雄鶏もせめて、パンツぐらいは履いておけ【短編小説】
「ねえ、どう? どうだった?」
昨日今日会った男と身体を重ね合わせたあとの会話ほど、この世に必要のないものなんてない。だから今、こうして昨日出会ったこの男がイキイキとした顔で、私の顔を覗き込んできて感想を求めてくるなんて、ありえないったらない。
「はあ。………ふつう」
一気に白けた私は、多少しんどくなって重みが増した気がする身体を起して、ベッドの下に落ちた下着をひろいながら吐き捨てた。
ばかばかしい。気をつかってほしいなら、もっと優しいオンナを捕まえるべきでしょうね。
下着を「綺麗に畳んでここに置いておこう」なんて考える暇もなく、無造作に脱ぎ捨てるあの瞬間だけが唯一、情熱的と言ってもいい時間。あとはもう、消化試合。感じてるフリすらできやしない。
やっぱり、この身体をまるごと満たしてくれる男には、生きているうちにはもう出会えやしないのかもしれない。
「あーーーそうかあ~…………。だめかあ!」
男は、ギシッと大きな音を立てて、まさしく大の字になってベッドに仰向けに倒れた。
これが青春漫画かドラマかなにかで、私が行きずりのオンナなどではなく、魂をぶつけ合った男同志だったのなら、ここで手を差し伸べたのかもしれない。
でもさ、俺ら、こっからだろ!
そんな用意されたサムイ言葉を言いながら、手を伸ばし引き起こしてやったりして。
でも私は残念ながら。昨日、女友達とのカラオケをすっぽかされたので、駅前に寂しそうに立ち尽くしてみて、この演技に引っかかる男と遊んで帰ろうと算段して実際に男をゲットしたろくでもないオンナなので、もちろんそんなことはしない。
「ねえ、どの辺がだめだったの?!」
男は勝手に自分で身体を跳ね起して、パンツも履いていないあらわな状態で、そう聞いてきた。
なにコイツ。
思っているよりも、彼は誰かを必要としてないんじゃないか。自分で勝手に生きていける人間なんじゃないか。
「どの辺が」?「だめだったの」?
そう素直すぎる質問をしてくる彼の瞳がまぶしすぎて、かえってそんな思考に陥った。
「いや……ダメとは私、言ってないでしょ」
「でも、よくもなかったんでしょ?」
「…………ま、ね。…………あー、ろくなオンナではないので~私……」
「え? そんなの関係ないよ。体は女性なんだから、なんというか、立派な。…………ね? あ、変なこと言っちゃった。ははは、ごめんね。
……で。どの辺を改善したらいいと思う?」
男は、「趣味はなんなの?」の質問も私にしたことがない癖に、そればっかり聞いてくる。
なにコイツ。やっぱり、なにコイツ。
私はもう、どう考えても聞こえていたけれど、聞こえないフリを貫くことにした。この狭い狭いベッドしかないホテルの部屋を出たら、もうそこからは他人のフリをしてサヨウナラ。それだけなんだから。わざわざ、アドバイスをする必要もあるはずがないのだから。
「あのね、最後に…………俺が抱いている想い……聞いてくれる?」
私がすでにスカートを履きだしている様子を見て、回答は得られないだろうとようやく察したのか、彼は急にかしこまってそんなことを言い出す。
いい加減、パンツの一枚くらい履けないのか。
「卵を出荷している養鶏場の鶏ってさ、オスがいないんだよ。ほとんど、メスしかいないんだ。だってさ、雌鶏は無精卵だったら、オスがいなくたって産むんだ。有精卵であっても、栄養価は無精卵と変わらない。だったらまあ、オスを飼う意味もないって考えるところが多いワケなんだよね。
……人間、もさ。女性は男がいなくっても、生きていける人は本当に多いよね。なんていうか……男はしょせん。雄鶏にしか。なれないってこと、かなって…………」
俺はさ。そう思うんだよね………
人間の男の大事な部分をあらわにした雄鶏、いやその人間の男は、なんだかすっごくいい笑顔を咲かせて、そう言った。
カーテンを閉めることすら忘れていた部屋に、朝日が差し込んできて眩暈がする。今日がこれから仕事なんて、信じられない。目の前のこの男に、自分の体を明け透けにさらしただなんて、その事実も信じられない。
「なんのはなしですか」
私は吐き捨てて部屋を出た。
ふと、思い出してホテル代の半分くらいは置いていこうと考えたけど、あの雄鶏男の、朝日に照らされた菩薩顔としんなりしょぼくれたアソコが脳裏に浮かんで身体が震えるほどの寒気がして、やめた。
もういい加減。大人になろう。
私は決意して、朝日の下で静まり返った街に降り立ち、まっすぐに駅に向かった。
「男の子は雄鶏にしかなれない」
こちらを再生させていただきました!
一気にやってみたんですが楽しかったです!すのうさん、回収作業お疲れ様です✨素敵な企画をありがとうございます!
月曜日に、密かに通信を待ちわび、仲間のロジウラ―たちの活躍を眺めていた私です。この存在を知った頃にはすでに「路地裏の方がむしろ表側なのでは?」「表と裏とはなんなのか?」といった形で混乱するくらいには路地裏に仲間たちが多く吸い込まれ済でありました。
ということで自分は外側からこの路地裏を眺めていれば大変満足であったのですが、今回のすのうさんの企画に参加するにあたり、これを機会にこの言葉をついに言いたくなった、「そっち側」に行きたくなった次第です。ああすごいなんとも言えぬ気持ちです。
コニシ木の子課長、作業を増やしてしまいますことお許しくださいませ。
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