてこないと、お前たちをぶん殴ると脅して、マサルの捜索に向かわせる。土管の影に隠れていたマサルは、「出ていかないとみんながやられる」と危機感を露わにする。


そこでドビンソンが妙案をひねり出す。今回の薬の効果は30分なので、その効果が消えかかるタイミングであれば、ちょうどヤツらを倒すに丁度いい力が出るというのである。

薬の効果はあと15分ほど。ソワソワしながら待っている間に、マサルを見つけられなかった源二たちが捕まって、代わりにボコボコにされそうになる。

そして実際に殴られ始めるのだが、それを見たマサルは「もう待ってられない」と、不良たちの前に飛び出していく。薬が切れるまで後5分残っているが、この間は手を出さずに、防戦一方となる覚悟である。


マサルは5分間、殴られ蹴られでボロボロとなり、友人たちからも「てんで弱いんじゃない」とがっかりされる。するとドビンソンが「よぉし、今だっ」と声を上げる。5分間の忍耐タイムが過ぎたようである。

「もういいんだね!?」と傷ついた体で起き上がるマサル。「やるぞォ」と力を漲らせて、不良たちへと突っ込んでいき、一撃で3人ともを吹っ飛ばす。

「とてもかなわねえ、逃げろっ」と一目散に走り去っていく不良たち。一方のマサルは勝利宣言をするでもなく、「効き目が消えたぞ、逃げろっ」とドビンソンに促されて、不良たちと逆方向へと走り出す。


薬の効果が消えつつあるほんの一瞬だけ輝くスーパーマン。時間を調整する間は殴られ放題になったりして、少々割に合わないヒーローである。

ただマサルの偉いところは、勢いに任せて不良たちをバラバラにするようなことはしなかったし、友人たちがいたぶられているのを放置せずに、我が身を挺して助けに入っていた。

案外きちんとした正義の心を持つ、立派なヒーローだったのではないだろうか。




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