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「イヤ」って言えるオンナになろうぜ。|不登校・発達障がい育児日記

今朝。次女が泣いた。
静かにしくしくと、音もなく泣いていた。


「どうしたの? 学校で、イヤなことがあったの?」


バタバタと化粧をして朝の身支度をする私に代わって、夫が次女にやさしく尋ねているのを、パウダーを顔にはたきながら耳にしていた。次女の傍らには、長女が座った。


その涙がこぼれる前。
先週末から、次女は学校を早退しがちだった。
「疲れた」「しんどい」「お腹がいたい」「元気がない」などいろんな理由を並べて、学校でも横にならせてもらうなどしていたらしい。金曜日にはみかねた担任の先生が電話をくれた。


『勝手な私の判断で申し訳ないですが、次女ちゃんが最近しんどそうで。自分から『お休みしたい』と言い出すこともできたので、これは進歩だと思っています。だから、今日は給食後に、お迎えに来ていただけますか?』


そんな言葉にむしろ「ありがとうございます」と返しながら、私は長女とお迎えに行った。当然のごとく、長女は自宅にいた。そしてたまたま、私は在宅にさせてもらっていた日だったのもあって、幸いだった。


学校に到着し、長女と教室に向かう。
教室の後ろにパーティションを置いてもらい、その中でひとりのスペースを作ってもらっていたようだ。その中からひょっこり顔をだす次女は、明らかに「ホッ……」とした顔をこちらに向けた。だから、よかった。と思った。


そんなこんなで。
彼女の様子があまりよくないことは把握しつつも、そうはいっても自分の仕事も今週は卒業式Weekにて候、怒涛のお仕事まったなしで、なかなか次女の気持ちを聞いてあげることができなかった。
そんなこんなでの、今朝の次女の涙があったのだった。


「Hちゃんが……」
「Cちゃんの……」
「Sくんも……」

次女の話を通訳した夫の話によると、
次女の親友のHちゃんが、クラスのCちゃんと毎日喧嘩をして、Hちゃんはいつもイライラしたり泣いちゃったりする。それを見ているとツライ。悲しくなっちゃうの。かわいそう。
ということだ。


なんて尊い涙なんだろう。
そして、その優しい涙を我慢していた健気さに気づけなかったことに、ごめんね、と思った。



次女はHちゃんともちろん仲良し。だが、Cちゃんはやたらと次女のことを気に入ってくれている。
「次女ちゃんほんとに今日もかわいいわね💛だいすき💛とってもかわいいわよ💛いっしょにあそびましょう!弟君たちもかわいいわ。すべてがかわいいわ!」
もう口調もほんとにこんなかんじなのだ。

「ぼくはYちゃんにもいつもあそぼって言われるし……困っちゃうしさ……」

次女、完全にモテキだった。

「それから、Sくんは本当にさわがしいの……ほんとにコレは直らないとおもうの……」

S君に関しては、突然のとばっちりだった。
しかしながら、「うるさい」というのは、ASDやADHDの子にはなかなかハードな環境なのだ。


「次女ちゃん、イヤだったんだね。言えたね。えらいよ。パパがじゃあ、先生に言っておくからね。えらかったね」


夫がそういって次女の背中をさすり、長女はそっと隣にいた。
「やさしいね」といって、ただ隣にいた。
身支度を終えて私は、次女の前にしゃがんで涙をぬぐう。


「じゃあ今日はお休みして、ゆっくりしてね。そして今度学校でそんなことあったら、必ず、先生に言ってね。この前『しんどい』って言えたの、えらかったって先生も言ってたよ。だから、これからは友達のこともなにかあったら、『イヤ』って必ず言ってね。練習だよ」


私は、涙でほてった彼女のほっぺを包んだ。
次女は、うん。と小さくうなづいた。


「次女ちゃんはやさしいなあ。ママから、生まれたからだね」


私と次女を見つめて、長女は言う。
あなたに似ているからだよ。と、私は言った。
きょうだいだもんね。と、長女は次女をみた。
次女はようやく、にっこりとした。


次女が落ち着いてから、バタバタとみんなで車に乗り込んで、保育園に向かった。いつものように、3列目のシートに次女は長女と乗り込んだ。
2列目には、双子と三男がぎゅうっと乗る。

最近、「だいじょーぶ?」という言葉を覚えた三男が、なにを思ってか、次女にささやいている。健気だわ……と思ったら、自分が落としたお菓子に向かって言っていた。多分それは大丈夫ではない。

双子は、今日は食育だ。ということで、なんともスムーズに車に乗り込んでくれた。
双子兄が何度も何度も、
「ねえ!今日のしょくよく、楽しみだね♪」
と、双子弟にいう。
「なにやるんだろうね!」
と、健気に何度でも回答を送る弟。

「「しょくよくじゃねえ! 食育だっつーの!!」」

いつものように、厳しめのお姉さま方のツッコミが入る。


いつものように。
いつものように。


「じゃあ、いってきまーす」


保育園組とともに車を降り、私は保育園からの出勤。
車から降りると、「今日はなにしようか」と、ワクワクしている様子の姉妹が視界に入る。




よかったね。
いいじゃないの。
お互いがいてくれて。よかったね。






月に一度の、長女の児童精神科の通院は続いている。

はじめて言った日から、先日で4回目ほど。
部屋に入ってお話をするたびに
「今日もいたずらっ子なお顔をしているね」
「元気そうじゃないの~」
そう言ってなごませてくれるシロ先生。


そして必ず、短い時間の中で、核心に迫る言葉を残してくれる。


「もうすぐ新しいクラスになるわけだけれど。きっと、イヤな子って、いたんじゃない?クラスの中に」

長女は、同じ質問を私がしてみても、その話題を避けて答えてはくれなかった。「言いたくない」というのだ。

だから同じように、最初はやはり、そのシロ先生の言葉にも困った笑顔を見せていた。
人のことを「イヤ」なんて言ってもいいのかな。
そんなことを考えている繊細な彼女の気持ちが、私にはよくわかった。そしておそらく、シロ先生にも。


「あのね。『イヤ』なら、『イヤ』って言おう。言っておこう。学校の先生にもそれは伝えておくんだよ。もしかしたら、次、おんなじクラスにまたなるかもしれないでしょう。そういう心配なことはなくしておかないと。そういった子の気持ちにはちゃんと配慮するように、話し合いもされるようになっているんだから」

だってさ、僕ってけっこう、えらい人なんだよ? 嘘はつかないよ!
シロ先生はおどけて、そう言ってみせた。実際、教育委員会かどこかで、いろんな施策を決める会議にも参加するような権威の方らしい。
その経歴以上に。先生の言葉は、心にも身体にもじいんと奥底まで響いてくるから、不思議だ。

長女は少しうなだれたように「うん……まあ思い出したら……」とこたえた。




そして彼女は後日。担任の先生との面談で。
「誰と同じクラスになりたくないとか、言っておいたら?」
私の耳打ちに対し、悩みに悩んだあげく、ゆっくりと時間をかけて、こたえてくれた。


「なにがイヤ」とか「こういうことがあった」とは、言わないけれど。
誰と同じになりたくないということを伝えることができた。

これは彼女にとって、とても大きな前進だった。

「先生、会議でみんなにこれ、伝えるからね。クラス替えのあとも、こういうことがあって……とか、イヤなことがあったら言ってね」

いっしょに辛抱強くその答えを待ってくれた担任の先生はそう言ってくれた。帰り道の長女は少しだけ、肩の荷が下りたような、ホッとした顔をしていた。


思い出せたら、なんて言って。
ほんとはいつだって忘れてなんか、なかったよね。
私は言葉には出さずに、辛抱強すぎる彼女の手を強く握った。




「そんなことしていいの?」
「こんなのっていけないんじゃないの?」


長女の口癖だ。
いろんなリスクも考えて、人の気持ちも考えて、その後の展開も考えて。
考えすぎるところ。やさしすぎるところ。
それが長女自身を苦しめていることを、彼女自身もわかってきている。


「でも。心配なの」
長女は困ったようにいう。これはもう、性分なのだ。


だからこそ。
これからの、未来の自分のために大事なこと。


「イヤ」なら「イヤ」だと言ってみよう。


「いいよ」
「大丈夫だよ」
そんな言葉、意外と期待されてないかもよ。

「イヤ」

そう言ったら
「ああそうなんだ」
そう気づいてもらえるかもよ。
以外とそんなもんかもよ。

言わなきゃ伝わらないことが、あなたたちが思っている以上に、この世にはたくさんある。
「イヤ」じゃないなら「大丈夫だろう」
そう勝手にみなされることだってある。

でもさ、ママも苦手なんだよ。
「イヤ」と言えない性分なの。これは、じいじもそうだったな。
遺伝なのかもしれないね。
だから、これからいっしょに練習していこう。


自分の気持ちは、伝えていこう。
声に出していこう。
声に出なかったら、書いてもいいね。
タブレットで打つ練習もいいね。
今ならいろんな方法がある。
なんでもいいよ。
いっしょに考えていこう。



あのね。



ママ、シロ先生と会った日の約束、忘れてないよ。
次の年度からは、朝の2時間、時短をとったよ。
朝にバタついて「はやく返事をしてくれ」っていう焦りはもう、見せないでいられるといいな。いっしょにいられる時間がふえて、もっとあなたたちの気持ちがよく見えるといいな。

それでもね、たまにママ、見せちゃうかもしんない。
「はよしてくれ」オーラ。
見えちゃってる?

そしたら、言ってね。

「ママ、そういうのはイヤ」って。
いつでも教えてね。




あなたたちの「イヤ」を、ママは、いつでも待ってるよ。









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