太平洋クロマグロの資源管理の背後にある深い闇!                   

 2015年から日本で実施された太平洋クロマグロの漁獲規制は、沿岸零細漁業者に甚大な被害を及ぼしました。これに対して、恐らく多くの方が、「日本の漁業事情に疎い、資源保護を重視するマグロ類の国際管理機関であるWCPFCが、資源保護をあまりにも重視し過ぎた結果、日本に対して、極めて理不尽な漁獲規制を強要したことが原因ではないか」と思われるのではないでしょうか?  しかし、WCPFC内で、そのような理不尽な漁獲規制を主導していたのは、「なんと、日本の水産庁だった!」と言うことを知れば、きっと、驚かれるに違ないと思います。  しかも、「実施された漁獲規制は、科学的にも明らかに誤ったもの」でもありました。水産庁は、あえてなぜそのような理不尽で、非科学的な漁獲規制を実施したのか? その深い闇について解説するのが、この記事の目的です。

 なお、本記事は、私が2024年10月16日に水産庁長官に送付した公開質問状に対する水産庁の審議官からの回答(2025年3月10日)を読んで感じたことを記したものです。この記事は、水産庁長官と回答を頂いた審議官にも送付させて頂く予定ですが、もし、私の推論のもととなる事実関係に誤り等があれば、誤りであることを示す証拠をお示し頂いた上で、その誤りをご指摘いただきければと思っております。何も返信がなければ、少なくとも私の推論のもととなる事実関係に関しては、間違いがないことをお認めいただいたものと判断致します。

1.背景

 太平洋クロマグロを含め、太平洋の中西部に分布するマグロ類やカツオ類などは、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)という国際管理機関で、資源管理が実施されています。太平洋クロマグロの親魚量は、2010年に観測史上(1952年以降)2番目に低い水準まで低下していることが明らかとなり、資源の保護と回復は「待ったなし!」の状況になりました。

 WCPFCは、2015年から、漁獲量の上限(TACという)を設定し、漁獲量を規制することにより、資源の回復を計るという漁獲規制を実施しました。漁獲規制の主な内容は、「小型魚(0-3歳魚)の漁獲量を2002-2004年の平均漁獲量の50%に削減する」というものでした。

 しかし、上記の漁獲規制には、3つの不明な点が存在していました。それは、①なぜ、小型魚のみを規制するのか?(大型魚は現状維持で漁獲量の削減はない)、② なぜ、小型魚の平均漁獲量を50%も削減する必要があるのか?  ③ なぜ、2002-2004年を基準としてTACを計算するのか? という3点です。

 「なぜ、このような漁獲規制を実施したのか? 科学的な根拠を説明してほしい」という公開質問状 [1] を水産庁に提出しましたが、その回答は、付録にあるように、「WCPFC北小委員会で議論して決めたことである」という返事を繰り返すばかりで、水産庁には、漁獲規制の科学的な根拠を説明しようという気は全くないようでした。

 同様に、「WCPFC北小委員会で、このような漁獲規制を提案したのは、日本ではないのか?」という質問(公開質問状 [1] の(1))に対しても、その回答は、付録にあるように、「Yes」でも「No」でもなく、この質問に関しては、全く「だんまり」を決め込んでいました。「この漁獲規制は、資源管理を確実なものとするために、日本が提案したものである!」と胸を張って言えばいいと思うのですが、そう言わない理由は、いったい何なのでしょうか? 何か後ろめたいことでもあるのでしょうか? 

 実際には、第5節で述べるように、この漁獲規制は日本(水産庁)が提案したものですから、提案した以上、提案者である水産庁は、その妥当性ついて、日本国民に対して説明する義務があると思いますが、いかがでしょうか? 以下は、2014年9月に開催されたWCPFC第10回北小委員会の議事録 [2] の8ページに記載されている、上記に関連する部分を抜粋したものです。

「日本政府は、ISC(北太平洋まぐろ類国際科学委員会)の最新の勧告に対応し、2015年から小型魚の漁獲量を50%削減することを決定しました。この計画では、まき網漁業に2000トン、その他の漁業に2007トンを割り当てています」。

 日本の提案に対しては、当然、「WCPFC北小委員会においても議論され、その結果、合意に至った」と言うことは事実だと思いますが、「こんなバカげた提案をしたのが、紛れもなく日本であった」という事実は、極めて重要だと私は思います。

 4007トンという数字が出てきた根拠は、2002-2004年の小型魚の平均漁獲量8015トンを50%削減すると、4007トンになるからです。なぜ、日本は管理を実施する10年も前の2002-2004年の小型魚の平均漁獲量をベースにTACを計算するという提案をしたのか? その科学的根拠についても、公開質問状 [1] で質問していますが、付録にあるように、「WCPFC北小委員会で議論して決めたことである」と、壊れたテープレコーダーのように繰り返すばかりで、水産庁は、2002-2004年を基準年とした科学的な根拠を説明しようとはしません。

 WCPFCが関与できるのは、国別のTACそのものの値であり、国別のTACをそれぞれの国内で、どのように漁業種類別に配分するかについてはそれぞれの国に任されており、WCPFCがそれに言及する権限はありません。それにも関わらず、なぜ、日本はわざわざ「まき網漁業に2000トン、その他の漁業に2007トンを割り当てる」ということまで、WCPFC北小委員会で提案したのか?とても不思議です。

 おそらく、それは、「日本の小型魚のTACは、2002年-2004年の小型魚の平均漁獲量を50%削減し、4007トンとすること」、また、「まき網漁業に2000トン、その他の漁業に2007トンを割り当てること」は、WCPFC北小委員会で議論して決まったことである、というストーリーにしたかったからではないか、と思います。

  「これはWCPFCで決まったことであり、水産庁が決めたことではない」ということにしておけば、「国内でこの決定に対して批判が出た場合でも、WCPFCに責任が転嫁できる」と考えたからではないか? と私は思っています。

 事実、付録に示した公開質問状 [1] の回答をみればわかるように、何を質問しても、どのような批判に対しても、十羽一絡げにして、「それは、WCPFC北小委員会で議論して決めたことである」という回答で逃げてしまい、水産庁が提案したことには全く触れようともせず、まるで「水産庁は関係ありません」と言わんばかりの態度からもそのことがわかります。また、WCPFC北小委員会の議事録 [1]には、日本が下記のような説明を行ったことも記載されています。

「ひき縄漁業は全国各地で小さな漁船(乗組員1-2名)によって実施されています。現在、20,000隻以上の船が認可されています。沿岸の定置網漁業も全国で行われており、許可の数は約1800件に固定されています。」

 なぜ、こんなことまで、WCPFC北小委員会で説明したのかは不明です。きっと、「日本で管理を実施するのは、こんなにも大変なんですよ」ということをアピールしたかったからではないかと思います。

 しかし、ひき縄漁業だけでも2万隻以上あるのであれば、「その他の漁業に2007トンを割り当てる」という漁獲規制を実施した場合、その半分をひき縄漁業に配分したとしても、一隻当たりの配分枠は、0.05トン以下、わずか年間50キログラム以下の配分ということになります。この程度の漁獲量で生計を立てるのは、無理であることは明白でしょう。

 むしろ、水産庁は、「つぶれる零細漁業者はつぶしていく」という方針だったのではないか! 「つぶれる零細漁業者が多ければ多いほど、結果として、より多くの枠を大中型まき網漁業に配分することができる」と考えていたのではないか、と私は推測しています。

 そのことを裏づけるような事例として、樫原 [5] に以下のような記述があります。「むしろ、2000トンという過大な枠を与えられていたからこそ、大中型まき網漁業は小型魚を養殖業者むけに活魚で採捕して1キロ当たり数千円という高い値段で販売するビジネスを拡大できたのです」。

   「水産庁が集計したクロマグロ養殖場への天然種苗の出荷量を見ると、2012年にわずか3万尾だった大中型まき網による供給量は2022年28万尾へと増えました。10年間で何と9倍も増えているのです」。

  「一方、養殖漁業向け種苗の伝統的供給者であったひき縄漁業者からの供給量は同じ時期に16万尾から11万尾弱に減っています。沿岸漁業者のマーケットは漁獲規制の結果、まき網漁業に奪われていったことがハッキリと表れています」。

2.なぜ、2002-2004年を基準年として、TACを計算したのか?

 既に述べたように、「なぜ、2002-2004年を基準年として、TACを計算したのか?」についても、水産庁に公開質問状を出していますが、その回答は、「WCPFC北小委員会で議論して決まったことである(付録)」といういつもの逃げ口上で、水産庁は、明確な説明をしようとはしません。まるで、「WCPFCが決めたことで、水産庁は関係ありません」と言わんばかりの態度です。

 しかし、実際、このような提案をしたのは日本(水産庁)であったことを考えると、「TAC決定の基準年として、2002-2004年という期間を提案したのは、大中型まき網漁業が有利になるように、水産庁が画策したからではないか?」という疑念を、どうしても持ってしまいます。そのような疑念を持ってしまう根拠を、実際の漁獲データを用いて示すことにします。

 2015年から漁獲規制を実施する場合、それをWCPFCの会議で決めるのは2014年ですから、普通であれば、その直近の3年間である2011-2013年までの平均漁獲量を使ってTACを決めるということになります。もし、10年も前の2002-2004年を基準年としてTACを決定するのであれば、なぜ、10年も前の期間を用いるのか? そうすべきであるという科学的根拠を北小委員会に提示して、委員の皆さんに納得してもらというプロセスが必要になるはずです。

 繰り返しになりますが、「なぜ、10年も前の2002-2004年を基準年としてTACを決定することを提案したのか?」、水産庁は、その科学的根拠を明らかにすべきでしょう。「これは、WCPFCで議論して決めたことですから」という、いつもの「言い逃れ」は通用しないと思います。

 表1は、基準年として2002-2004年を用いた場合と、基準年として2011-2013年を用いた場合で、平均漁獲量がどの程度変わるかを、大型まき網漁業と、それと対比するための1例として、沿岸の定置網漁業を比較して、試算してみたものです。

 表1を見ると、基準年として2002-2004年を用いないで、2011-2013年を用いた場合は、大中型まき網漁業の大型魚の平均漁獲量は約半分に、大中型まき網漁業の小型魚の平均漁獲量は、35%減少することがわかります。

 反対に、定置網漁業の大型魚の平均漁獲量は3.5倍に激増し、定置網漁業の小型魚の平均漁獲量も、37%増大することがわかります。TACを国内で漁業種類別に配分する時、基準年として2002-2004年を用いた場合の方が、大中型まき網漁業にとっては、はるかに有利になることがわかります。基準年として2002-2004年を用いた目的は、大中型まき網漁業を優遇するためであったことは、表1を見れば明らかだと思います。

3.なぜ、小型魚を2002-2004年の平均漁獲量の50%も削減する必要があったのか?

 「なぜ、水産庁は、小型魚の漁獲量を50%も削減するという無謀な提案をWCPFCで行ったのか? その科学的根拠を示してください」という質問に対しても、付録に示したように、水産庁からの回答は、「ISCで行われたいろいろなシミュレーション結果をもとに、WCPFC北小委員会における関係国間の交渉により決めたことである」と、自分たちが提案したという事実には全く触れようともせず、質問から逃げてしまっています。兎に角、水産庁は、「負担の公平性などは眼中になく、資源回復を大義名分として、零細漁業つぶしを画策した」というのが、真相ではないか、と私は思っています。

 いずれにしろ、この保存管理措置は、科学的にも誤ったものです。少し長くなりますが、重要なポイントでもあるので、再度、ここでも説明しておくことにします。

 「小型魚のTACを2002-2004年の平均漁獲量の50%に削減する」という漁獲規制を「管理措置1」と呼ぶことにします。「管理措置1」は、2014年(平成26年)に日本が提案し、WCPFCで採択されたものですが、同時に、日本は「太平洋クロマグロを漁獲する北緯20度以北の海域での漁船による総漁獲努力量は、2002〜2004年の年平均レベルを超えないようにすること」という漁獲規制も提案しています。これを「管理措置2」と呼ぶことにします。

 漁獲努力量とは、漁獲をするために投下した努力量のことで、例えば、「漁船の数×操業日数」を漁船規模別に集計するなどの方法で計算することができます。

 まず最初に、「この管理措置2が、全く誤っている」ということを示します。なぜ、誤っていると言えるのかを一言で言うと、「漁獲量がかなり少なかった2002-2004年の漁獲努力量は、全体的に漁獲量が多かった1994年以降の漁獲努力量とほとんど変わっていなかったから」です[1]。そのことを次に説明します。

 図1は、太平洋クロマグロの漁獲尾数の推移を示したものです[3]。図1を見ると、特に、0歳魚の漁獲尾数が全漁獲尾数に占める割合が大きく、その変動の幅も、100万尾から500万尾ぐらいと極めて大きいことがわかります。それに対して、1歳以上の漁獲尾数は、それほど大きくは変動していないことがわかります。

 この漁獲尾数の大きな変動を見て、その原因が「漁獲努力量が大きく変動したからだ」と思う人は、あまりいないと思います。こんなに毎年、毎年大きく漁獲努力量が変動すると考えるのは無理があるからです。これは、「漁獲努力量が大きく変動したから」と考えるよりは、「資源尾数(特に、0歳魚の)が大きく変動したから」と考える方が、はるかに合理的です。

 図1には2つの期間、1994-2012年と、2002-2004年が書き入れられています。1994-2012年の漁獲尾数に比べると、2002-2004年の漁獲尾数は、特に、2002年と2003年でかなり低くなっていることがわかります。その原因は、「漁獲努力量が変化したから」と考えるよりは、「資源尾数(特に、0歳魚の)が大きく変動したから」と考える方が、はるかに合理的であると言うことは既に述べた通りです。

 しかし、なんと水産庁は、「1994年以降に比べて、2002-2004年の漁獲量が少なかったのは、その期間の漁獲努力量が少なかったからである」と考え、その考え方をもとに、「2015年以降の漁獲努力量は、(低かった)2002-2004年の漁獲努力量レベルを超えないようにするべきである」と提案したわけです(管理措置2)。この考え方が、間違っていることは、上記の議論から明らかだと思いますが、念のため、さらにデータを用いて説明することにします。

図1 太平洋クロマグロの小型魚の漁獲尾数.  1994-2012年は450万尾前後を推移していたが、2002-2004年は300万尾前後を推移し、かなり低かった(WCPFC 2024 [3] を改変)。

 図2は2002-2004年の漁獲係数の平均値と1994-2012年の漁獲係数の平均値を比較したものです。漁獲係数とは漁獲の強さを示す指標ですが、漁獲係数は漁獲努力量に比例しますから、漁獲努力量の代わりに、漁獲係数を用いて議論しても、以下に述べる結論は変わりません。

 ここで、1994-2012年の漁獲係数を用いた理由は、私が持ち合わせている漁獲係数の数値データが、2012年までしかなかったからです。公開質問状でもお願いしましたが、水産庁は基本的なデータが、誰でも簡単にアクセスできるよう、公開すべきだと思います。ただし、公開してしまうと、私のように水産庁の間違いを指摘する人が増えて、水産庁は困ることになるかも知れませんが・・・。

 図2を見ると、2002-2004年の漁獲係数と1994-2012年の漁獲係数は、どの年齢においても、ほとんど同じであったことがわかります。このことから、2002年-2004年の漁獲努力量と1994年-2012年の漁獲努力量は、どの年齢においても、ほとんど同じであったことがわかります。

図2 1994-2012年の漁獲係数の平均値(青)と2002-2004年の漁獲係数の平均値(赤)の比較.

 「管理措置2」は、2015年以降の管理措置として、「北緯20度以北の海域での漁船による漁獲努力量を2002-2004年水準を超えないようにする」という内容になっていますが、図2を見れば一目瞭然ですね。この「保理措置2は全く科学的に意味がない」ことがわかります。なぜなら、両期間で、漁獲努力量はほとんど変わっていないのですから・・・。

 水産庁の資源研究者は、なぜ、こんな間違った提案をしてしまったのかということですが、それは、公開質問状 [1] の質問事項2で質問しているように、水産庁の資源研究者が(WCPFCの資源研究者も同じですが)、「誤ったMSY理論に基づいて、漁獲量の変動を理解しているから」ということになります。詳しくは、公開質問状 [1] をご覧いただきたいと思います。

  「管理措置1」は、「小型魚のTACは2002-2004年の平均漁獲量を50%削減したものにする」というものですが、ここで注意しなければならないことは、既に述べたように、「2002-2004年の小型魚の漁獲量水準が低かったのは、漁獲努力量が低かったからではなく、資源水準(特に、0歳魚の)が低かったことが原因である」ということです。

  「管理措置1」は、漁獲努力量が低かったことによって、2002-2004年の小型魚の漁獲量が少なかったのではなく、資源量(特に、0歳魚)が少なかったために、漁獲量が少なかったにも関わらず、その少なかった小型魚の漁獲量を、さらに、50%削減しようとしている訳ですから、これはもう、「狂気の沙汰」としか言いようがありません。

 0歳魚の資源量は年によって大きく変動します。年によって数分の1から数倍程度になることも、決して珍らしくはありません。図1を見ればわかるように、それにともなって、0歳魚の漁獲量も年によって大きく変動するわけです。しかし、資源量が少なかった時の小型魚の漁獲量を50%も削減して、TACを4007トンに固定してしまうと、小型魚の資源量が2002-2004年当時の2-3倍に増加した場合には、資源に対する漁獲の割合は、2002-2004年の時の半分(50%)どころか、4分の1から6分の1程度まで減少してしまうことになります。実際、0歳から3歳魚の実質的な削減率は、3分の1から7分の1程度まで、削減されてしまっていることが明らかにされています(公開質問状 [1] に詳しい説明があります)。

 つまり、自然的な要因により資源量が増減し、その結果として漁獲量も増減するということを、水産庁の資源研究者は、全く理解することができていないために、「このような滅茶苦茶なことを平気でしてしまう」ということになるわけです。

 如何に「滅茶苦茶で過酷な漁獲量削減であったか」を証明する多くの事例が報告されています。TACによって漁獲できる上限が決められている訳ですから、それ以上の魚が定置網等に入っても、漁獲することはできず、放流しなければなりません。

 樫原氏は以下のような例を報告しています。「例えば、2018年に36トンの枠しか持たなかった岩手県は漁獲量を20トンに抑えることに成功していますが、この年、同県内の定置網漁業者は約18万尾、1746トンものマグロを海に放流したという記録を県が残しています。これではマグロ漁業というよりまぐろ放流業で、漁業としての生産性は著しく低下しています [4]」。

 36トンあった漁獲枠を20トンに抑えてしまった理由は、特に、定置網では、漁獲量が突発的に大きくなってしまうことがあり、枠を超過することを県が極端に恐れたからだと私は思います。それほど、水産庁の締め付けが厳しかったと言うことでもあります。

 「また、現在の漁業制度のもとでは、1本のマグロを出荷するのに20本のクロマグロを海に戻しているという漁業者も大勢います」。「年間2千トン、3千トン規模で定置網にかかったクロマグロを逃がしている漁協もあります」[5]。

  「その放流の状況を漁業者は報告しているのに、受け取った水産庁は集計も分析も行っていません。漁業者ごとに放流データのつかみ方が不ぞろいで、集計しても行政実務上は役に立たず、研究者が書く科学論文にも引用できないからでしょう。放流の定義を明確にし、集計法を統一すればいいのに、それをやろうとする人もいません」[5]。

 水産庁が、放流したクロマグロのデータを集計しようとしない理由は、そんなことをしたら、「如何に不必要で滅茶苦茶な漁獲量の削減を行ったか」が、明らかになってしまうからだと私は思います。

 一度定置網に入網したクロマグロは放流したとしても、死亡してしまう割合も少なくないと言われています。利用されることなく無駄に殺されてしまったクロマグロの量も相当数に上ると考えられます。

 以上のことを考えると、果たして、小型魚の50%削減は必要であったのか、はなはだ疑問であり、もっと少ない削減率でも十分に資源は回復していたと私は思います。

 ここで述べておきたいのは、私は、このようなひどい状態になった結果を見て、「後出しジャンケン」で、これらの漁獲規制を批判している訳ではありません。私は、既に、6年も前の2019 年時点で、このようなことが必然的に起こるメカニズムを明らかにし、警鐘を鳴らしていました。MSY理論に基づいて漁獲規制を実施する限り、必ず過大な漁獲量の削減をすることになってしまうからです。詳しくは、文献 [6、7] をご覧ください。

 以上をまとめると、水産庁がやったことは、「兎に角、何が何でも資源を回復させることを第一義の目的とし、そのためには、負担の公平性など全く意に介せず、もっぱら大中型まき網漁業を優先し、資源回復のためという大義名分のもとで、「沿岸零細漁業者つぶし」ともとれる、無茶苦茶な漁獲規制を強行した」というのが、太平洋クロマグロの資源管理の実態だ、ということができると思います。

4.大中型まき網漁業の小型魚のTAC配分枠2000㌧はどのようにして決まったのか?

  沿岸零細漁業者の配分枠が極めて少なく、経営が成り立たないようなレベルになってしまったことは、ひき縄漁業を例に、既に述べました。樫原氏は「生活が成り立たないとして沿岸漁業者の引退、廃業が続いています」と述べています [5] 。

 しかし、資源回復のための漁獲規制を実施している訳ですから、漁獲枠が小さくなるのは、ある程度やむを得ないのではないか、と思われる方も多いのではないかと思います。それでは、大中型まき網漁業はどうだったのかを、樫原 [8-10] を引用して、以下に紹介したいと思います。

 太平洋クロマグロの2015年以降の日本の小型魚のTACは4007㌧と決まったわけですが、水産庁は、早々と、2014年時点で、大中型まき網漁業の小型魚のTAC配分枠を2000㌧と決めていました。既に述べたように、2014年9月に開催されたWCPFC北小委員会の議事録 [2] にも、日本がそのような発言をしたことが記載されています。

 問題は、この配分枠2000㌧がどのようにして決まったのかということです。樫原氏の追及によって、少なくとも、○○審議会とか○○検討会などで議論された形跡はなく、水産庁内部で、「適当に?」決められていたことは、水産庁も認めざるを得ないようです。しかし、どのように「適当に?」決められたのか、樫原氏が鋭く追及するものの、水産庁はまともに説明しようとはしません。このことは、水産庁内部でも、まともなプロセスを経て決定されたものではないことを物語っています。

 樫原 [10] は次のように推論しています。「資源悪化の影響で、まき網による漁獲も低迷し、小型魚漁獲量は2012年1592トン、2013年989.8トンでした。しかし、2014年の小型魚の漁獲量は3409トンで前年の3倍以上になっています」。小型魚2000トンという枠がいつどのようにして決まったのかは不明ですが、「2000トン枠を保証するという水産庁に恥をかかせまいと、まき網業界は小型魚を一生懸命獲り、平均漁獲量を2000トン弱の水準に持って行ったのではないでしょうか」。私も、2012年から2014年の3年間の小型魚の平均漁獲量が1997トンとなり、極めて2000トンに近かったのは、単なる偶然とは思えない気がします。

 零細漁業者は撤退せざるを得ないような酷い状況にまで追い込んでおきながら、大中型まき網漁業には、実質的な負担が0になるような漁獲規制を、WCPFCが主導して実施したように見せかけながら、実際には日本の水産庁が主導して実行していたということです。

5.水産庁の暴走は、WCPFC北小委員会の議事録からも明らかである!

 なんとなく、「米国を中心とする諸外国の圧力で、日本は厳しい漁獲規制を迫られた」と思っている人が多いのではないかと思います。実は、私もそうでした。しかし、2014年9月に開催されたWCPFC第10回北小委員会の議事録 [3] や同小委員会に提出された米国の太平洋クロマグロの回復プログラム案(NC10-DP-07)[11]、日本のプログラム案(NC10-DP-06)[12] を読むと、暴走したのは、むしろ日本の水産庁であったことがわかります。

 米国の回復プログラム案(NC10-DP-07)では、資源の回復期間について、「資源の早期回復によって加入失敗のリスクを軽減したいというニーズと、急激かつ大幅な漁獲削減が経済的に及ぼす影響との間にはトレードオフがあります」と述べ、米国は両者をバランスさせる重要性について言及しています。さらに、「ISCが作成したいろいろなシナリオのもとでの予測結果は、適切なバランスを検討する上で有益です」とも述べています。すなわち米国は、資源回復と急激かつ大幅な漁獲削減が経済的に及ぼす影響とのバランスをとることが重要であると考えており、「ISCが作成したいろいろなシナリオのもとでの予測結果」を参考にして、どのようにバランスさせるかを考えるべきであると主張しているわけです。米国は最も厳しい「シナリオ6」を選択すべきである、などと主張していたわけでは決してありませんでした。
 
 さらにまた、米国は、「本プログラム案の主要な目的は、太平洋クロマグロ資源を一定期間内に回復させることであるが、それに加えて、回復期間中の操業機会や保全負担の公平性に関する副次的な目標も考慮している」と述べ、資源の回復だけではなく、「回復期間中の操業機会や保全負担の公平性」等も考慮すべき重要な課題(副次的目標)であると述べているわけです。極めて、真っ当な姿勢と言えるでしょう。
 
 これに対して日本はどうであったかというと、日本は米国の提案に対して、「米国が提案する漁獲がないと仮定したときに計算される親魚量の20%の水準を10年以内に達成するという提案は、楽観的すぎて非現実的である。なぜなら、ISCの予測では、現在の低い加入傾向が続く限り、その水準への回復は見込めないからである」と米国の回復プログラム案を批判しています。
 
 さらに、「現在の保存管理措置を今後も継続した場合、最近の低い加入が続けば親魚量は増加しないと予測されている。NC9 の要請による予測に関しては、最も厳しい「シナリオ6」のみが、現在の低い加入が継続しても親魚量の増加につながる結果となることを示していることから、「シナリオ6」の結果に鑑み、未成魚の全ての年齢層において、漁獲による死亡率および未成魚の漁獲量をさらに大幅に削減することが、親魚量が歴史的な最低水準を下回るリスクを低減するために検討されるべきであることが示唆されている」等と述べ、最も厳しい「シナリオ6」を採択すべきとしています。

 さらに、日本は、「枠を超過した場合は、その超過分を次年度以降の枠から差し引くべきである」と言った情け容赦のない提案も行っています。相手は天然資源ですから、年によって分布や回遊も大きく変動します。地域によっては、偶発的に枠を超えてしまう可能性も、決して小さくはないと思いますが、水産庁の姿勢からは、そのよう状況に対する配慮は全く感じられません。急激かつ大幅な漁獲削減が経済的に及ぼす影響や、回復期間中の操業機会や保全負担の公平性等には、全く関心がないようです。

 このような日本の異常な言動が、ただ単に、資源回復のことしか頭になかったからなのか、あるいは、資源回復を大義名分としながら、何か別の思惑があったからなのかは不明です。
 
 しかし、いずれにしろ「回復期間中の操業機会や保全負担の公平性等にも注意を払うべきである」と主張した米国と、米国の回復案を「楽観的過ぎる」と批判し、「最も厳しい「シナリオ6」を採択すべきである」と主張した日本と、どちらの主張が妥当であったのかは、クロマグロ漁業でその後に起こった大混乱を見れば、一目瞭然ではないでしょうか?
 
 付録に示した公開質問状の回答にもあるように、水産庁は、「ISCのシミュレーション結果を踏まえ・・・」を、金科玉条の根拠として述べて、自分達が行った漁獲規制を正当化しようとしていますが、上記のように「現在の低い加入傾向が続く限り・・・」等、どのような前提のもとでシミュレーションを実施するかによって、いろいろなオプションがあるわけですから、どのオプションを選ぶかを間違えれば、結局、間違ったシミュレーションを行ったことと同じになります。
 
 「これまで日本の漁業の現場で生じた混乱は、「水産庁が!」間違ったオプションを選択し、「水産庁が!」間違った漁獲規制をWCPFCに実施させたことによる人災である」ということが、上記から明らかになったのではないでしょうか。

 間違った漁獲規制を実行した結果はどうであったかというと、海はクロマグロで溢れかえり、漁獲したクロマグロのほとんどを放流しなければならないという事態になってしまったということです。放流されたクロマグロのうちのどの程度の割合が死亡してしまうのか、詳細なデータはありませんが、少なくとも、間違った漁獲規制の影響により、少なくない数のクロマグロが有効利用されることなく、無駄に殺されてしまったことは確かでしょう。
 
 さすがの水産庁も、自らの漁獲規制の誤りを隠し切れなくなり、焦っていたのではないかと思います。そのことは、昨年(2024年)に開催された第21回WCPFCの年次会合で、水産庁がクロマグロ大型魚の捕獲枠を2.5倍、小型魚の捕獲枠を1.5倍と、2014年当時の姿勢とは一転して、極めて大胆な増枠を要求していることからも、水産庁の狼狽ぶりが伺えます。しかし、そのような急激な増枠が認められるわけもなく、結果的には、大型魚は1.5倍、小型魚は1.1倍の増枠にとどまってしまいました。当然と言えば当然と言えるでしょうね。
 
 しかし、もし水産庁が、これまでに漁獲されたクロマグロのうち、どれぐらいのクロマグロが放流されてきたのか、その実態について放流数等のデータをしっかりと収集し、そのデータをWCPFCに提示していれば、増枠の議論はもっと異なった結果になっていたと私は思います。大きな増枠が実現しなかったこともまた、水産庁の不作為による人災だと言わざるを得ないでしょう。


【付録】
 
私が2024年10月16日に水産庁長官に提出した公開質問状 [1] に対する水産庁の審議官からの回答(2025年3月10日)を下記に示します。個別の質問(1)は「管理措置1」と「管理措置2」を提案したのは日本(水産庁)ではないですか?   という質問内容ですが、それも含め、質問事項は多岐にわたっています。

 しかし、多岐にわたる質問事項の(1)から(8)に対しては、個別に回答しようとはせず、すべてを十羽一絡げにしてしまって、「ISCが実施した将来予測のシミュレーションの結果を踏まえ、WCPFC北小委員会における関係国間の交渉により決定したものです」といった極めておざなりな回答で済ませてしまっています。提案したのは水産庁であることなどおくびにも出さず、「すべてはWCPFC北小委員会が決めたことであり、自分たちには責任がない」ことにしてしまおうとする水産庁の思惑がとてもよくわかる回答だと思いました。

 また、質問事項(16)の回答で「ISCの将来予測ではMSY理論を用いておらず、MSY理論に基づいて計算された値をランダムに増幅させ」た事実はありません」という記述がありますが、「ホッケースティクモデルを用いて将来予測を行うこと=MSY理論に基づいて計算すること」だと私は思います。この私の見解に対してはどうお考えなのか、別途メールで質問しましたが、現時点(2025年5月27日)で、回答はいただいておりません。

 また、3で述べられている、意見交換の場を設けるという件についても、「密室で意見交換しても平行線のままで意味がないと思いますし、水産庁主催の意見交換会では、質問時間が極めて限られているので、別途、シンポジウム等を開催して公開の場で意見交換してはどうでしょうか」という提案を、メールでさせていただいております。これについても、現時点(2025年5月27日)で、回答はいただいておりません。

【水産庁からの回答コピー】

1.総論
(1)クロマグロの資源管理については、国内関係者に対して定期的な説明の場を設けるとともに、その資料や議事録を公開しておりますので、適宜参照ください。具体的には以下のとおりです。

① ISCによる資源評価結果及び各種の計算結果の概要、それを踏まえたWCPFCでの交渉方針等

・中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委員会等に向けた太平洋クロマグロの資源状況等に関する説明会(通称『クロマグロ全国会議』) https://www.jfa.maff.go.jp/j/study/enoki/kuromaguro.html

② 国内管理(含:TAC配分)
・太平洋クロマグロの資源・養殖管理に関する全国会議(通称『クロマグロ全国会議』)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/study/enoki/kuromaguro.html

・水産政策審議会 資源管理分科会https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/index.html

・水産政策審議会 資源管理分科会 くろまぐろ部会https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/maguro/index.html

・広域漁業調整委員会
https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_kouiki/index.html

(2)ISCにおける議論と、ISCによる資源評価結果及び各種の計算結果(ISCウェブサイト)
・ISC総会レポート・会議文書
https://isc.fra.go.jp/reports/index.html

・ISCクロマグロ作業部会レポート・資源評価レポート・会議文書https://isc.fra.go.jp/working_groups/pacific_bluefin_tuna.html

(3)WCPFCにおける議論と、ISCからWCPFCに示された資源評価結果及び各種の計算結果(WCPFCウェブサイト)
・WCPFC北小委員会レポート・会議文書https://meetings.wcpfc.int/meetings/type/13

・太平洋クロマグロの管理に関するIATTCとWCPFC北小委員会の合同作業部会
https://meetings.wcpfc.int/meetings/type/17

・WCPFC年次会合レポート・会議文書https://meetings.wcpfc.int/meetings/type/10

2.個別のご質問への回答
ご質問
(1)WCPFCで保存管理措置が採択されるまでのプロセスについて
(2)「保存管理措置1」と「保存管理措置2」は基本的な考え方が間違っている!
(3)「漁獲規制による急激な漁獲量変動を起こさないように配慮する」といったお考えは、水産庁にはなかったのでしょうか?
(4)まき網漁業を優先するために、2002-2004年を基準年として選定したのではないか?
(5)なぜ、小型魚のTACを半減する必要があったのですか?
(7)なぜ、小型魚の平均漁獲量のみ半減する必要があったのか? その必然性、科学的根拠を示していただきたい。
(8)水産庁、WCPFCは、なぜ、(7)のようなシミュレーションを実施ないのですか?

(回答)
2014年にWCPFCが採択した小型魚漁獲半減の措置は、ISCが実施した様々な漁獲削減シナリオ(小型魚の半減だけでなく、小型魚と大型魚のそれぞれを削減するシナリオを含む)に基づく将来予測シミュレーションの結果[1]を踏まえ、WCPFC北小委員会における関係国間の交渉により、クロマグロ親魚資源量の回復が見込まれる措置として決定したものです。議論の詳細や、交渉にあたっての水産庁の考え方については、前述の公表資料にも記載があるところ、ご参照ください。

ご質問
(6)沿岸の小型魚のTACは半減どころか、3分の1から7分の1まで削減されていたことになるが、それに対する水産庁の見解をお伺いしたい

(回答)
 WCPFCにおける小型魚の漁獲上限(TAC)は、基準年の2002-2004年の50%水準で設定されていますが、都道府県(沿岸漁業)の漁獲上限は、基準年の50%水準以上としました。

 また、2018年頃は漁獲実績が漁獲上限を大きく下回る(漁獲上限を消化できない)状況が見受けられました。これについては、様々な要因が考えられますが、漁獲上限を国内の大臣管理漁業及び都道府県、さらに都道府県内で漁業種類等ごとに配分して管理しているため、年により来遊が大きく変動するクロマグロでは、大量来遊により放流せざるを得ない地域がある一方、来遊が少なく、漁獲上限が消化しきれなかった地域も発生したことが一因と考えられています。このため水産庁では、都道府県間や大臣管理漁業間での漁獲上限の融通を促進し、漁獲上限の消化率はその後高まっています。

 なお、分析において参照されている2018-2020年の小型魚の漁獲係数は、ISCの資源評価年(7月から翌年6月)の、漁獲実績(実際の漁獲量)が用いられています。漁獲上限を用いて算定されたものではありません。

ご質問
(9)親魚量の経年変動はMSY理論が誤りであることを示しているのではないですか?

(10)「再生産関係が不明であること」もまた、「MSY理論が誤りであること」を示す証拠と言えるではないでしょうか?

(11)「再生産関係が不明である」のに、どうして管理目標が決定できるのですか?

(回答)
 クロマグロについては再生産関係(親子関係)が明確に観察できないため、ISCではMSYに関連する管理基準値等は提供していません。過去の資源変動は、加入量と漁獲圧の変動で説明できることが明らかとなっています。クロマグロの管理にあたっては、目標とする親魚資源量の水準を決定し、その水準を達成するために漁獲圧を調整する考え方で将来予測を行い、その結果を踏まえて関係国間での交渉により漁獲上限を決めています。

ご質問
(12)F0親魚量は初期資源量とは見なせないのではないでしようか?

(回答)
 F0親魚量を正確に説明すると、「漁獲がないことを仮定した場合に資源が平衡する親魚資源量」となりますが、技術的でわかりづらいため、便宜的に「初期資源量」と呼んでいます。「初期資源量」という言葉は、漁業開発が開始された初期の資源量とも誤解されやすいため、水産庁の主な説明資料では注釈をつけて、「初期資源量」が同資料上でF0親魚量を指していることを示すようにしています。

ご質問
(13)太平洋クロマグロの再生産関係を再現した研究例がありますが、ご存知でしょうか?

(回答)
 研究例は認識されていますが、適切なピアレビューを受けた論文ではなく、また手法に疑問もあることから、現時点でISCのクロマグロ資源評価には取り入れられていません。

ご質問
(14)なぜ、環境要因を取り入れた資源分析を行わないのですか?

(回答)
 クロマグロの資源評価は一定の仮定の下で、加入量を含む資源評価結果が、これまでに得られている調査データと矛盾なく推定されているため、信頼性の高いものと考えています。また、現在の将来予測は、過去に観測された加入量が継続するシナリオで実施していますが、ISCではこれを合理的な仮定と認識しています。

 一方、環境要因から過去の加入をある程度再現できたとしても、環境要因の将来予測は水産資源の将来予測よりもさらに不確実性が高く、また上述のとおり現在の仮定で信頼性の高い評価が行えていることから、環境要因を将来予測に使ってこなかったところです。他方で、加入変動は資源管理の重要な不確実性の一つなので、現在実施している管理戦略評価(MSE)では、異なる加入の仮定についても考慮したシミュレーションが行われる予定です。

ご質問
(15)データを公開していただきたい

 ご要望のデータ((1) 年齢別資源尾数、(2) 年齢別親魚尾数、(3) 年齢別漁獲尾数、(4) 年齢別漁獲係数、(5) 年齢別成熟率、(6) 年齢別体重)は、資源評価のアウトプットデータ(一部インプット)であり、多くはすでにグラフの形で公表されていますが、バックデータを個別に提供させていただくことは可能です。

ご質問
(16)以上の分析結果の総括

2015年から実施した漁獲規制の導入は、ISCが行った将来予測シミュレーションの結果に基づき、WCPFC北小委員会における関係国間での交渉により、クロマグロ親魚資源量の回復が見込まれる措置として決定したものです。

また、ISCの将来予測ではMSY理論を用いておらず、「MSY理論に基づいて計算された値をランダムに増幅させ」た事実はありません。

「WCPFCが行っていたシミュレーションによる将来予測が全く外れていた」、とのご指摘とは反対に、過去のISCの将来予測とほぼ一致する形で、資源が回復してきており、ISCの将来予測の信頼性を示していると考えています[2]。なお、引用された「予定より13年も早く回復目標を達成」とは、将来予測より13年も早く回復目標を達成したのではなく、WCPFCが定めた回復計画の中で、回復目標の達成期限を2034年としていたこととの比較で言及しているものです。

3 最後に
櫻本様がより詳細な説明、意見交換が必要とお考えでしたら、水産庁及び水産資源研究所の担当者との面談の場を設けさせていただきます。

また、上記のとおり、水産庁ではクロマグロの資源管理について、毎年、公開の場で意見交換を行う機会を設けておりますので、このような場への出席もご検討下さい。よろしくお願いします。


[1] https://meetings.wcpfc.int/node/8818

[2] https://meetings.wcpfc.int/node/25146 (スライド8参照)


引用文献
1 櫻本和美.   太平洋クロマグロの資源管理について ー水産庁への公開質問状 ー.  note 2024. 10.11.
2 Summary Report. Commission for the Conservation and Management of Highly Migratory Fish Stocks in the Western and Central Pacific Ocean.  Northern Committee. Tenth Regular Session. Fukuoka, Japan, 1–4 September 2014.
3 WCPFC.   Assessment of Pacific Bluefin Tuna in the Pacific Ocean in 2024.  WCPFC-SC20-2024/SA-WP-08. 2024.
4 樫原弘志.  「まき網」は「沿岸」の2倍という現実~太平洋クロマグロの漁獲量配分に監視が必要⑫.  note 2024. 12. 3.
5 樫原弘志.  「金銭的にみて」誰が得をし、損をしたのか~太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に監視が必要②.   note 2024. 8. 23.
6 櫻本和美.  太平洋クロマグロ急増の原因ー それは、MSY理論に基づく資源管理を行うと、実際には不必要である過大な漁獲量の削減が必要となり、その過大な漁獲量削減が結果的に資源を急増させるからである ー.  note 2024. 11. 23. 
7 櫻本和美.  解説版  太平洋クロマグロ急増の原因.  note 2025. 3. 7. 
8 樫原弘志.   まき網への「疑惑の配分」検証怠る審議会~太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に監視が必要⑤.   note 2024. 10. 23.
9 樫原弘志.   委員も知らぬ間に「疑惑の配分」が報告書に~太平洋クロマグロの漁獲量配分に監視が必要⑧.   note 2024. 11. 21.
10 樫原弘志.  疑惑の根源は10年前の恣意的な「まき網シェアかさ上げ」にあった~太平洋クロマグロの漁獲量配分に監視が必要⑰.   note 2025. 1. 21.
11  United States Of America. Rebilding Plan for Pacific Blufin Tuna.  WCPFC-NC10-2014/DP-07. 
12  Japan. Draft Conservation and Management Measure to Establish a Multi-annual Recovery Plan for Pacific Bluefin Tuna.  WCPFC-NC10-2014/DP-06. 




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