自分が一番ゲイを差別している
ゲイフォビア(Gayphobia)とは、ゲイに対する嫌悪感を指す言葉だ。
通常は他者からゲイの当事者に対して向けられる嫌悪感を指すが、ゲイである私が自分自身に対して向けてきたものでもあった。
自分の心の中のゲイフォビアをはっきりと認識したのは、20代後半に初めて男性と性的な関係を持ったときだった。
当時は、自分の性的指向が“普通”の異性愛者とは違うと気が付き始めていたものの、自分がゲイだという事実を完全には受け入れられていなかった。
それでも男性への性的興味は抑えられなくて、アプリで知り合った男性と初めて関係を持った。
行為の最中は性的な興奮で頭が一杯だったが、行為が終わった後、いわゆる賢者モードになった瞬間に、言いようのない自己嫌悪の気持ちに襲われた。
とても不道徳で後ろめたくて汚らわしいことをしているような、後戻りできない道に足を踏み入れてしまったような感覚だった。なんなら少し後悔していたと思う。
今思い返すと、それまで浴びてきた他者からの言葉や視線、それらを反映して自分の中で育ってしまったゲイに対する潜在的な差別意識、自分がゲイであると認めることへの恐怖心が、自分自身に対する嫌悪感という形で現れていたのだと思う。
昔、私がこの嫌悪感を他者に向けてしまったことがあった。
それは、私が大学生の時に初めてゲイの人に出会ったときのことだ。
私の大学ではゼミ活動が活発だったのだが、ある時他大学のゼミと合同で研究発表する機会があった。泊まり込みで議論して最後にプレゼンを行うというものだ。
その時に出会ったのがY君だった。
彼はコミュニケーション能力が高くて、よく喋る活発な人だった。
会議室に集まって皆で夜通し議論を重ねる中、隣に座った彼が小さい声で「デカいって言われない?」と私に尋ねてきた。
最初は何のことだか分からなかったのだが、私の股間を指していることが分かった。その時、私はふんわりとした麻素材の短パンを履いていて、ちょうど股間の膨らみがソフトボールくらいの大きさになっており、そのことを言っているのだと気が付いた。
いや、服の素材のせいだよ・・・と思いながら、なんとリアクションしたらいいか分からず「い、いや・・・」と返事にならない返事をして、特にそれ以上会話は続かず、何もなかったように皆との議論に戻った。
翌日無事に最終プレゼンを終えて打ち上げをしていた時、彼はみんなの前で堂々と「俺ゲイなんだよね。彼氏欲しい~」と話していた。
私は初めて出会うゲイの人に少しだけびっくりしたが、彼のいわゆる「オネエ言葉」のような話し方や昨晩の件のせいで、逆に納得したような気持ちだった。
後日、打ち上げに参加できなかった同じ大学のゼミの友人と話していたとき、「Y君ってゲイなんだって(笑)」と何気なく言ってしまった。
今思うと、Y君のセクシュアリティを他人に話して笑いのネタとして消費するのは、本当に失礼で最低な行為だった。
その時の私はちょうど同性に対する好意を意識し始めていて、自分の気持ちを認められずに「自分は“普通”の異性愛者だ」と思い込もうとしていた時期だった。
同性に対する自分の気持ちは決して他者に知られてはならない、という恐怖心も抱えていた。
だから、Y君をゲイのステレオタイプに当てはめて納得した気になって嘲笑して、「自分はそれとは違う」と他者に言いたかったし自分にも思い込ませたかったのだと思う。
今の自分は「ゲイに生まれてよかった」とまでは言えないが、ゲイである自分は受け入れているし、それに紐づく経験や感情も自分の大切な一部として認識できるようになったと思う。
もし自分自身や他者に嫌悪感の刃を向けて傷つけてしまっている人がいたら、まずはその刃がどうやって形成されたか、過去の経験や自分自身の感情を紐解いてほしいし、もし過去に戻れるなら当時の自分にそう伝えてあげたい。
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