Photo by
cassetteboy
哀愁の燻製 ②
どんな言葉であれ彼女の口から吐きだされただけで煙たく感じられた。
「ねえ桜チップの燻製を作りましょうよ。材料と道具も全部用意してあるわ。だから飲み物をお願いしてもいいかしら。あたしはビールがいいわ。瓶入りのやつ。栓抜きを忘れないでね。お母様そっくりね。私もよく言われるの。不思議よね」
少女のようにはしゃぐ継母の声音に苦笑いがこみあげる。燻製に罪はない。
「その外国産の土鍋には鉛が混入していませんか。ニュースで話題になっていましたよ。ご存知ないのですね」
鍋に罪はない。
あのときもっと別の態度をとっていたら、今の何かが違っていたのだろうか。もう遅い。あの人はもういない。記憶の底から拾いあげるどんな素材も燻されて褐色に染まってしまう。半開きの唇の隙間から漏れいでて立ち昇るスモーキーな私怨紫炎煙草のフレイヴァーは、あたかも最後のキスのように。
初めて愛した人は父の愛人でした。
よくある話ですよ。
ヒカル?
よくある名前ですね。
410字
こちらの裏お題に参加しています。
