【第5話:夕映えの輪郭】
帰宅しても、あのおかしな熱は冷めることがなかった。
自室のドアに鍵をかけ、制服を脱ぎ捨てる。窓から差し込む夕陽が眩しい。
私は、姿見の前に立った。

鏡の中の私は、学校にいた時の私と少しだけ違って見える。 制服の重たさから解放されたはずなのに、肌にまとわりつく空気感は、昼間よりもずっと濃密だった。
(……なんで、こんなにドキドキしてるんだろう)
鏡越しに自分の体つきを眺める。 どこにでもある、なんの変哲もない未熟な身体。華やかさなんて一つもない。それなのに、さっきの廊下での接触の感触が、肌の奥で今も微かにくすぶっている。
あの子たちは、こんなこと一度も考えないのだろうか。 「男の人」という未知の硬さと、自分の肌の柔らかさ。その対比を想像するだけで、指先が勝手に自分の腕を撫でてしまう。
自分だけの秘密だと思っていたはずの熱が、少しずつ、確実に輪郭を帯びていく。 誰もいないはずの部屋。静寂の中で、自分の鼓動の音がやけに大きく聞こえる。
制服の時とは違う、ゆったりとしたジャージのパンツ。 けれど鏡に映る自分を見つめていると、不意に、昼間見た男子生徒のズボン越しに浮き出るパンツのラインが脳裏を過った。
(……私も、同じように見えているのかな)
確認したかったわけじゃない。でも、確かめずにはいられなかった。 私は、あの時の彼と同じように、少しだけ前屈みに腰を落としてみた。
鏡に映ったのは、ジャージの生地をぴんと張り詰めた自分の姿だ。 その、あまりに無防備なシルエット。 パンツの縁が、柔らかい布地越しにくっきりと、自分でも驚くほど生々しく浮かび上がっている。
……っ。
言葉を失った。 さっきまで「未熟な自分」でしかなかったはずなのに、鏡の中のその形は、ひどく卑猥な主張を抱えていた。 ただの日常的な下着。それなのに、こうしてラインが露わになると、自分の身体が急に「異質なもの」へと塗り替えられていく気がした。
(……見えてる。誰かに見られたら、きっと死ぬほど恥ずかしい)
そんな当たり前の事実に気づいた瞬間、背筋に冷たい電流が走った。 私は、もっとよく見ようとして、さらに姿勢を低くした。椅子に腰掛けるように深く膝を曲げ、ジャージの生地をぴんと張り詰める。
すると、鏡の中の自分の下半身は、まるで別物のように変貌した。 お尻の肉付きの丸みが、ジャージ越しに嫌なほど強調される。それだけではない。パンツのクロッチ部分、あの布の重なりが、ジャージの生地の奥でくっきりと影を落としていた。
あまりの生々しさに、喉がひくりと鳴る。 その輪郭を見ていると、ジャージという隔たりなど無意味なものに思えてくる。布一枚をめくれば、そこには何の飾り気もない、ただのパンツがあるという事実。その下で、自分の身体がどんな形をしているのかまで、鏡の中の光景が雄弁に物語っていた。
(……あ、ここ……。全部、わかってしまう)
高まる衝動に抗えず、私はさらに腰を落とし、ジャージのウエストをぐいと引き上げてみた。 すると、布地がよりいっそう肌に食い込み、パンツの縁が描く線は鋭く、そして濃厚になる。
自分でも信じられない。 これほどまでに卑猥で、これほどまでに無防備な形をしていたなんて。
今まで当たり前に穿いていたはずのパンツが、今はまるで、誰かに晒すための檻のように思える。 羞恥心で顔が火のように熱いのに、指先は震えながらも、自分の身体の輪郭を鏡越しになぞり続けていた。
