【Gorillaz The Mountain考察 #15】The Sweet Prince | 伝えきれなかった「愛している」を、次の生へ
To Gorillaz fans around the world:
What connects a prince, a sword, and a “patterned path”?
The answer may lead back to Damon Albarn’s father—and to the words he was trying to say at his bedside.
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この曲はアルバムの14曲目です。
この曲では、悲しみと向き合えるようになった「私」が、今までは思い出すのもつらかった過去の思い出を振り返ります。
そしてそれは、生前伝えきれなかった言葉を改めて伝えているように思います。
なお、この記事はあくまで僕個人の解釈であり、公式見解ではありません。
僕のフィルターを通したこの考察が、あなたに新たな視点をもたらすことを願っています。
また、この記事は長いので、気になるところだけを読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ブックマークなどして、何回かに分けて読むのも良いかもしれません。
アルバム内でのこの曲の位置づけ
2曲目"The Moon Cave"で「私」は、死者とつながろうとしましたがうまくいきませんでした。
5曲目"Orange County"では、父を失った悲しみに押しつぶされそうになりながら、それでも前に進もうとする「私」が描かれました。
8曲目"The Manifesto"で「私」は、なんとか前を向いて歩きだしました。
12曲目"The Shadowy Light"で「私」は、悲しみを受け入れて向き合えるようになりました。
この曲では、「私」と生前の父との別れのシーンを通して、父に対する想いが語られます。
概要
デーモンはインタビューで、この曲は父が亡くなった直後に書いたものであり、そこにはある種の「手放す」という感覚があると語っています。
そしてそれは、父を次の人生へと続く「定められた道」へ送り出すようなものだと説明しています。
またABCは、"The Sweet Prince"が父の死から数日後に書かれた曲であると報じています。
こうした発言と歌詞を踏まえると、この曲は、デーモンが父キースの病床で伝えきれなかった愛情を、次の生へ送り出す言葉へと変えた鎮魂歌でもあるのだと思います。
なお、キース・アルバーンは美術家、建築家、教育者であり、40年以上にわたって「パターン」「数体系」「信仰」「自然」「多次元の構造」の関係を研究していました。
また、これは僕の勝手な想像ですが、"Sweet Prince"というタイトルからは、シェイクスピアの『ハムレット』が思い浮かびます。
剣術試合で命を落としたハムレットに、ホレイショーが告げる有名な言葉が、"Good night, sweet prince"です。
テーマと歌詞の解説
テーマ
この曲のテーマは「伝えきれなかった想いを伝える」というのが僕の解釈です。
歌詞解説
この曲の語り手は、デーモンなのかこのアルバムの「私」なのかが判然としません。
僕は、おそらくそのどちらでもあるのだと思います。
Verse 1
There are stars far away
遥か彼方には星々がある
That you might reach somehow
どうにかすれば、あなたにも届くかもしれない星が
「星々」には様々なメタファーがあります。希望、導き、運命、孤独、遠さ、栄光、などです。11曲目"Damascus"では、星は「たどり着くべき目的地」として表現されていました。その文脈では、星は「次の生の世界」とも連想されます。
「あなたにも届くかもしれない星」は、亡くなった父が向かうであろう「次の生の世界」を指しているのだと思います。
There are scars that will never heal
決して癒えることのない傷もある
So why pretend they've gone away?
それなのに、なぜ消えたふりをするのだろう?
「傷」は父を失った悲しみだと思います。「消えたふりをするのだろう?」は、父の死という現実や悲しみと向き合うことの反語表現だと思います。
このVerseは、亡くなった父への想いが歌われています。
このアルバムの文脈でいうと、12曲目"The Shadowy Light"とのつながりが連想されます。
"The Shadowy Light"で「私」は、「死は悲しみではなく、次の生への旅立ちである」という思想に触れました。
この曲での星は、"The Shadowy Light"では「川の向こう岸」にあたると思います。
そしてそこは、「幸せと勝利があり、悲しみと敗北のない世界」でした。
悲しみに押しつぶされそうだった「私」は、悲しみを受け入れてともに生きることができるようになりました。
僕はこのVerseから、下記のような印象を受けました。
「幸せと勝利があり、悲しみと敗北のない世界」にたどり着いてほしい。
父を失った悲しみは決して癒えない。
自分は悲しみと向き合い、それを抱えて生きてゆく。
悲しみもまた、大事な父との思い出なのだ。
そしてそれはそのまま、デーモンの父キースに対する想いそのものなのだと思います。
"There are stars … / There are scars…"
の韻を踏んだ対比が素晴らしいです。
父が向かう遠くには光があり、自分がいるこちら側には傷があります。
祈り、痛み、愛おしさが美しく表現されています。
Chorus
Sweet prince, don't be sad
愛しき王子よ、悲しまないで
父を“king”ではなく“prince”と呼んでいます。父を威厳の対象ではなく、より柔らかく愛おしい存在として見ているように思います。
「悲しまないで」には二つの意味があると思います。ひとつは「あなたがこれから向かう先は幸せと勝利だけがある次の生である」ということ。もうひとつは「残された自分を心配しないで先に進んでほしい」という想いだと思います。
You were never meant to be here
あなたはもともと、ここにいる運命ではなかった
このラインは、さまざまな読み方ができます。「あなたの本来の場所ではない」「魂は一時的にここに留まっただけ」「自分自身に言い聞かせるための不完全な言い訳」などです。
ここでの僕の解釈は、「あなたの旅はここで終わりなのではなく、これからより良い次の生へと続いていく」というものです。
And the sword you hold in your hand
そして、あなたがその手に握る剣
Well, its mighty blow will set you on
その力強い一撃が、あなたを送り出すだろう
Your patterned path into the next life
次の生へと続くあなたのパターンの道
「剣」は、力、闘い、自ら道を切り開くもの、などのメタファーです。僕は、「あなたがその手に握る剣」を、「次の良き生への道を切り開くための、生前積み上げてきた行いや経験」のメタファーに感じます。
「あなたのこれまでの行いや経験は素晴らしいものだから、かならず次の生もより良いものになる」という祈りの言葉だと思います。
Chorusは、父を送り出す祈りの言葉です。
現世での行いを称え、次の良き生へ、力強く、愛おしさをもって送り出しています。
「あなたがその手に握る剣」は、父が生前積み上げてきた行いや経験のメタファー、というのが僕の解釈です。
ここは、このアルバムの前の楽曲とのつながりを感じます。
8曲目"The Manifesto"では、大切なのは「俺の功績、美徳、そして感情だけ」というラインがありました。
また、5曲目"Orange County"の「遺産」という言葉が、この曲の「剣」と似ているようにも思います。
そして僕は、「愛しき王子」「剣」からシェイクスピアの『ハムレット』を連想します。
ハムレットは剣術試合で剣に傷つけられて亡くなります。
そして、死んだハムレットにホレイショーが告げる有名な言葉が、"Good night, sweet prince"です。
公式発言にはありませんが、僕は、デーモンが『ハムレット』を意識してこの曲を書いたのではないかと想像しています。
さらに、ただの"The patterned path"(パターンの道)ではなく、"Your patterned path"(あなたのパターンの道)になっています。
キース・アルバーンは、40年以上にわたって「パターン」や「数体系」などの関係を研究していました。
僕にはこのラインが、デーモンから父キースへ、「あなたが生涯探究してきたパターンが、そのままあなたを次の生へ導いていく」と伝えられているように思います。
これは、「あなたがその手に握る剣」=「生前の経験が次の生を切り開く」という僕の解釈とも符合します。
Verse 2
I found myself by your bedside
気がつくと、俺はあなたのベッドの傍らにいた
このラインは、自分がベッドの傍らにいることに気づく直前の記憶があまり定かでない印象を受けます。それは動揺などによるものかもしれません。
または、父の死後である現在から過去父を見舞った様子を思い出し、「気づくと、その記憶の中に立っていた」という表現なのかもしれません。
Looking out across the void
虚空の彼方を見つめながら
体はベッドの傍らにいながら想いは遠くにあります。それは父がいなくなった後に残る空白かもしれませんし、これから父が向かうであろう世界かもしれません。
I was trying to say I love you
俺は「愛している」と伝えようとしていた
But you just looked the other way
けれどあなたは、ただ顔を背けた
"looked the other way"には二つの解釈があります。ひとつは文字通り「顔を背けた」です。もうひとつは慣用句で「気づいていながら見なかったことにする」です。
このラインは「『愛している』と伝えようとしたが伝えられなかった」と「『愛している』と伝えたが聞こえないふりをされた」と二つの解釈が成り立ちます。
Verse 2はかなり具体的に、父を見舞ったシーンが描写されます。
おそらくこのシーンは、父は間もなく旅立とうとしている場面だと思います。
父が既にいない現在から、過去の父を見舞った記憶を想起している、というのが僕の解釈です。
「私」は気づけばベッドの傍らにいる状態でした。
そして父に対して「愛している」と伝えきれませんでした。
"looked the other way"の表現が繊細で素晴らしいです。
ここでは、「愛している」と伝えようとしたが伝えられなかったのか、「愛している」と伝えたが聞こえないふりをされたのかがはっきりしません。
このあいまいさが、男同士の親子の照れや、言わなくてもわかる関係のような、繊細な心の機微を描いており、より切なさを感じます。
「私」が父に「愛してる」と伝えきれなかった理由は、きっと些細なことだと思います。
親子の照れ、わざわざ言わなくてもわかる、まだ時間があるだろうという希望などです。
僕は、この場で「愛している」と伝えることが、「自分が父の最期を認めてしまう」ことになる気がして伝えられなかったのではないか、と感じました。
もしかしてですが、デーモンがこの曲を書いたのは、この時ちゃんと伝えきれなかった「愛している」という言葉を、きちんと伝えようという想いなのではないかと思います。
Chorus
Sweet prince, don't be sad
愛しき王子よ、悲しまないで
You were never meant to be here
あなたはもともと、ここにいる運命ではなかった
And the sword you hold in your hand
そして、あなたがその手に握る剣
Well, its mighty blow will set you on
その力強い一撃が、あなたを送り出すだろう
Your patterned path into the next life
次の生へと続くあなたのパターンの道
2回目のChorusでは、カラ・ジャクソンのバックコーラスが重なります。
僕の解釈では、5曲目"Orange County"でのカラは、過去の自分という役割で、愛する力を失った現在の「私」を勇気づけていました。
その文脈で言うと、ここでは過去の自分と現在の自分が調和しています。
愛する力を取り戻し、悲しみと向き合えるようになった「私」を表現しているように思います。
僕には、「俺はもう大丈夫だから、安心して旅立ってくれ」という姿であるように聴こえます。
歌詞まとめ
この曲では、アルバム内の語り手とデーモンの姿が重ねられています。
デーモンの個人的な想いと、アルバムの「私」の物語と、どちらにも取れる構造です。
アルバムの文脈で言うと、父の死後さまざまな経験を経てきた「私」が、生前の父を見舞ったときのことを思い出している、というのが僕の解釈です。
アルバムの「私」は、5曲目"Orange County"では「父の顎の形」を思い出すのもつらくて出来ませんでしたが、12曲目"The Shadowy Light"で父を失った悲しみと向き合えるようになりました。
そうした経験を経た「私」は、生前伝えきれなかった「愛している」という言葉を、この曲で改めて伝えているように思います。
もしかして、2曲目"The Moon Cave"で故人とつながろうとしたのは、この「愛している」という言葉を伝えるためだったのかもしれません。
サウンドとプロダクション
クレジット
《プロデュース》
Gorillaz
ジェームス・フォード
サミュエル・エグレントン
レミ・カバカ・ジュニア
《作詞作曲》
デーモン・アルバーン
ジョニー・マー
アヌーシュカ・シャンカール
《楽器・コーラス》
バック・ボーカル:カラ・ジャクソン
ギター:ジョニー・マー
バンスリ:アジャイ・プラサンナ
シタール:アヌーシュカ・シャンカール
ハープ:オリビア・ジャガーズ
解説
穏やかで優しさに満ちたスローバラードです。
鎮魂というよりは門出、別れというよりは新たな生への子守歌、といった印象を受けます。
鼓動のようなバスドラムとベースに、浮遊感のある柔らかいシンセが優しげです。
そこにバンスリ、ギター、ハープ、シタールが鮮やかに踊ります。
この曲でのバンスリの音は、次の生に向かう息吹の道の様です。
緩やかに蛇行しながら上昇していくような、穏やかで精神的な響きです。
そしてギターとハープは、その道を飾る草花のようにきらめきます。
面白いのはシタールです。
シタールのきらめきが何層にも重なって聴こえます。
The Hollywood Reporter Indiaによると、この曲ではアヌーシュカの提案により、シタールを高速で優しくかき鳴らし、それを何層にも重ねたとのことです。
そしてカラ・ジャクソンのバック・コーラスが素晴らしい。
深く、それでいて透明感があります。
彼女の声は本当にデーモンとよく合います。
Outroでは、一度サウンドが消え、また再び始まります。
僕はこれが、新しい生の再開を表現しているように思います。
ボーカルが無く、遠く静かに響くサウンドが、穏やかな第二の生を思わせます。
遠い残響のようなギターで終わるのが、しみじみとしてとても良いです。
素晴らしい曲だと思います。
明るく浮遊感のある門出の様な曲調、ギター、シタール、バンスリが彩る模様(パターン)の道。
過去の自分と現在の自分が調和したコーラスは、「ほら、俺はもう大丈夫だから安心して旅立ってくれ」と言っているかのように感じます。
深い愛、悲しみ、賛美、切なさ、成長、希望、さまざまな想いが優しく響きます。
僕はいつも、この曲の「あはれ」に涙が流れます。
それは、愛おしいような、切ないような、浄化されるような感動の涙です。
最後に
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
皆さんはこの曲をどう感じましたか?
音楽は開かれたナラティブです。
リスナーの数だけ解釈や感想があって良いと思います。
是非皆さんの感想をコメントや「スキ」で教えてください。
この記事の解釈をお楽しみいただけたなら、ぜひシリーズの他の記事もご覧ください。
僕の視点が、Gorillazファンに"The Mountain"への新たな入り口を提供できれば幸いです。
Thank you for reading.
Only one song remains on our journey through The Mountain. Next, we meet “The Sad God.”
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