掌編 月夜の空に
蒸し暑い夏の夜、彼女――花岡香恋は布団から足を出して扇風機の風を探している。
田舎の夜は思ったよりも暗い。
東京であればうっすらとどこかが明るい空も、星の光だけが自分を照らしているように見えた。
蝉の鳴き声が聞こえる。
普段ならうるさいと思うが、閑かすぎる田舎ではむしろ耳に心地が良かった。
庭に面したふすまがノックされる。誰だ?と思っているうちにスッと開いた。昼間に紹介された友人――月影静佳の幼なじみである、片岡信二というヤンキーみのあるちゃらい男がそこにいる。
「何しに来たの?」
香恋は嫌な顔をして、彼を睨んだ。
「肝試ししようぜ」
ニヤニヤとしながら言う。
「ええスポットがあるんや」
茶色い髪の毛の、だらしない表情の男。初めて紹介された時から嫌な印象しか無い。静佳のことを馬鹿にした態度を取るのも気に食わなかった。おまけに自分の胸ばかり見ている。正直気持ち悪かった。
「興味ないんだけど、肝試しなんて。ダサくない?」
香恋が言うと、彼は目を細める。
「へぇ、気ぃ強そうに見えて怖いんや」
「は?」
何を言っているのだ、この男は。
「お化けが怖いんやろ?」
単純な煽りだが、ムカッとくる。なんなんだ。
「怖いわけ無いでしょ。なんなの?」
「怖くないんなら行こうや。なんかあったら守ったるさかい」
「あんたに守られる筋合い無いわよ」
中学生女子空手では全国大会を制覇したこの身である。空手だけでは無く、彼女はケンカも経験していた。学校では優等生で通っているため内緒ではあるが。
「なあ行こうや。怖ないんやろ?どうせ寝られんのと違うか?」
確かに眠れない。時間を潰すにも田舎だからここには何も無さそうだし、本を読むにも人の家で夜中に一人明かりをともして・・・・・・というのも申し訳ない気がする。別に夜道で出かけたとしても、こんな軟弱なヤンキーにやられる香恋さまでは無い。
「分かった。行こうじゃ無いの、肝試しとやらに」
香恋はさっとパジャマから着替えて、貴重品だけ持って部屋を出る。やけに片岡がにやけているのが気に食わなかった。
「どこまで行くの?」
香恋が眉をひそめながら片岡に尋ねる。鬱蒼とした田舎道をたどりどんどん山の奥へと入っていく。
彼女が尋ねると、片岡は
「なあ、香恋ちゃんは彼氏とおるん?」と尋ねてきた。
「彼氏?いないけど」
「そんな可愛いのにもったいない」
どんどん民家の無い場所へ向かう。時間はまだ22時くらいだが、深夜のような空気感だった。これが田舎というものなのか。
「別にもったいなくないわ。男には興味ないし」
「うわ、静佳がかわいそうや。もう一人の男も」
「なんで?」
静佳も、もう一人の男――同級生の朝日野のことだ。も、友人である。朝日野譲治は端正で目立つ外見なので人目を引き、香恋とは学校でも「付き合っているんじゃ無いか」と噂されることが多かった。
とはいえそこにはいつも月影静佳の存在があり、三人はいつも一緒だ。付き合っているとか、香恋が二人を常に引き連れているとか、いろいろ陰で言われていることは知っていたが、そんなことには興味が無い。
二人ともガチの親友だから。
「あいつらは友達だから」
彼女が言うと、片岡は嬉しそうに彼女を見た。
「そんならオレにもチャンスがありそうやな」
「チャンスって?」
「香恋ちゃんの彼氏になるチャンスや」
「無いわよ」
気づけば山道にいる。
「そう言えば心霊スポットってどこなのよ。本当にあるの?騙したんじゃないでしょうね」
疑いつつ言うと、片岡が「もうすぐや」と言った。
「さ、着いたで」
彼が言い、ボロボロの元民家のようなところを指す。確かに何かいそうだが、別に香恋には霊感も無ければ幽霊がいたとて怖いものなどない。
「何か感じひんか?」
「なにも?」
何も感じない。だが、何かはいる。
「幽霊じゃない、何かいる!」
「え?ちょっと、香恋ちゃん?どこにいくの?」
怖がってすがりついてくるとでも思ったのだろう。片岡は香恋の肩を抱こうとしてかわされる。彼女は家の中に入り込み、中を探った。
窓からうっすらと人が揺れるような陰が見える。これは・・・・・・
「片岡さん」
香恋が彼を呼び、彼は走り込んできた。
「やっと名前を呼んでくれたな」
片岡が嬉しそうに言った。
「ここ、幽霊はいないけど、死体がある」
「へ?」
香恋が指さした先――天井の梁にゆらゆらと男のようなものが揺れている。
片岡はそれを見てへなへなと腰砕けになり、彼女は揺れているもの
――――首つり死体を見ていた。
<1810文字>
締め切り1時間前に見たこの企画、10分ほど間に合いませんでした。残念。
創作はその時思いついたことや、良い曲を聴いた心の動き、今書いているものの派生でサクッと書くことが多いです。
テーマがある時はそのテーマについて考えて考えて、ひらめいたことを書きます。日常のニュースや炎上事件、身近な問いなど(人のトラブルで自分ならどうする?と思った時など)を頭の中で発展させて書くことが多いでしょうか。
間に合わないとはいえせっかく書き上げたので、しれっとアップします。
面白い企画をありがとうございました!
