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【小説】山の中(第4話)

■■■小説のあらすじ■■■
羽住 隆志(はずみ たかし)52才。山の中で、雪が覆った川に落ちたところ、村人に助けられた。目が覚めると古い家の布団で寝ていた。その家には囲炉裏があり、古い着物を着た男性3人が座っていた。年配の男性が言うには「今は昭和28年だ」。
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後日に聞いた話ですと、その時は「気味が悪いスケ、縛り付けて警察に言うか。」と家族で話し合ったそうでした。 

私を助けてくれたのは、大山一家の父親と長男、次男の三人でした。とりあえず家に連れてきたものの、これからどうするか、となりにある本家に父親が相談すると「警察になんて言って面倒になったら困るスケ、ちっと置いてやって、元気になったらおっぽり出せばいいコッテ。」と言われたのだそうです。

そういえば、私が来ていた服。しばらく経ってからですが、どこへやったのか聞いたら、誰もが分からないと言うのです。

私を助けてくれた若い男性は大山家の長男で、名前は守男さんといって、家族からは「アニ」とか「モル」と呼ばれていました。私は親しみをこめて、自分の子供のような年齢の彼を「モルさん」と呼びました。ちなみに、私に子供はありません。雪の穴から助けてもらったとき、自分が何を着ていたか、モルさんに尋ねました。
「さあて、何を着ていたっけなあ。思い出せねえなあ。」
「ナイロンの…。あ、いや、なんかガサガサ、ツルツルした、変な服を着ていませんでしたか。」
「いや、服のことなんて覚えてねえなあ。」
「僕の服は、誰が脱がしてくれたんですか。濡れてたから、脱がして、布団に寝せてくれたんですよね。」
「あれっ、濡れてたかな。俺が脱がしたんだけど。」
「濡れていましたでしょう、水は少なかったですけど、川に落ちたんですから。寒かったですし。」
「うーん、濡れていたかな。脱がしたガは濡れていたっていうより、寝るときには着物は脱ぐもんだスケな。でも、どうだっけ、覚えてねえなあ。」

モルさんの父親にも聞きました。後々に知ったことですが、五十三才とのことで、自分よりたった一才しか変わらないことに驚きました。最初に会った時には自分よりはるかに年上だと思いました。令和の時代に、彼が生きていたら七十過ぎに見えると思いました。
父親は「ツァー」と呼ばれていましたが、私がそう呼ぶのはどうかと思い、名前で「平蔵さん」と呼びました。
私を雪の中から助けてくれたとき、私が何を着ていたか、平蔵さんにも尋ねました。
「覚えてねえなあ。どうだったっけなあ。」
「なにか覚えていませんか。あっ、靴とか。なんか黒い、ゴワっとしていたのを履いていたでしょう。」
ゴアテックスのブーツを履いていたはずです。その日は、午後から雨の予報でしたから。ただ、雪に上がったのも、ゴアテックスのブーツだから上がれると過信したので、スニーカーを履いていたなら、こんな目に合わなかったのかもしれません。
「履いていたものなんて、あったか。スッペじゃなかったか。」
スッペとは、ワラの長靴のことです。
「まさか。そんなはずがないですよ。」
「うーん、なんか履いていたガアろ。覚えてねえ。カッカに聞いてくれ。」

カッカとは平蔵さんの妻、トメさんのことです。私と同じ年齢でしたが、やはり七十くらいに見えました。
「オラあ、見てねえスケ、分かんねえ。ツァーに聞いてくれ。」
「平蔵さんが、トメさんに聞いてくれと言うのですが。」
「オラあ、なんか着物を貸してやってくれと、ツァーに言われたスケ出しただけだ。分かんねえ。」

私は、身に付けていた物の一式を見つけることを諦めました。でも、雪の中に落ちた時、確かに私は、令和五年に着ていた服を、そのまま着ていたのではないかと思いました。私が助かったのは、ゴアテックスの防水機能があるジャケットだったからではないか。だから、モルさんは「おまえ、雪の中に落ちて、よく死まなかったな。」と言うのです。

「雪の中に落ちたら、大体、死んじゃうもんですか。」
「いや、落ちることなんてねえスケ、分かんねえ。」
「落ちたことがある人って、聞いたことがないですか。」
「落ちねえよ。だって、アッケントコに行く人なんていねえんガ。大体、なんでアッケントコに行ったガダ。」
「ええと、なんでなんだろう。なんとなく、行ってみたいと思ったんですよ、としか言いようがないな。」
モルさんは「変な奴だなあ。」と言って、それ以上は聞いてきませんでした。

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