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春が呼んでも、私はもうどこにも行かない┃エッセイ



春はいつも私を焦らせる。



慣れ親しんだクラスの終わり。
学校での新しいクラスの発表。
就職活動のあの日の最終面接。
社会人としての新しいスタート。
知らない場所での新生活。


春は私を困らせる。


新しい生活のための書類の一式。
引継ぎのための面談時間の調整。
新しい授業の準備。
前年度の経理書類の総まとめ。


緊張も、失敗も、不安も、心配も。
増えては巡る、春の風。
すべてを春のせいにしたい。
それはきっとあなたも同じ。


それでも春を嫌いになれない。
いったいどうしてなんだろう。



去年の春。
5人目の子どもである三男の慣らし保育がスタートした。
私がその春に始めたのは、仕事復帰のための自己研鑽でも、自分磨きでも、ダイエットでもない。
noteだった。

「今日も学校に行かないとだめ?」
「胸が苦しい」
「呼吸がうまくできない」
「1時間で帰りたい」

そのとき、長女はすっかり不登校気味になっていた。繊細な彼女のことを私は受け入れた。必死に。

朝、小学校に次女と長女を送り。
そのあと戻って保育園組を車で送り。
家に戻り、1時間ほどしたら、長女をお迎えに行く。
帰ってお昼を作ったら、間もなく次女のお迎え。
家に戻り夜ご飯の支度。
まもなく夕方になると保育園組をお迎え。
そこから怒涛のお風呂&ごはん&洗濯&学校と保育園の準備&皿洗い&歯磨き&寝かしつけ……

ちなみに上記スケジュールの中に、ようやく1歳を迎えた三男がいつでもくっついてくる。

ということで、私はなかなかにハードな日々を過ごしていた。
そんな中で、私はふつふつと湧き上がる自分の気持ちに気づき始めていた。



「書きたい」



不登校の娘について。
発達障害の次女について。
発達障害かもしれない双子兄の状態について。
天然発言ばかりの双子弟について。
暴君の三男について。


書きたい。
書き残しておきたい。
そんな思いに突き動かされた。
なかでもやはり。
未知の世界であった「不登校の親」になったその春の不安は、私を包んで離さなかった。


夫は毎日「ありがとう」「助かる」「しいもじゃないとできないよ」と伝えてくれた。
友人たちに相談すれば「きっと大丈夫」と応援してくれた。

ありがとう。
そうだよね。
ありがとう。がんばるよ。

そう言いながら。
私はそれでも不安に抗うために、書きたかったのだ。




「直接言わないと伝わらないよ」
と、人は言う。

それでも私は、書くことで救われたかった。
「直接言わないと伝わらない」ことがこの世にはあるように
「書かないと昇華できない大切な想い」も、この世にはたくさんあったのだ。

書かなければ。
書きなぐらなければ昇華できない思いがある。
そのことに私は、昨年の春に思い知ったのだった。



あなたのことを書いている。
そう言ったとき、長女は嫌がるのかなと思った。
けれど彼女は「じゃあ、読んでみたい」と言った。


子どもたちとの日々や
私の好きなもののこと。
家族で行った旅行の思い出。
あのとき言えなかった父へのありがとう。


私はたぶん。
ここに記している愛のすべてを、子どもたちに直接話して聞かせることは、一生、できなかったと思う。
でも、書いたものを読んでくれるのなら、それはいい機会かもしれないと思った。

母親になった私は、子どもの前ではしっかりした人間であろうとする。

だけど。ママもね。
本当はいつでも爆笑したり、泣き出したり、急に怒ったり、踊りだしたり、イヤなことにはイヤな顔したい。
それをきっと、多少は我慢して生きている。

それでも、抱いた想いはしっかり残したい。
声に出さない想いは、消えていくしかないのだから。



書くことで私は、許されたいと願っている。
そんな、まっさらな私の気持ち。
noteでならば私は、表現できるから。



「noteは手紙のようなものなんだ」
「あなたに、ママが素直に言えないことを、書いたりするの」
「書かれるのイヤになったら言ってね」

私は言う。
「書きたい」が、誰かの想いを踏みにじることがあってはならないからだ。
そんな長女は、いつも黙って私のnoteを読む。
そして、ひとりでくすくす笑ったり、静かに寄ってきて、背中から抱きしめてくれたりする。
私はそのとき、はじめて彼女を抱きしめることができる夜がある。


「愛しているよ」
なるべく。ちゃんと言うようにしているけれど。
あんまり、声に出して言えなくって、ごめんね。
でもね。
一度「愛している」と書いてみてから、それを読むあなたを見つけると。
直接、言いたくなるんだよ。
だからやっぱり、ママはあなたたちのことが、書きたいんだ。

愛しているって伝えたいから。



「先生に手紙を書こうかな」

長女がそんなことを言ったのも、この春だった。
みんなが修了式を終えて誰も来ない日の学校で。私と長女は、ずっと取りに行けなかったお道具箱や雑巾や、なんの評価も付いていないまっさらな成績表を受け取りにいった。

小学3年生になって早々に教室に入れなくなった彼女は、月に数回、担任の先生との別室での面談を重ねてきた。
先生との面談でも自分からたくさん話すことはなかった長女。もじもじして、私や先生の問いかけに、ちょっと笑って答えるだけ。もっと笑ってほしくって、私が横腹をつん、として、先生に笑顔を見てもらうように仕向けても、すぐに緊張した顔になる。そんな彼女のことを、けして先生は焦らせなかった。

「塗り絵、とっても上手だったよ。みんなに配ったらとっても喜んでいたよ」
「先生も4人兄弟だったから、よくわかるよ~。大変だよね」
「すみっこぐらし好きなの? 先生も大好き!」
伝える言葉の数々が、彼女の心を支えてくれていた。


最後の日は、いつもの相談室ではなくって、みんなが荷物を持って帰ってがらんとした教室だった。誰もいない教室で、長女は所在なさげに真ん中の席に座る。
4月の最初の1週間だけ通って。そのまま、ついぞ入ることはなかった教室。

「渡してごらん」

きっかけがないと勇気がでないんだろう。私のことをちらりと見やる彼女に向って私は言った。

「ええ、お手紙? いいの? ありがとう」

先生は、その場ですぐにそっと広げて、読んでくれた。


私の携帯を使って、習っていない漢字も
一生懸命丁寧に、書いていた手紙。


「わあ、すごく綺麗だし、かわいい。字もとても上手。僕なんて、先生、書けないよ!」
先生は、とっても喜んでくれた。それを見て、長女はうふふ、と笑った。


「先生も。大好きだよ」


長女は、うん。とひとこと言った。
すっごくすっごく、うれしいんだろうけど、なんてことないように座っていた。クラスの誰よりも。先生と過ごした時間はきっと、短い。それでも彼女の心は、確実にこの先生に救われていたんだと、私は思い知る。
下を向き、自分のズボンを引っ張る彼女に
ちゃんとお礼を言いなさい。とは。私は言わなかった。
彼女がこの手紙に込めた思いが、すべてだったから。
私は横で、涙をこらえながら
「ありがとうございます。本当に」と言った。



私によく似た、素直ではない彼女にも。
「書いて伝える」ことが、その手段があって、
よかったな。そう思う。


言うべきこともある。
言わないとわからないこともある。
それは当然、わかってる。
でも、書いてこそ伝わるもの。
書き残すことで伝わるもの。
その可能性に私たちがしがみつく理由なんて、本当はとてもシンプルだ。


書いてみなきゃわからない想いがある。
書いてみなきゃ伝えられないものがある。
私たちはだからこそ書き続ける。



昨年。
春は、私を焦らせていた。



仕事の復帰。
育児休暇の終わり。
慣らし保育。
双子兄の療育問題。
数々の問題が私を生暖かい風に巻き込んで。
春の声に逆らえず、長女の気持ちを置き去りにした。
私は弱い自分を悔やんだ。
だから書いた。
書いた。
長女は、読んだ。読んだ。
ときに自分も手紙を書いた。
私たちは。
「愛しているよ」「大好きだよ」って、何度も書いて伝えあった。




春は私に、今年も声をかけてくる。


4年生になったら、学校はどうするの?
フリースクールを探すの?
双子兄の療育の結果を聞きにいかないといけないよ?
三男はトイレトレーニングをしないといけないよ?
次女も不登校になるかもよ?
双子はついに年長だよ?





知ったこっちゃねえ。



春の風に、今年の私は負けやしない。

私はここに立ち続ける。
家族の中心、ど真ん中。
強い風も吹けや吹け。

私にはこの場所がある。
根強く張った、noteの居場所。
仲間の声が、風を突き抜けてこの耳に届いてくる。


一緒にいるよって。


これからもこの場所で。
あなたと一緒に書いて生きたい。
だから、春が私を呼んだって。
もう私は迷わない。


ねえ。
あなたにも春の風の声が聞こえる?
じゃあ、一緒に書きましょう。


書いて書いて、書いた先で。
風の通り道のこの先で
またあなたと出会いたいから。








書く人へのエールって。
なにかな。と思ったとき、
まず書いて救われている自分にフォーカスがあたりました。
書いてこそ救われる思いがきっと、誰にでもあるのではないか。
言葉にしなければと気負わずにいてもいいのではないか。
言葉を声にすることが難しい人にこそ、この場所が必要なのではないか。
そんな気持ちがわきあがりました。

灯火さん。
素敵な企画を、ありがとうございます。
これからもともに、書き続けられることを願って。







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