見出し画像

抹殺みかん ①

「本当にいいのですか?」
念を押してくる。
「はい、あの日は二人とも酔っぱらっていて、炬燵蜜柑の皮を剥いた勢いの果汁が運悪く目に入ってしまったようなものなのです」
わたしは用意していた台詞を忘れてみかんに責任転嫁した。女医がコホンと咳払いをすると『出産手当の申請をお忘れなく』『三人目からは大学まで無償』の文字が脈絡なくモニターに浮かぶ。
「話変わりますけど、私の元彼が蜜柑農家なんですよ。子どもが独立して使わなくなったファミリーカーを誰かに譲りたいそうです。おたくにピッタリでは?」
車? いざとなれば住むにも逃げるにもいい予感?
「何人乗りですか?」
思わず身を乗り出す。
「最大で10人です」
それならうちはいま9人家族だ。どうしたものか? お腹を抱えるときゅうっと身体の奥が。動いた!

「やめておきます」
女医はかすかに微笑んだ。そして、みかんのシールを貼ったデリケートキーを押して、あたしの内部の未完成児抹殺計画を中止したのだった。

410字

こちらに参加しています。

いいなと思ったら応援しよう!