藤子ワールドに怪人初登場。「てぶくろてっちゃん」『怪人五十面相』/怪人千面相関連作②
「てぶくろてっちゃん」という作品をご存じだろうか? この藤子Fノートでも何回か記事にしているが、主人公のてっちゃんが、何でも作ることのできるてぶくろを使って色々な便利グッズを作り、友だちのようこちゃんと共に、毎回ひと騒動起こすというお話である。
講談社の学年別学習誌「たのしい一年生」~「たのしい三年生」まで学年繰り上がり形式で連載された人気作で、本作と「すすめロボケット」を対象に第8回小学館漫画賞を受賞している。
毎話、不思議な道具を使って事件を起こすことから、しばしば「ドラえもん」の原点というような言われ方をする。
僕としては「ドラえもん」の原点というよりは、「ドラえもん」も含めたその後の日常ギャグSFの原点という位置づけで考えている。というのも、本作で使われたモチーフが、その後全く同じような使われ方をするケースも多いからである。
例えば下記の記事。
これは、「ドラえもん」や「SF短編」などでよく使われる、体が誰かと入れ替わるネタを使ったお話。また下記では、
しばしば描かれる動物たちが知能を持ってしまって、人間に反乱するお話である。
このように、その後何度も使われるような大ネタが「てぶくろてっちゃん」に採用されていることが多い。その意味で、本作は藤子F漫画史において重要な作品なのである。
本稿では、「てぶくろてっちゃん」に登場した怪人千面相(=怪人五十面相)を見ていく。その後、変装の名人としてパーマンのライバルとなる千面相の、最初の登場となる作品である。
以前の記事でも書いたように、怪人千面相は、江戸川乱歩が生み出した怪人二十面相のパロディキャラ。藤子先生も「変装の名人」というキャラクター性を気に入っていたようで、その後幾度となく作品に登場させているが、その原点はやはり「てぶくろてっちゃん」なのであった。
「てぶくろてっちゃん」『怪人五十面相』
「たのしい三年生」1962年3月号
今回てっちゃんが作ったのは、映ったものが本物になるテレビ。例えばケーキのCMが流れれば、そのケーキを取り出すことができる。「ドラえもん」のテレビとりもちと同じ発想である。
ちなみに最近記事にした「とびだせミクロ」という作品でも似たようなテレビが登場している。この時と、物語の導入はよく似ている。
この不思議なテレビを見ていると、西部劇が始まり、カウボーイたちが画面から飛び出して部屋を散らかし回る。急ぎチャンネルを変えると、今度は世界一の大泥棒・怪人五十面相とその部下二人が映り、画面から部屋へと入ってきてしまう。
「持ち物みんなよこせ」とピストルを突き付けられ、文字通り身ぐるみを剥がされてしまうてっちゃんと、ようこちゃん。世界一の大泥棒を名乗っておきながら、子供の衣服を奪って悦に浸るのは、なんだかスケールの小さい感じがしないでもない。
なお、本作での怪人五十面相は、紳士然としたスーツ姿で口ひげを生やすおじさんという造形。その後パーマンに登場する千面相とよく似たキャラクターとなっている。ただし、この後判明する性格は、少し間抜けに描かれているようだ。

けんちゃんたちは服を着て、交番に知らせようと家を飛び出して行くが、お巡りさんも制服を奪われて助けを呼んでいる。これでは見込みがないということで、てっちゃんは自分が探偵になって事件を解決しようと考える。
少年探偵団VS変装の名人という江戸川乱歩の世界観のパロディとなっている。
さっそくてぶくろで「警察犬」を作る。五十面相の足跡を追わせると、急に猛烈に走り出し、道を歩くおばさんを吠え立て、驚かせる。失敗作だったのかと思い、警察犬を追い払うと、何とそのおばさんは五十面相の変装した姿であった。なぜおばさんに化けていたのかは不明・・。
てっちゃんとようこちゃんは五十面相に捕まり、アジトにしている空き家に連れて行かれる。留守番をしていた部下と合流し、てっちゃんたちを人質にして身代金を奪おうと考える。
さっそく部下に脅迫状を書かせると、身代金はたったの5円の要求。五十面相は5円でどうすると問い詰め、「百万円と書け」と命じる。震えながらに命令に従う部下。
ちなみに本作発表時1962年の物価を調べると、公務員の初任給が14,200円とのこと。さすがに5円では駄菓子しか買えないレベルであるが、100万円はかなりデカイ数字である。部下が恐れをなしてもおかしくはない。
脅迫状が仕上がると、速達で出しとけと部下二人に命じる。残った五十面相にてっちゃんは、警察に捕まるぞと注意するが、変装の名人だから捕まらないと豪語する。
実際に見せてやるということで、宿無し→警察官と変装して見せて、次にけんちゃんの姿に早変わり。小さい少年になれるというのは、どんなテクニックを使っているのだろうか。
そこへ部下二人が手紙を投函したと言って帰ってくる。「ご苦労」と出迎えたのがけんちゃん(に扮した五十面相)だったので、部下たちは逃げ出そうとしているのだと勘違いして、けんちゃんをボコボコにしてしまうのであった。

さてあくる日。身代金の受け取りに、今度は五十面相が一人で向かい、部下二人がけんちゃんたちの見張りを受け持つ。
待ち合わせ場所である公園のベンチに座って、金を待つ五十面相。ペンキを上から塗られたり、土砂降りにやられたりもしながら待ち続けるが、約束の3時を回っても誰も来ない。怒りに震える五十面相。
一方、けんちゃんたちのいるアジトでは、部下二人が眠ってしまい、脱出のチャンス到来。縄を噛み切って、こっそりと逃げ出そうとするのだが、そこへ五十面相が帰ってきてしまう。たまらず、地下室へと逃げこむ二人。
地下室は出口がないが、物置の中にあるガラクタを集めて、けんちゃんの不思議なてぶくろで、戦車を作る。それで追ってきた五十面相を下敷きにして、ついにお縄にしてしまうのであった。
これで五十面相らを捕まえ、探偵団の勝ち。そこへ郵便屋さんが訪ねてくる。なんと昨日部下たちが出してきた手紙には、宛名を書き忘れており、返ってきてしまったのだ。
なるほど、だから五十面相が延々とベンチに座っても身代金を持った人が来ないはずである。間抜けな部下を持ったのが五十面相の敗因と言えるのではないだろうか・・・。
と、ここで蛇足。
少し考えてみると、けんちゃんとようこちゃんは一日閉じ込められていたので、昨晩は家に帰っていないことになる。さぞかし両家の親は心配したろうに、と思う。それこそ誘拐されたのではないかと、捜索願いが出ていてもおかしくないだろうに。
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