ラストマイルと室井慎次

「ラストマイル」2時間9分、「室井慎次 敗れざる者」1時間55分。

前者はテレビドラマの「アンナチュラル」「MIU404」と同じ世界線での連続爆破事件を描いたサスペンスドラマ。

後者は同じくテレビドラマ「踊る!大捜査線」から広がっていった踊るシリーズ、久々の最新作。

前者はTBS、後者はフジテレビが主体となって制作されている。

今年の映画界における注目の2大コンテンツであり、同じ事件ものであり、2作とも「組織と人」というテーマを含んだ作品でもある。

しかし、この共通点の多い二作を見て、全く異なる映画だなと感じたので、その点について記してみたい。


「ラストマイル」は興収50億を突破したという大ヒット作なので、既に見ている人も多いだろう。(なのである程度内容に踏み込みます)

Amazonを彷彿とさせる、巨大な物流倉庫から出庫されたと思しき荷物が、次々と爆発する事件が勃発する。

この手の事件ものでは、たいてい主人公は刑事だったり、検察だったり、探偵だったり、新聞記者だったりと、事件を捜査・調査する立場にある。もしくは、医療の立場や弁護士などから描くこともある。

しかし本作では、事件の舞台となった物流センターの管理人たちが主人公である。この手のサスペンスものの定番から離れた作品を作ろうという制作者の強い意志を感じるものである。

もちろん、2時間で完結させるという映画フォーマットだからこそできた技でもある。テレビなどの連続ドラマではこうはいかない。

私たちの世界は、Amazonに限らず、通販や宅配サービスを使わない人はほとんどいなくなっている。その点で、本作の舞台設定は私たちにとって、とても身近に感じるものである。

その上で、物流倉庫の内部はこうなっているのかという発見もあるし、国内の物流システムの脆弱さみたいなものも伺える。

7000人の派遣社員に対して、それを管理する社員は9名しかいないという設定が出てくるが、今の日本の労働環境を示すものである。

その意味で本作は非常に今日的であり、今語るべき映画、今見るべき映画になっているように思う。

また、本作は脚本も監督も女性である点に着目したい。元来、映画の世界は圧倒的に男性優位であり、現場で女性が活躍できるとしたら、「記録」くらいだったとされる。しかし、女性だからこそ描けるお話があるし、着眼点があるはずだ。

本作では至る所で、非常に女性的な演出が見て取れた。満島ひかりさんのいくつもの指輪を付けている部分だったり、とある母子家庭の描き方などは、男目線では辿り着けないものである。

また、演出が自信に満ち溢れていて、スピード感もあり、説明も冗長になりすぎず、かといって感傷的にもなりすぎない。

登場キャラクターは、ほぼ全員が二面性を持っているように描かれている。画一的な感じで登場しても、どこかでそれを裏切ってくる。よって、誰が犯人なのか、犯行の目的は何なのかが、ずっとモヤモヤしたまま進んでいく。

爆破シーンや、物流倉庫の大きさ、下請け業者の細部まで調べ上げ、きちんと描くべきところを描いており、とても覚悟のある作品のようにも感じた。

ともかくも、今年を代表するエンタメコンテンツであると言えよう。


さて一方の「室井慎次 敗れざる者」。こちらはまだ公開してすぐであり、どういう興行成績になっていくのかは、現段階ではわからない。

ただ、客層や混雑具合を見ていると、往年の「踊る」ファンが中心であり、それもかなりの割合で脱落しているようにも思えた。

内容はここではあまり触れないが、予告編等でもわかる範囲で書いてしまうと、警察を辞めた室井慎次が、秋田の田舎に引き込んで、里親となって子供を養育しているという設定となっている。

田舎でひっそりと暮らしていると、近くで腐乱死体が発見され、室井も事件に関わらざるを得なくなっていく。

本作は90年代後半~2000年代初頭で一世を風靡した「踊る」シリーズの久しぶりの新作となる。僕がエンタメコンテンツ業界を目指している時に大ブレイクしていて、こんな作品に関わりたいと思ったことを覚えている。

警察ものであり、事件解決を目指すお話ではあるが、それよりも警察という大組織における、組織人の葛藤に焦点を当てており、これが大当たりした要因であった。

インターネットを巧みに利用した宣伝手法が印象的で、ファンを囲い込んで世界観全体を愛されるように展開したり、一度の鑑賞では全てが理解しきれない程の情報を詰め込んで「考察」ブームを作り上げた。

今の日本のエンタメコンテンツのお手本となるような画期的なシリーズだったのだ。

しかし、制作者たちも年を取り、キャラクターを演じる俳優たちも年を取った。本作では、これは意図的ではあるのだが、非常に懐古的な作りになっていたし、これまでのような圧倒的なスピード感や情報量で攻める演出プランを採用していない。

本作は二部作の一本目ということで、今の踊るはこうなってますよ、という説明で終わってしまった印象を受ける。なので、次の作品で本領が発揮されるのだろうが、その点で盛り上がりに欠けたことは否めない。

二本目を見ればまた評価は変わる可能性があるが、現時点では、本作からは今日的な視点が見えてこなかったし、かつて踊るシリーズに期待し、その期待に応えてくれたエンタメ感が失われているように思う。


ラストマイルと室井慎次。今のところ、前者に軍配が上がる。ただ、繰り返すように、室井の方は前後編で一つの作品ということなので、後編を見た上で、もう一回評価していきたいと思う。


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