オカンと私は、プリキュアでWinkでPINKなLADY
私のふたりの兄の名前が、どうやら初見では正しく読み解くことが難しいらしいと気づくのに、そう時間はかからなかった。
小学生くらいになると、親が留守の際に家の電話に出る流れになった。
兄ふたりVS妹の「電話鳴ってるけど誰が出るねん」対決では、いつも私が劣勢だった。
いたし方なく出ると、塾の勧誘とか、なにかしらの学業に関する営業電話が多く、子どもの名前を確認される。
電話口の向こうから、名前の読み方に自信がなさそうな相手の声が聞こえる。
「ええっと……せ、せいだい、さん……? ですか?」
「あ、とお……うーん、み、みねぢさん? いらっしゃいますか……」
そしてたいてい、その確認は誤っており、本人の代わりに私が訂正するハメになる。兄ふたりの名前は、響きとしてはそう珍しいことはないのだが、私の両親は漢字と字画にたいそうこだわりがあったようだ。
あまりに間違いが多いので、小学校を卒業して中学生あたりになっても、私は兄ふたりの名前を正しく漢字で書けているか、自信がなかった。いったい何が本当で何が嘘なのか迷宮入りだった。しかし、たいして必要もない自信だったのでとくに問題はなかった。

「私の名前はどうやってつけたの」
いつだかの、宿題だったと思う。自分の名前の由来を聞く機会があった。
あの宿題がなかったら、あんまり私はこの名前の由来を聞こうとも思わなかったかもしれない。
それくらいわりと単純な名前だと思っていたからだ。けっこう気に入ってたけど。
「あのふたり(長兄と次兄のこと)は、漢字と字画を中心に考えたんだけど、やっぱ読みが難しくなったからね。誰でも間違えない、呼びやすいのにしたかった。ってのがあるね」
やはり、な……。
私は精いっぱいの探偵面をかましながら、わら半紙のプリントに「よびやすいから」とかなんとか、書いた。
「あと、お花の名前もいれたかった」
そこに続いた言葉は意外なものだった。
「お花?」
「うん。お母さんの名前、お花でしょ。だから」
言われてみれば、そうだな。と思った。
「純粋」「威厳」の花言葉を持つオカンの名前。(強い)
「チャーミング」で「天下無敵」の意味を持つ私の名前。(強い)
そのときは「ふうん」って感じだったけど。
今なら……アタシ、わかる。
そっか、アタシたち……
ふたりはプリキュア。ってこと、だったんだね……
「あと芸能人の〇〇もかわいいから、同じ名前だしいいじゃんって言ってた。お父さんが。あ、お父さんがファンだったのは石野真子だったけど。同じくらい好きだって言ってた」
お父さんの「知らんけど」な情報がまたひとつ増えたが、それは聞こえないふりをして、私は宿題を粛々と完成させた。石野真子の話はしなかった。

そんな話もすっかり忘れかけたころ。
私はもう一度、人前でその名前の由来を発表する機会を得た。
新入職員として入った専門学校では毎朝、職員室での朝礼がある。当時そこでは、毎朝順番におこなう、スピーチの時間があった。最近はまっているものや、先日のお出かけのこと、家族のこと。とくにお題は決まってはいないが、私の初めての朝礼の順番が近づくにつれて、「名前の由来」が流行りだした。
朝に適切な情報量、起承転結、そして温もりを与えるレベルの話題……
それを私は探しあぐねていたので、これはいいぞと思った。
初めての朝礼としてはもってこいの内容ではないか。
私は、朝のその2分程度の時間を思いながら、数日間ドキドキして過ごした。
──時はきた。
私は、職員室のお立ち台(ただの職員室前方)へ移動し、名前の由来についてのスピーチを開始した。
まずもって先に、兄ふたりの名前の漢字を、設置されているホワイトボードに書き。これ読めないですよね…? とひとこと。そして正解を伝える。実は、次兄は部長といっしょの名前なんですよ~この漢字で!と、ここでひと笑い。よしよし、それなりにウケた。
そして、この経験を踏まえて、私の名前がとっても読みやすい名前になったこと。私は誰からも、読み間違いをされたことが生涯ないこと。
母親の名前と私の名前は、花からとったもので、おそろいなのだということを伝えた。
初めての朝礼は、ほどなくやわらかい拍手とともに幕を閉じた。
ふう、なんとか成功したな……と、新人しいもはホッと胸をなでおろした。
ちなみに
その次に回ってきた朝礼では、Wiiのゼルダにはまっていて必死にリモコンをふるうのだが、ロードになるとリモコンを握り立ち尽くす自分の無様な姿が真っ黒な画面に鮮明に映し出され、なんとも言えない気持ちになるという話をした。一部の男性から好評を得るも、女性陣は若干引いていたと思う。ほろ苦い思い出だ。
初めての朝礼後のドキドキを高鳴らせたままで、私は朝礼後、所属部署の日報を学校長に提出するため、その席の3歩隣に立った。
「失礼いたします」
私がそう言って半歩近寄ると、学校長はにっこりした。
「スピーチ、すごくよかったよ。〇〇部長とお兄さんの名前がいっしょって、面白かったし(笑) お母さんとの名前もおそろいってのが、いいよね。もう、ユニットじゃんね。お母さんと。〇〇&〇〇。みたいな。いいじゃん。デビューできるよ」
あ、あ、ありがとうございましゅ……!
たぶん、最後は噛んでいたと思う。下手したら最初から噛んでいたかもしれない。そこの記憶はないけれど、いただいた言葉は強く覚えている。
当時まだ実家で暮らしていた私は、帰宅してから、オカンにこのことを伝えた。
「それもう、ユニットじゃんって言ってたよ」
私は、用意されていたご飯を食べながら言った。
オカンは、ビールを片手に、アハハ、と笑った。
きっとこれが居酒屋で、目の前に仲良しの友達家族がたくさんいたりすれば
「じゃあ、ウチらデビューしちゃおうよ! デビュー!」
って言いだして、その場を盛り上げちゃうのが、私のオカン。
でも、そこはいつものリビングで、お父さんにあげた線香がほのかに香る、いつもの食卓で。そういうときのオカンは「オフ」なので、残念ながらデビューの話は持ち上がることはついぞなかった。ただただ、目じりを下げて、私の話に耳を傾けていた。
だけど。
人前では誰でも盛り上げちゃう、オンのオカンも。
家では小さく正座して韓流ドラマ観てる、オフのオカンも。
どっちのオカンも「純粋」で「威厳」があって、私は好きだよ。
でも、ちょっと考える。
もしもデビューするんだったら、どんな路線がいいだろうかって。
Winkのように、無表情でかっこよく踊り続けて、独自路線をひた走ろうか。
……うちら、無表情はちょっと無理がある。まあ、夫に怒るときは静かになるタイプだけどね。
オカンの大好きなピンク・レディーのように、ダンスに歌に、斬新なメロディーでファンを作っちゃおうか。
……オカンはいいけど、私はあのダンス踊れないわね。あとふたりして足短いし。指も。お酒入れば、PINKになるけどね。
もういっそ、戦うアイドルとしてプリキュアを目指そうか。
……あぶないからダメよって、お父さんに怒られちゃうな。
ってことで、うちらのユニットはデビュー叶わず。無念である。
だけど。
解散はしないでいようね。デビューしてないけど、無期限活動休止でいようね。活動しないだけ。解散はしないよってやつでいこうね。
私がもらった「チャーミング」で「天下無敵」な、この名前。
オカンとセット、ふたりでひとつ。
それぞれの花がこの胸に咲き続けてる限りは、私とオカンは、
プリキュアでWinkで、ちょっとPINKなLADYだから。

ぐみさんの企画に参加しました。
なまえには本当に、いろんな背景があるなあ~なんて、ほっこりな企画。
ありがとうございましゅ…!(噛)
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